「Death Note」と「ネオ・ファウスト」
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最終更新日:2021/01/11
Death Note 手塚治虫
「Death Note」を観て、そのストーリーや設定や展開から、あるひとつの物語を思い出した。それは、手塚治虫の遺作にして未完の「ネオ・ファウスト」だ。当時朝日ジャーナルに連載されていて、大人の鑑賞に耐えうる作品だ。
タイトルからもわかる通り、ゲーテの「ファウスト」を下敷きにしている。手塚はその生涯の中で3度ファウストを描いており、1作目はゲーテ作をそのまま漫画化、2作目は「百物語」として舞台を日本の中世に置き換えている。では「ネオ・ファウスト」はというと、時代は昭和であり、舞台は日本の大学。主人公の大学教授は、人生のほとんどを研究に捧げたものの、真実にたどり着くことのできない虚しさを覚えていた。そこに悪魔メフィストフェレスが現れ、教授を若返らせて過去に送り、満足が得られればそのときに魂をもらうという「契約」を結ぶ。若返った教授は事業家に拾われ、事業家の死に際して遺産を手にして成功する。
「ネオ・ファウスト」は2部構成になっていて、第2部が始まった直後に手塚の死によって中断している。第1部で主人公は学生運動の活動家と知り合い、彼の精子を受け取っている(その後この活動家は死亡)。関係者の証言によると、第2部では主人公がこの男のクローンを生み出して、地球を滅ぼすほどの力を持つに至るという構想があったらしい。人間の欲の深さや罪深さに対し、希望的に描くべきかそれとも絶望を以って描くべきか。これは手塚自身が追い続けたテーマのひとつだったが、どちらにするか決めきれないまま亡くなってしまったとのことだ。
「Death Note」では、キラがデスノートによって犯罪者を殺すことで新世界の神たらんとし、実際劇中では犯罪の発生率が激減し犯罪の抑止効果を生むという社会現象になっている。手塚が苦悩していたであろう「ネオ・ファウスト」での絶望の導入を、「Death Note」では主人公を最初から悪と位置づけつつ、救世主的な存在にもすることで大胆に実践している。対抗馬として天才探偵Lの存在があるが、そのLもキラを見つけ出して捕まえることに執着し、そのため犯罪者が犠牲になるのも止む無しとしてしまっている。夜神総一郎を始め捜査員たちがLを非難することで、なんとかバランスを取っている形だ。
「Death Note」は、「ネオ・ファウスト」の進化形だと思っている。死神とメフィストの存在もダブっているし。
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