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「ダークナイト」をIMAXで観た

ダークナイトIMAX版

2008年公開、が監督したバットマンシリーズ「ダークナイト・トリロジー」の2作目にして、大傑作の誉れ高い作品だ。今回版として上映され、この作品の理想形・完成形になるものと思う。

今では定着したIMAX上映だが、本作の制作時ではIMAX用カメラは世界に4台しかなく、長編作品に適用されたのは「ダークナイト」が初とのことだ。調べたところでは、通常の映画の画面アスペクト比よりもIMAX撮影は広くなっているとのこと。今まで何度かIMAXで観ていることもあり、大画面にして画質が緻密・鮮明なのは知っている。今回、加えて体感できたのは、音だ。爆発時の爆音や振動が、座席を通して伝わってくる。MX4Dでは経験があるが、IMAXでこの感覚を味わえるのは珍しい。

ダークナイトIMAX版

過去に観ている作品につき、ストーリーの大枠はわかっている。その上で、気づかなかった箇所や記憶があいまいだった箇所については、認識を新たにすることができた。前半は、ゴッサム市警/ハービー・デント/バットマン側と、ジョーカー/マフィア側との攻防は一進一退で、一方が先手を取ればもう一方がすかさずやり返し、の連続になる。ジョーカーの強烈にして圧倒的な存在感ゆえとも思うが、敵味方を可能な限り均等に描写している。図式としては市警側がいちおう正義、ジョーカー側が悪ということになるが、一部の刑事警官はマフィアに買収されての裏切りがあり、正義とは何?悪とは何?そもそも正義なんてあるのか?をジョーカーは問うてくる。

後半に突きつけられる絶望を知っていながら観ると、前半のシーン、特にキャラクター間の対峙が、どれも重要に見えてくる。ブルース・ウェイン/ゴードン/ハービー、ブルース/ゴードン、ブルース/ハービー、ブルース/レイチェル、ハービー/レイチェル、ジョーカー/レイチェル、ブルース/フォックス、ブルース/アルフレッド、レイチェル/アルフレッド・・・。ブルースの、ハービーの、ゴードンのは、3人のエース。アルフレッドの、フォックスのは、大御所2人だ。前作「バットマン・ビギンズ」のケイティ・ホームズから交代した、レイチェルのマギー・ジレンホール。彼らはいずれ劣らず奮闘し、そして輝きを放っている。

そして、ジョーカーのだ。公開前に急逝してしまったという悲劇性はどうしても無視できないが、それにしても凄まじい。常にピエロのメイク、身元は一切不明、自身の口や両親について語るエピソードは、本当なのか作り話なのかわからない。得体の知れない不気味さは、現実感の薄い作り物のキャラクターっぽい。にもかかわらず、ジョーカーを演じるというよりは、ジョーカーそのものになりきっている。去年観た「ジョーカー」のが、アーサーを演じるというよりアーサーという人物が実在するかのごとくナチュラルだったように、だ。

ジョーカー自身は、手から稲妻を発するとか、触れずに物を動かすとか、といった超人的な能力を備えていない。使うのは、ナイフや銃器など通常の人間が手にするのと変わらない兵器だ(そのほかに強いて挙げれば、携帯電話をかなり巧みに使っている)。権力への欲があるわけでもなく、金にも執着がなくて交渉の道具としてしか扱っていない。ではジョーカーの強味はというと、モラルの欠如に加え、人の弱みにつけ込んで心を揺さぶる能力に驚異的に優れている。そして頭の回転が早く、行動にも迷いがない。それゆえ、ゴッサム市民はジョーカーに恐怖してしまうのだ。

本作のもうひとりのヴィラン(悪役)は、トゥーフェイスだ。ジョーカーたちと戦ってきた検事ハービーが、マフィアの息がかかった市警によってレイチェルと別々に監禁され、結果レイチェルは爆死し、自身は顔面の半分が焼けただれてしまう。しかし、悲しみと恨みの痕跡を自身の中にも残すかのように、皮膚移植を拒否。ジョーカーはバットマンに2人の監禁場所を逆に教え、バットマンはレイチェルを救いに行ったつもりがハービーを助け出すこととなり、レイチェル救出に向かったゴードンは間に合わなかった。ハービーは正義よりも運の方が公平という極論に至り、それまでも使っていたコイントスによって、レイチェルを守れなかった市警への復讐を敢行。ホワイトナイト(光の騎士)が、ダークサイドに堕ちてしまったのだ。アナキン・スカイウォーカーがダース・ベイダーへと変貌したように。

IMAX版とはいえ、復刻上映の部類に入ることから期待はしていなかったが、パンフレットが販売されていたので、購入した。ストーリーは終盤まで踏み込んで記述されていて、かなりネタバレしている。ノーランおよび主要キャストへのインタビューでは、当然のようにヒース・レジャーについての質疑が盛り込まれている。現在は傑作の地位を揺るぎないものとしている「ダークナイト」で、ノーランもクリスチャン・ベールも映画界でのステータスを確固たるものとし、ヒースはこの役によってアカデミー助演男優賞を獲得。そうした事実を知った上でこのパンフを読むと、感慨深いものがある。

実は、ワタシは2008年の劇場公開を逃してしまい、ビデオでしか観ていなかった。正確には、劇場には行ったものの、混雑のため朝1回しかなかった上映にチケット購入が間に合わず断念していた。傑作と絶賛する一方、劇場で観れていない後ろめたさが、いつも心のどこかにあった。しかし、それももう終わりだ。

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