ひとごろし(1976年)
剣豪の仇討ちを名乗り出た武士の六兵衛は、実は臆病者で剣もまともに使えない、町の笑い者である。自分はおろか、妹にまで縁談の話が来ないことを妹に責められて名乗り出たのだが、とりあえず旅をする剣豪を追いかけたはいいが、剣で勝負などできるはずもなく、剣豪ににらまれては逃げ惑うばかり。そんな六兵衛がとっさに放った「ひとごろし~」という叫び声に民は反応し、これでいけるとばかりに、六兵衛は剣豪を追い詰める。
山本周五郎の原作で、一見どぎついタイトルとは裏腹に、武士と武士の一騎打ちとは異なる心理戦を、テンポよくかつコミカルに描いている。ふつうに戦えば剣豪が秒殺して終わりそうなものを、臆病者であるはずの六兵衛が徐々に剣豪を追い詰めるさまは痛快だし、剣豪が実は泳げなかったという設定も面白い。そしてラストだが、思いもよらなかった上手な終わり方をしている。
六兵衛を松田優作、妹を五十嵐淳子、剣豪を丹波哲郎が演じている。松田優作が時代劇をやっているというのがまず意外で、びびりまくっているキャラクターを演じているのもある意味貴重。ただ、この人は人間なんてカッコいいものじゃないというのが口癖だったそうで、役を引き受けたのは理にかなっているのかも。びびりでありながら終盤では丹波哲郎を圧倒していて、やはりこの人はすごいと唸らされる。
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