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『ブレードランナー ファイナル・カット』をIMAXで観た

『ブレードランナー ファイナル・カット』をIMAXで観た

SFカルト映画の傑作、。オリジナルは1982年公開だが、2007年に『ファイナル・カット』版が公開。そして今回、2週間限定ながら版が公開された。

冒頭の「ロサンゼルス 2019年11月」の字幕には、感慨深いものがある。近未来を描いた作品だが、現実世界もついに2019年になっているのだ。続いて、夜のロサンゼルスの街に炎が吹き出す光景に引き込まれ、ヴァンゲリスによる音楽がシアターの後方側面から前方へと流れてきて、これだけでぞくぞくしてくる。ピラミッドのようにそびえるタイレル社は、更に強大で美しく仕上がっている。IMAXは伊達じゃない。

何度か繰り返し観ている作品なので、ストーリーはおおよそ知っているつもりでいた。しかし、改めて気づくこと、思うことがいくつかあった。

デッカードがレイチェルをレプリカントと見抜いた後のタイレル博士との会話が、非常に興味深い。バッティたちネクサス6型にはリミッター(寿命)を設定しているが、レイチェルに関しては「試作品」としていて、リミッターをつけているともいないとも言っていない。ラス前のガフのセリフは、終盤での劇中のキャラクターや観客へのミスリードになっているように、今回ワタシは思った。

また、レイチェルにはタイレルの姪の記憶を移植しているが、今まで観てきたときはこのことを特に気にしなかった。しかし、彼女が『試作品』であることと、バッティたちからは記憶に関する発言がないことから、レプリカントへの記憶の移植を施したのは、レイチェルがはじめてだったのではと思う。記憶を持たせたのは、感情を芽生えさせるため。より人間に近づけるためだ。レイチェルは、記憶があると思い込んでいたゆえに、自分が人間だと思っていた。

バッティは、終盤でのデッカードとの攻防にインパクトがありすぎるため、作業用、果ては戦闘用レプリカントのイメージが強かった。だからこそ、事切れる間際の詩的なセリフに重みがあった。しかし今回観て気づいたのは、詩的なセリフは序盤でレプリカントの目を作る男にも投げかけている。そして、タイレルとはレプリカントの寿命についての科学的な口論でも渡り合っていて、知能も秀でていることが伺える。タイレルと会うための取っ掛かりとして、セバスチャンにチェスの一手を授けていたし。

『ブレードランナー』が傑作たるゆえんのひとつは、人間ではないレプリカントが人間らしくあろうとするところにある。そしてその視点は、記憶を持たず4年しか生きられないバッティたちネクサス6型と、記憶を授けられ自分がレプリカントだと気づいていなかったレイチェルとの、2つの方向から描いている。

『ファイナル・カット』を観て改めて思うのは、『ブレードランナー2049』の続編としての忠誠心の高さだ。初見では、デッカードやガフが登場していることに注目しがちだった。しかしレイチェルに託された可能性は、レプリカントが子を授かるという、衝撃的かつ革命的な局面として描かれた。主人公のKも、自分の中にある記憶から、もしかすると自分が、という可能性いや願望を抱いていた。音楽を手掛けたのは、今や映画音楽を手掛ける人の代表格であるハンス・ジマーだが、実はヴァンゲリスの音楽にかなり寄せていたのだ。

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