戦国自衛隊(1979年)
伊庭義明三尉率いる自衛隊一個小隊が、演習参加の準備中に突如戦国時代にタイムスリップしてしまう。武将長尾景虎は戦車やヘリなどの兵器を見て、伊庭たちを仲間に引き入れる。小隊と景虎の軍勢は、景虎に敵対する武将の軍を倒し、戸惑う小隊の隊員たちは戦いの中で状況を受け入れざるをえなくなる。
隊員たちは、現地の住民と触れ合ったり、あるいはもっと別の場所に行けば現代かもしれないと考えて隊を脱走したりする者もいた。かつてクーデター計画を伊庭に潰されたことで逆恨みしている矢野は、数名を部下とし引き入れ、哨戒艇を奪って隊を離脱。村を襲っては略奪や強姦を繰り返す。説得に応じない矢野に対し、伊庭は粛清を決意する。
半村良原作の小説を、角川書店が映画化。昭和の軍事兵器が戦国時代で戦闘し歴史に介入するという奇想天外なプロットは、当時かなりのインパクトがあった。今はタイムリープものが溢れているが、そのはしりと言ってもいいかもしれない。マラソンランナーとして期待されていた隊員がトレーニングしていた頃のシーンや、上記の脱走者と駆け落ちするはずだった女性が男を待つシーンなど、時折現代の映像も挿入されている。
CGのない時代だが、戦車やヘリ、哨戒艇にミニチュアを使った様子はなく、恐らくほとんどのシーンで本物を使っている。『野性の証明』では、ラストで戦車群が高倉健演じる味沢を追い詰めるが、本作では序盤から全開だ。同年に公開された『地獄の黙示録』ほどのスケール感はないにせよ、日本映画でここまでやったのは快挙だと思う。
クライマックスは小隊と武田信玄軍との戦いで、現代兵器があるとはいえ数で大きく劣る小隊は、伊庭が信玄の首を取ったことでなんとか勝利するものの、隊員の多くが戦死し、兵器を失ってしまう。伊庭と景虎は京で合流し天下を取ることを誓い合っていたが、将軍義昭は得体の知れない伊庭たちを認めず、討伐を命じる。景虎は、自らその役を買って出る。
原作は未読だが、コミック版を読んだことがある。そこでは、伊庭は死の直前に自分が織田信長だと気づき、伊庭たちがタイムスリップさせられたのは歴史を修正するためだったというナレーションが入った(と記憶している)。映画ではそこまでの断定は見られず、当初は歴史に関与することで現代に戻れるかもしれないと模索していたが、やがては戦国の世で命のやりとりをすることに魅入られてしまった。
キャストは、伊庭に千葉真一。小隊の面々には、矢野の渡瀬恒彦をはじめ、脱走する菊池をにしきのあきら、三浦洋一、鈴木ヒロミツ、かまやつひろし、竜雷太、角野卓造、倉石功など、豪華顔ぶれが揃う。個人的には存じ上げないが、本作では重要な役割を果たしているふたりが、伊庭の参謀格の県の江藤潤、スナイパー三村の中康次だ。
戦国時代側のキャストは、景虎に夏八木勲。景虎の主君の武将を小池朝雄、伊庭と景虎に最初に討たれる武将を岸田森、将軍足利義昭を鈴木瑞穂、将軍の腹心に仲谷昇と成田美樹雄、武田信玄の息子勝頼を真田広之。住民では、三村と恋仲になる女性が小野みゆきだった。現代で菊池を待つ女は、岡田奈々。小野と岡田はひと言も台詞がなく、表情や仕草だけでの演技だった。
更には、角川映画お得意?の特別出演もある。角川春樹が武田軍の真田昌幸、マラソンランナーの隊員のコーチに勝野洋、農民のひとりに草刈正雄、子供の兵士に薬師丸ひろ子。草刈は、本作の後に公開された『復活の日』に主演。薬師丸ひろ子は、前年に『野性の証明』でスクリーンデビューしたばかりだった。
豪華キャストだが、千葉真一と夏八木勲の存在感が突出している。千葉演じる伊庭は、時に冷静、時に大胆な行動力で個性派揃いの隊員をまとめあげていた。夏八木演じる景虎は、姑息な主君にはあっさり見切りをつけ、天下取りの野望を燃やす。ひとつ思うのは、他人に討たれるくらいならと自ら伊庭を討った景虎は、この後どう動いただろうか。
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