哀れなるものたち(ちょこっとネタバレ)
ある女性が、橋から身投げして自殺を図る。科学者のゴッドウィン・バクスターは彼女を蘇生させ、ベラと名づけて自身の屋敷内で日々教育する。体は大人だが、精神は赤ん坊のベラ。しかし、言語をはじめ学習スピードは驚異的に早かった。
ゴッドウィンに師事するマックスは彼女の世話係となり、やがて互いに惹かれ合う。ふたりは婚約するが、ゴッドウィンに婚前契約書の作成を依頼されたダンカンは、彼女に外の世界を見せるべきだと提案。ふたりでリスボンへ旅立つが、ベラははじめて見る外の世界に大きな刺激を受け、ダンカンは無垢な彼女を弄ぶ。
賞レースに絡んでいるという情報と、あらすじのさわりだけをもとに、劇場に足を運んだ。文芸路線かと思いきや、中盤での性描写全開ぶりに驚愕させられ(終演後に確認したら、R18指定だった)、一時はちゃんと着地できるのかと不安にさせられた。
ベラはエマ・ストーン。迷いなく露出しハードなシーンもこなす彼女は、主演のほかプロデューサーも兼任。実質赤ん坊状態だった序盤と、ラストでの堂々たる大人の女性の佇まいには大きな落差があり、それはベラの成長だ。そこに到達するまでに受ける、偏見や差別を克服するさまにこそ、エマは惹かれたのだと思う。
ウィレム・デフォー演じるゴッドウィンは、自らを科学者と言っていたが、外科医の力量も備え、そして自身は父の実験台にされ続けたことを劇中で何度か語っている。一時はマッドサイエンティストかと思われたが、ベラには慈愛を以て接した。この人の唯一のミスは、ダンカンとベラの旅行を許してしまったことだ。
ダンカンは、マーク・ラファロ。マーベル・シネマティック・ユニバースでのブルース・バナー/ハルクや、『スポットライト』での記者役など、誠実なキャラのイメージを持っていた。しかし本作では、エマとの色欲に溺れギャンブルに興じる一方、常識を持たないエマに振り回され続けてついに彼女のもとを去るという、ほぼほぼ共感できないキャラを演じている。
監督はヨルゴス・ランティモスで、エマ・ストーンとは『女王陛下のお気に入り』に続くタッグとなる。エンドロールがかなり独特で、キャストはスクエア型に掲示され、途中から目で追うのを断念して映像の着目に切り替えた。劇中、ベラの旅路はリスボンからアレクサンドリア、パリと渡り、そしてロンドンに戻るが、街の描写はほとんどCGのようだった。
原題は「poor things」で、直訳すると「かわいそうなこと」だった。かわいそう、いや、邦題に沿えば「哀れなるものたち」だったのは、果たして誰だっただろうか。
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