ash 99.2.11:Liquid Room

新宿まで向かう電車の中、窓から外を見ると、雨が雪に変わっていた。特急電車が徐行運転を繰り返し、そのたびに到着時間が後ろにズレ込む。去年のリサ・ローブU2のライヴを思い出してしまう。このまま雪が積もって、電車が止まってしまって帰れなくなったらどうしよう、という不安が頭をよぎる。


 雨で滑りやすくなっているリキッドの階段を登り、やっとのことで場内にたどり着く。既に人ひとでごった返している。確かソールド・アウトのはずなので、ロッカーはとっくに満杯。荷物を手にしたままカウンター席の後方に陣取ることにする。ステージ上ではDJが皿を回している。・・・がしかし、定刻の7時を過ぎても、一向にDJプレイが終わる気配がない。ピールアウトという日本のバンドがオープニングアクトを務めるはずなのに、これじゃ終演時間が結構遅くなるな、とまた不安が頭をよぎる。





 午後7時を15分過ぎた頃だろうか、DJが姿を消し、客電が落ち、メンバーがぞろぞろと入ってくる。なんだ、ピールアウトには外人のメンバーもいるのか・・・って、ち、違う!ashだ!ashだ!い、いきなり出てきたぜ!どういうこと、これ?結局この日の公演ではピールアウトは登場しなかった。もともとタナボタで楽しむつもりだったのだが、ちょっと残念だった。2年前のashの来日公演、ハコはやはり同じリキッドで、まだメジャーデビュー前のプリ・スクールがオープニングアクトを務めていたことを思い出した。


 新作『Nu-Clear Sounds』の1曲目でもある『Projects』でスタート。新たな息吹き、何かが始まる予感、期待感を抱かせるメロディ。予想通り、というか、まさにスタートにもってこいの曲である。そして、客のノリが異常にイイ。のっけから大モッシュ、そしてボディサーフも起こる。激しいな。私見だが、日本にはこんなにashファンがいるのが信じられなかった。こいつらって、そんなに凄い奴らだったのか。もちろんそのバンドも激しい。フライングVを荒々しくかきむしるティム。ハードで、スピード感溢れていて、シンプルで、見ていて、聴いていて、気持ちがいい。ラストの「Ecstasy~Ecstasy~」のところは大合唱となる。オフィシャル?の女性カメラマンが、ステージに腰掛けて観客の暴れている様をカメラに収めている。


 続いては『Trailer』からの『Season』。もうこのアルバムからはほとんど演奏されないのでは、と勝手に思っていただけに、正直意外な気がした。しかし、バンド側にとってはメジャーの2枚のアルバムと同格の想いがあるのだろうか。そして、3曲目で早くも『Angel Intercepter』!もうなんか、あまりにも思いっ切りがよすぎて、余計な理屈をこねるのもなんかばかばかしくなってくる(逆に、その前に見に行ったマニックスは、いろいろと理屈をつけて語りたくなるバンドだ)。このレビューも、ひとこと「よかった。気持ちよかった。」で終わってもいいぐらいだ(笑)。


 更に、『A Life Less Ordinary』を、この前半部で惜しげもなく放ってしまう。この曲で新たにashのファンになった人も多いだろう。『1977』と『Nu-Clear Sounds』とを繋ぐパイプとして、サントラ『普通じゃない』に収録されたこの曲。ashなんて所詮ガキの集まり、セカンド出せずに消えてしまうUKバンドの急先鋒だろうと私は思っていた。もっとはっきり言えば、ナメていたのだ。ヴェルーカ・ソルトが解散し、エラスティカもセカンドを出すのか出さないのかはっきりできずぐずぐずしてるし、メンズウェアは売れないとわかった途端にメディアから見限られてるし。ashもそうしたバンド群と同類項でしょ、と私は思っていた。それが、こうきたかのかよって感じだ。なんだか、いいパンチを一発もらってしまって、ポーッといい気持ちのまま気を失って倒れてしまうような、この曲はそんな曲だ。


