Spiritualized 2009.1.24:横浜Bay Hall

横浜ベイホールに入ったのは、2000年10月のタヒチ80公演以来、なんと約8年ぶりだった。入り口を入って階段を上がったところでチケットのもぎりがあり、ロビーを経てフロアに入ると、あれこんなに狭かったんだと改めて実感。クラブクアトロを横長にしたくらいとでも言えばいいだろうか。クアトロには左前方に柱があってこれが悪名高いのだが、ここベイホールにも左右前方に柱があった。よって私は、柱が気にならないステージ向かってほぼ正面の真ん中辺りに陣取り、開演を待った。





 予定を10分近く経過したところで、客電が落ちた。SEが響く中、真っ先に出てきたのがジェイソン・ピアースその人だった。Tシャツをラフに着こなし、サングラスをかけていてその表情はよくわからない。ではあるが、両手を掲げ拍手をしながらオーディエンスに応えていて、やけに機嫌がよさそうで逆にびっくりした。他のメンバーもそれぞれの持ち場につき、スタンダード曲『Amazing Grace』をロック調に演ったのちに『You Lie You Cheat』へとつなぐ形で、ライヴがスタートする。


 ジェイソンはフロアに向かっては半身の格好で、ステージ上の他のメンバーをも見渡せるように立っていた。ステージ前方中央部分はぽっかりとスペースが空いていて、向かって左にはギターのトニー・フォスター、後方正面にドラマー、その左にベースとキーボード、というのがそれぞれの立ち位置に。そして、ジェイソンの後方には黒人女性コーラスが2人陣取っていた。





 曲は、当然ながら昨年リリースされた新譜『Songs In A & E』からが中心となる。CDで聴いていると、どちらかといえばこのバンドにしては穏やかな方かなあと感じていたのだが、やはりライヴとなれば彼らの持ち味である高度な演奏力と何重にも重なったかのような音の洪水が、観る側に襲い掛かってくる。まるで数10人のオーケストラを編成して演奏しているかのような重厚な音圧が、総勢7名にて発せられているのだ。シングルカットされている『Soul On Fire』は、比較的序盤で披露された。


 狭い場内、近いステージ。メンバーの一挙手一投足が細かく追えるこの状況において、演奏に聴き惚れながらも、各メンバーの動向にも目を走らせた。バンドを支配しリードしているのは、やはりジェイソンだった。自らギターを弾き、ヴォーカルを取りながらも、各メンバーに視線を送り、またメンバーの方もジェイソンを逐次伺っていた。サウンド面においては、実はギターのトニーのリフが、ジェイソンと同等かあるいはそれ以上の重要性を担っていることにも、気づかされた。ジェイソンは曲によりギターを交換していたが、この人は最後まで1本のギターで通していて、またハーモニカも担当していた。目立ちはしないが、バンドのナンバー2としてのこの人の存在感は大きい。





 それにしても、ジェイソンはびっくりするくらい上機嫌だった。曲間に「Thank you」を連呼し、そればかりか「チョットマッテ」という日本語まで。ぶっちゃけた話、今回の来日公演はキャパシティの小さい会場ばかりがブッキングされていて、それでも完売とはならず公演によっては招待券が出ていたらしいのだ。この日は土曜日ということもあって招待こそ出なかったが、それでも完売とはいかず、開演直前にようやくフロア内がそれらしく埋まったという具合だった。


 がしかし、それだけに集まったオーディエンスは熱かった。観る側にとっては恵まれた狭い環境下でのライヴは、音の洪水をフィルターも距離感も感じることなく、ダイレクトに体感できる。1曲毎のリアクションも上々で、それがジェイソンの心を動かしているようにも見えた。私は過去2回スピリチュアライズドのライヴを観ていて、それは2002年のフジロックと昨年のサマーソニックでだった。広い会場や多くのオーディエンスを前にしてのジェイソンは、クールで淡々と職人のように演奏に徹していたように見えた。そのときとのギャップが意外で、だけどこの人の感情が伝わってきて、嬉しい誤算である。


 終盤になると、演奏は更に壮絶になった。『Take Your Time』から『Come Together』へと曲間を切らさずにつながれ、特に後者ではコーラス2人の終盤の追い込みが冴え、ゴスペル調の壮大な雰囲気を醸し出すのに成功していた。本編ラストは『Take Me To The Other Side』で締めくくり、そしてアンコールは『Oh Happy Day』だった。『Oh Happy Day』は、このバンドらしからぬまさに明るくハッピーな曲調だが、この日のライヴを締めくくるのにはぴったりだったと思う。





 私にとって初単独スピリチュアライズドとなった今回のライヴだが、当然ながら非常に満足度の高いライヴとなった。選曲としては、最新作を中心としつつもキャリア横断的にセレクトされていて、更には前身バンドであるスペースメン3の曲まで演奏されていたようだ。これには、今回私は手が届かなかった。スペースメン3解散後にジェイソンがスピリチュアライズドを結成し~という知識としては知っていたが、スペースメン3のスタイルや音楽性については全く知らずに臨んでしまったので、少し後悔である。





(2009.2.7.)
















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