ランナウェイズ(映画・2010年)
1970年代半ばのロサンゼルス。ロックスターになることを夢見るジョーン・ジェットは、プロデューサーのキム・フォーリーからドラマーのサンディ・ウエストを紹介されたことをきっかけに、女性だけのロックバンド結成を思い立つ。ジョーンはバーで見かけたシェリー・カーリーをヴォーカルに迎え、ランナウェイズとしてデビューする。
日本公演を成功させたランナウェイズだが、来日前にキムが連れて来たカメラマンが撮影したシェリーの写真がポルノ系雑誌の表紙にされていたことから、バンド内に不穏な空気が流れる。ジョーンはバンドが色モノ扱いされてしまうと反発し、ギターのリタ・フォードはシェリーばかりがクローズアップされて、自分たちはバックバンド扱いだと不満を漏らす。
70年代後半に活動していた、ランナウェイズの伝記映画になる。シェリーの自叙伝をベースにし、ジョーンが製作総指揮のひとりに名を連ねるなど、バンド公認と言っていい作品だと思う。シェリーには双子の姉マリーがいること、結成時は全員が10代だったこと、看板曲『Cherry Bomb』はシェリーのために短時間で書かれた曲であることなど、バンドを取り巻く状況がとても興味深かった。
キャストは、ジョーンはクリステン・スチュワートで、5人の中では彼女が最も本人に似ている。ラストは、ソロ活動で『I Love Rock'n'Roll』でヒットを飛ばす彼女がラジオ出演するシーンだが、ピンクのジャケット姿が同名アルバムのビジュアルまんまで、驚かされる。クリステンは、劇中でも数曲を自ら歌っている。
シェリーはダコタ・ファニングで、こちらはぶっちゃけ本人よりもかわいい(笑)。体を張り、コルセットにガーターベルトの下着同然の衣装でステージに立つ姿や、一方でドラッグとアルコールに溺れる姿は、『アイ・アム・サム』『宇宙戦争』での天才子役のパブリックイメージを打破している。
シェリーの姉マリーがライリー・キーオで、母がリサ・マリー・プレスリー、つまり祖父はエルヴィス・プレスリーだ。本作がスクリーンデビューになり、この5年後に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に出演している。シェリーとはとてもよく似ていて、髪型を変えてダコタが二役やっているのではと思ってしまった。
ランナウェイズの活動期間は短く、商業的に大成功したとも言い難い。なのに、こんにちまで名が知られているのは、ジョーンやリタのソロでの成功ももちろんあるが、女性オンリーのロックバンドの原形的存在になっているからだと思う。70年代当時は女性がロックをやること自体皆無に近かっただろうし、それをやってのけてしまったのは奇跡に近かったのではないだろうか。
ジョーンにはロックアーティストとしての明確な意思があったが、シェリーには何を考えているかわからない不敵さが漂っていた。若い頃のイギー・ポップにも通ずる危うさだが、それでもシド・ヴィシャスのように生き急ぐことなく、実在の彼女がこんにちまで存命していることにほっとさせられる。エンドロール直前のクレジットによると、若い頃の経験を活かしたセラピストや、チェーンソー彫刻作家として活動しているそうだ。
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