 『Jesus Says』、あるいは『Death Trip 21』といった曲では、開演前に皿を回していたDJがブースに登場し、曲に合わせてスクラッチする。ビースティーズのライヴレポートで、これからバンドにDJが組み込まれるというスタイルが増えるかも、と書いたばかりなのに、よもやashがこれをやってくるとは。またまたびっくりだ。メンバーはまだ21歳なのに、このしたたかさといったら何なのだろう。





 個人的には、だが『1977』は、単なる曲の寄せ集めにしか思えず、ごちゃごちゃした感じを受ける。個々の曲はどの曲にもパワーを感じるのだが。エネルギーを感じるのだが。『Oh Yeah』もその中の1曲で、当然場内はモッシュしまくりだ。対して、今回の『Nu-Clear Sounds』は、アルバムとしての完成度が高くなった。そして、統一感がある。アルバムのプロデュースは、前作と同様バンドとオーエン・モリスが手がけているが、今回はクリス・キムゼイ(ストーンズやツェッペリンでエンジニアをしていたこともある人、とのこと)も加わっているためなのか。しかし、オアシスを手がけたオーエン・モリスに、今度のクリス・キムゼイ。敏腕プロデューサーがashを認めたのか。それとも、ashがこれらのプロデューサーを吸引しているのだろうか。『Boy』リリース時のスティーヴ・リリイ・ホワイトとU2とになぞらえるのは強引だろうか。


 『Trailer』を含む3枚のアルバムからほぼ満遍なく選曲されてステージは進んでいる。そして、どうしても触れなければならないだろう、新メンバーの存在。gのシャーロットだ。アルバムジャケや、『A Life Less Ordinary』のビデオクリップでは、確か黒い髪のはずだった。それが、もろ金髪で、その金髪を振り乱しながら激しく、荒々しくステージ上をかけ回っている。乱れた髪が顔面を覆い隠してしまって、でもそんなのぜんぜんお構いなし。か、かっこいいっ。しかも、単なるヴィジュアル面の効果だけではない、プレイヤーとしてバンドの一旦をきっちり担っている。まだ10代だぜ。こんな上物、どこで手に入れたんだ(笑)?まるで、歌わないコートニー・ラヴだ。





 もちろん3人の成長もあるのだろうが、ashがこうも化けてしまった理由、こうも重厚でパワフルなバンドに生まれ変わってしまった理由、それは間違いなくシャーロットの加入にあると見る。思えば2年前、メディアはashのメンバーが"若い"ことをひたすら強調した。宣伝文句にしていた。そして、彼ら自身も、自分たちが"若い"ことをひたすら前面に出していたような気がする。アルバムタイトルは、自分たちが生まれた年から取って『1977』、そして、ライヴのオープニングでも、1977年に大ヒットした映画『スター・ウォーズ』のテーマを流していた(偶然なのか、今年はその全9部作の第1作目に当たる作品が公開される。)。私はそれによって、ガキ共、小僧たち、という先入観を植え付けられてしまい、結果、激しいライヴに興奮してしまっていたのだ。まだ若いのに結構やるじゃん、という具合に、だ。


 トリオ編成のashも、それはそれでよかった。バンド編成の最小単位として、好感が持てた。がしかし、音楽性としてはそれまでの流れを継承してはいるが、ライヴバンドとして見た場合、トリオのときとはまるで別バンドだ。そして、もちろん今の方がいいに決まっている。当たり前だが『1977』『Trailer』の曲もシャーロットはきっちりこなしている。『Innocent Smile』では、全員が凄まじいソロを見せつける。そして、途中からシャーロットが見えなくなってしまう。どうやら、ステージ上にうずくまってgを激しく弾いているらしい。まるで昨年チッタで見たソニック・ユースのキム・ゴードンみたいだ。ほんっとに期待以上の暴れっぷリである。


