ガタカ(1997年)
遺伝子操作が可能になった近未来。遺伝子操作により生まれた子は適正者、そうでない子は不適正者となる。不適正者は適正者よりも勉学やスポーツなどで劣り、就職でも差別を受けていた。
不適正者のヴィンセントは、宇宙飛行士になるのが夢だった。そのための知力と体力を磨いたが、血液検査で不適正者であることがばれ、不採用になる。しかし、闇のブローカーと取引し、適正者だが下半身付随のジェロームを紹介される。ジェロームは、自身の生活を保証することを条件に、血液や尿などを提供。ヴィンセントはジェロームになりすまし、ガタカ宇宙局に就職する。
ヴィンセントは痕跡を残さないために常に細心の注意を払っていたが、自分を不適正者と疑っていた局員が何者かに殺害され、その現場を見に行った際に自身の髪の毛を落としてしまう。宇宙飛行士に選ばれ出発直前というタイミングだが、自分に容疑者の疑いがかかるのでは、そして適正者になりすましていることがばれるのではと、刑事の捜査に怯える日々を送る。
ヴィンセントがやっているなりすましは、この世界の中では不正いや犯罪行為だ。しかし、観る側としては身元がばれないかとハラハラしつつ、どこか応援したくなる。それは、遺伝子によって運命をあらかじめ決められてしまうことへの反発であり、自分で自分の運命を決めようとあがくヴィンセントへの共感だ。
実は、ブローカーやジェローム以外にも、何人かにはヴィンセントが不適正者であることがばれてしまう。宇宙局の同僚で恋人のアイリーン、ラス前に血液検査した医師、そして事件を捜査している刑事アントンだ。アイリーンは適正者だが心臓が弱く、宇宙には行けない。医師は息子がヴィンセントのファンだと言い、検査結果を書き換える(恐らく息子は不適正者なのだと思う)。
そしてアントンは、ヴィンセントの弟で適正者だった。子供の頃、ヴィンセントは何をやってもアントンに勝てなかったが、海での遠泳ではじめて勝ったとき、家を出て自立する。捜査でもアントンはヴィンセントに脅しをかけてくるが、ヴィンセントは遠泳の勝負を持ちかけ、そしてアントンに勝利して認めさせる。
ジェロームとアントンとの関係も、興味深い。ジェロームは水泳のオリンピック選手で銀メダルまで獲得したが、下半身付随になった原因はなんと自殺未遂だった。想像になるが、向かうところ敵なし状態だったのに、それでも金メダルには届かなかったという無念さが、自殺に向かわせたのだと思う。2人はは決して仲がよかったようには見えなかったが、ヴィンセントが宇宙へと飛び立つ直前、ジェロームは用意できるだけの血液や尿を残し、自分の痕跡を残さないために自ら焼却炉に入る。銀メダルを首にかけて。
ヴィンセントはイーサン・ホーク、ジェロームはジュード・ロウ、アイリーンはユマ・サーマン、アントンはローレン・ディーンという人。イーサン・ホークにとって、本作は「リアリティ・バイツ」に並ぶこの人の代表作になりうるのではと思う。ジュード・ロウとユマ・サーマンは、共に目力がすごい。監督はアンドリュー・ニコルで、「ロード・オブ・ウォー」「タイム」などを手掛けている人だ。
イーサン・ホークとユマ・サーマンは、本作での共演をきっかけに結婚(2004年に離婚)。長女マヤ・ホークは、『アステロイド・シティ』に出演するなど、現在女優として活動中だ。
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