Sigur Ros 2008.10.26: 東京国際フォーラム ホールA

グッズ先行販売を狙って、開場時間の1時間半ほど前に現地に到着。列は右端と左端にできていて、グッズの列は右の方だったのだが、左は当日券の列だった。国際フォーラムのホールAは、バンドにとって単独来日史上最大規模のキャパシティになるはずだが、それでもチケットは瞬殺で売り切れていたのだ。やがて午後4時になり、当日券売りもグッズ先行販売もスタート。私は黒Tシャツを購入し、その後時間を潰してから開演20分ほど前に入場した。その時点でのグッズ販売売り場前には、長蛇の列ができていた。





定刻を10分ほど過ぎたところで客電が落ち、シガー・ロスのメンバーがステージに登場。今回はサポートメンバーが全くなく、メンバー4人だけでツアーをしている。まずは4人がステージ中央に寄り添い、『Heysatan』でスタート。ヨンシーがエレクトリックピアノを弾きながら歌い、ドラムのオーリーが鉄琴を担い、キャータンは左後方でギターを弾くという具合で、シンプルなアレンジで素朴な雰囲気が場内に漂う。続いて『All Alright』でキャータンはキーボードに移行し、そして『Glosoli』でオーリーがドラムセットに収まり、やっと通常のセットになった。


この日は名古屋~大阪~スタジオコースト公演を経た、来日最終なのだが、ネット上で情報を知るにつけ、どんどん不安になっていた自分がいた。というのは、バンドの核であり最大の持ち味とも言っていいヨンシーのヴォーカルに異変が生じているらしいのだ。特にスタジオコーストでは声がガサガサで如何にも辛そうだったとのことで、演奏する曲も減らされ時間も幾分短めだったらしい。個人的には、去年のデヴィッド・シルヴィアンの公演で似たような体験をしているだけに、まさか今回も・・・という不安が頭をよぎった。


確かに、序盤のヨンシーはノドがきつそうだった。もともとファルセットで歌い上げる曲が多いのだが、声のがさつきようや伸びのなさは、聴いていてかなり気になった。そのヨンシー、軍服っぽいスーツを着ていて、頭部には飾りをつけていた。細身で華奢な印象があったのだが、今回のこの人は結構マッチョな体型になっていて、たくましさを感じさせる。ステージ中央に陣取って、弓を駆使したボウイング奏法でギターを弾きながら、熱唱している。その向かって右隣にはゲオルグ、そしてオーリー。反対側にはキャータンという編成だ。メンバーは横並びに近い形で陣取っていて、これは以前と同様である。





今回はステージセットもシンプルで、演出といえば冒頭『Heysatan』のときに暗めのステージにおいて各機材の端ばしに設置された小さなランプが発光し、それがまるで夜の野外のような雰囲気を醸し出したことと、後は曲により後方に大きな風船が浮かんだり、スクリーンに映像が流されたことくらい。その映像だが、基本は抽象的なものだが、時にそれが人の顔のようにも見えたりしていたのと、後はヨンシーとキャータンがまさに演奏しているその姿を電子加工したものが流れたりしていた。


演奏の精度の高さは相変わらずで、緻密で優しく丁寧に音が発せられることもあれば、対照的にエモーショナルなばかりに音圧が増すこともある。私は今まで、シガー・ロスの音を中性的、場合によっては女性的と捉えていたところがあったのだが、ここでの彼らは生々しく肉体性に溢れていて、パフォーマンスそのものは徹底して男性的なのである。これらが全て混合し生み出されているのが、今現在の彼らの音であり、そしてバンドそのもののあり方でもあるのだろう。


心配されていたヨンシーの調子だが、序盤こそ子供の学芸会を見守る親のような心境で観ていたものの、それがいつのまにか気にならなくなっていった。ヨンシーはMCで、病院に行ったとも言っていたような気がする。『Med Blodnasir』ではオーディエンスに歌ってくれるよう促し、また指の動きからするとどうやら立ってくれるようにも促していたようだったが(ここまで、ほとんどの客は座ってライヴを観ていた)、立った人は私のポジションから見てまばらだった。椅子席の会場、そしてもともとハードでもダンサブルな音を発するバンドでもないだけに、こうしたことは起こりうることだ。





新譜の顔と言ってもいい曲『Festival』を経て、本編ラストは『Gobbledigook』。メンバーはオーディエンスに手拍子を求め、ここまで来ると場内は総立ち状態になり、聴いて楽しむモードから参加するモードへと移行している。ステージ上には紙吹雪が舞い降り、それが曲と演奏にシンクロして、美しく極上の空間を構築した。メンバーが袖に下がり、アンコールを待つ拍手が鳴り響く中、スタッフが扇風機を使って機材や鍵盤の上に積もった紙吹雪を飛ばしていたのには笑った。


アンコールは、『Svefn G Englar』を経てオーラスが『Popplagid』となった。特に後者は、アルバム『()』のラストを飾る、ルバム上は曲名のない曲なのだが(このアルバムは全ての曲がそうなのだが)、静から動へと転じて行き、とことんまで突き詰めるかのような終盤の凄まじさは、まるでこの世の終わりを示唆しているようで、その壮絶さはライヴのラストを飾るにもふさわしいと感じた。ヨンシーも力が入ったのか、最後はギターを弾きながら前の方に歩み寄るという、中盤までの直立不動とは対照的な動きに出た。ここで演奏は終わり、4人は再び袖の奥に下がるのだが、再び登場してステージの前の方に並んで立ち、これも今や恒例の、4人が揃って何度も深々と礼をした。





私がシガー・ロスのライヴを観たのは今回が3度目なのだが、バンド自体はその活動にシンクロするようにコンスタントに来日している。日本のフェスではフジロックにもサマーソニックにも出演したことがあるので(初来日は第1回のサマソニ)、来年辺りどちらかのフェスで再来日してくれそうな気もする。サマソニは来年10周年を迎えるのでそちらにという気もするが、個人的には2005年のフジロックで大きな衝撃を受けたこともあり、このバンドには野外の舞台こそが最もふさわしいと感じている。なので来年、ぜひフジロックでの再来日を願っている。





(2008.11.3.)
















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