 「次の曲は『Goldfinger』だ。」MCで始めて次の演奏曲を紹介するティム。『A Life Less Ordinary』と並ぶash最大のヒット曲であり、バンドの顔、名詞的存在の曲だ。場内が弾けないわけがない。そして、そのサウンドはアルバムよりもとても重厚な厚みを増している。・・・がしかし、この曲を聴くたびに思うのだが、他の曲に比べると極めて異質だ。ashといえば、どの曲も激しく疾走感に溢れた曲ばかりだというのに、この曲だけは何か老成した、悟り切ったような、そんな感じを受けるのだ。そしてこの曲は、今までも、そしてこれからも、バンドの舵取り的な役割を果たすんじゃないかって、そんな気がしてしまう。





 メロウな『Aphrodite』、そして、これもお馴染みの『Girl From Mars』。数少ない静かな曲もじっくりと歌い、じっくりと聴かせてくれる。肩の力が抜けた、リラックスした感じの曲調に和んでしまう。本編ラストは『Trailer』からの『Petrol』だった。隠れた佳曲であろう。『Trailer』ももう1回じっくり聴き直さなくてはいかんな、これは。・・・そして、あまり間をおかずにアンコール。その1曲目は『Lose Control』だ。ほんっとわかりやすい連中だな。『A Life Less Ordinary』を序盤で演ったことが意外であるほかは(これも実は知っていたのだけど)、節目節目に代表的な曲を散りばめている。場内は再び蜂の巣を突っ突いたような騒ぎになる。


 気のせいか、この日のリキッドは、客入りがあまりないのではないかと思われた。いつもなら、もっとすし詰めに、もっとぎゅうぎゅうに、人ひとでもっと息苦しく、そういう空気になっているはずだった。しかし、なんか爽やかだった。爽快な気分だった。ライヴハウスなんて、空気が悪いと相場が決まっているのに、とってもいい気分だった。私自身は、1週間で計5回のライヴに行くという強行日程、そしてこの日のashがそのラストだった。正直、不安だった。その前のアーティストたちに力入れすぎて、ashまで気が回らなくなるのでは、と不安だった。5回のライヴの中で最もキャリアの浅く、最も話題性に乏しいバンドであったからである。正直、ただその場にいただけで、全曲が右の耳から左の耳を通りすぎて行くだけのライヴ体験になってしまうのでは、という危険性があった。上の空になってしまう危険性があった。


 そして、ステージのラストは『Kung Fu』だった。この日のライヴ、くどいようだが、いい気分だった。あれこれごちゃごちゃしたことを考える余地もなかった。その必要もなかった。恥ずかしい話だが、きっと私の顔面は緩んでいたに違いない。




私の目に映る光景。



私の耳に聞こえるバンドの演奏。



モッシュ&ダイヴを繰り返しているフロアのみんな。



隣で踊っている女のコ3人組。























その全てが、気持ちがよかった。























 私はライヴ前に、雑誌やネット上の情報を収集して、集められる限りの情報を集め、それを吟味してからライヴに臨む方である。しかし、ashについては情報が乏しかった。ネットにあるのは新譜の情報ばかりで、ライヴに関する情報はほとんどなかった。ロッキンオンやクロスビートにライヴレポが掲載されているが、通り一遍で薄っぺらい内容だった。しかし、そんなものは必要なかった。とにっかく楽しいライヴだった。


 外に出てみる。雨は、上がっていた。雪が積もって電車が止まって身動きとれなくなるんじゃないか、という不安は無用だった。少し肌寒かったが、熱した体にはちょうどよかった。




体の疲れも、



気持ちの疲れも感じない、



心地よい、



不思議な空気の中に、私はいた。



たたずんでいた。



温かかった。



気持ちよかった。



気持ち、よかった。




(99.2.18.)



















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