Broken Social Scene/Stars 2008.3.6:Liquid Room Ebisu

ここ数年のカナダのロックバンドの躍進は目覚ましく、その波は着実に日本にも押し寄せていると感じている。その筆頭格が、さる2月に来日公演を行ったばかりのアーケイド・ファイアと、この日のブロークン・ソーシャル・シーン(以下BSS)だと思っている。3年前に、場所も同じリキッドでカナダ・ウェットというイベントが行われたのだが、当時は気軽に足を運んでいたのが、その豪華な顔ぶれによる渾身のパフォーマンスは今や伝説であり、私にとっての貴重な体験となっている。





今回の来日公演はBSS単独ではなく、スターズとのジョイントツアーである。カナダのレーベル「Arts & Krafts」に所属し(このレーベルの創始者はBSSのフロントマンであるケヴィン・ドリュー)、BSSとも密接な関係にあるバンドだ。ほぼ定刻にステージに登場し、メンバーはサポート含む6人。前方中央にトーキル・キャンベルとエイミー・ミランの男女ヴォーカリストが陣取り、向かって右にケンドー・コバヤシ風のスーツを着たベーシスト、向かって左にはキーボード、後方中央にドラマー、左にギタリスト(恐らくこの人はサポート)という配置である。


ライヴを牽引しているのは、トーキルとエイミーのツインヴォーカルだ。トーキルは狭いステージをかなり頻繁に動き回り、時にはステージを降りてフロアの柵の上に登って熱唱。基本はヴォーカルに徹しているのだが、曲によりキーボードやプログラミングもこなしていた。片やエイミーだが、この人はほとんどの曲でギターを弾きながら歌い、そのギターも曲に合わせて何度か替えていた。PAにはなぜか花が何本も刺されていて、メンバーが演奏の合間にフロアに投げ入れていた。スミスのライヴか(笑)。


正直なところ、序盤はバンド内のコンビネーションが今ひとつで、各人のパフォーマンスがうまく融合していないように見えた。昨年リリースされている新譜『In Our Bedroom After The War』を聴いたところ、そこに凝縮されている楽曲はどれも演奏力の高いものばかりだったが、それをライヴの場で再現するには技量が不足しているのかと思ってしまった。しかし、それもライヴが進むに連れて少しずつ持ち直してきて、中盤以降はこのバンドの演奏力の高さを実感できるようになってきた。ライヴは約1時間に渡り、ジョイントではなくスターズの単独ライヴでは?という錯覚を起こしそうにさえなった。





セットチェンジは手際よく行われ、約15分後に再び場内が暗転。いよいよ、ブロークン・ソーシャル・シーンの番である。ステージに登場したのは6人で、大所帯バンドというイメージがああるBSSにしては割かし「ふつう」の人数だ。フロントにはケヴィン・ドリュー、その向かって右に2人のギタリスト、左にもギタリストとベーシスト、後方にドラマーという配置である。ケヴィンもギターを弾きながら歌うので、つまり6人中4人がギタリストという格好。やはりこのバンド、一筋縄じゃいかない。


がしかし、ケヴィンのマイクが不調のようでほとんどヴォーカルが聴こえず、ケヴィン自身もそれを感知して曲の途中から隣のマイクスタンドに移行。なんとか1曲は歌い切ったが、しかしケヴィンはメンバーをみな引き揚げさせて、ライヴは一時中断。スタッフ数人が出てきてマイクを交換したりチューニングしたりして、約5分後にようやく再開となった。それでもまだ完全に復調とはいかなかったようで、時折スタッフが出てきてはマイクを調整するという状況で、正直この時点では、ライヴが最後まで行われるのだろうかと不安になってしまった。


再開の幕開けは、『7/4(Shoreline)』だった。スターズのエイミーもヴォーカルとして参加し(この人はBSSのメンバーでもある)、曲が終盤に差し掛かると、ギタリストのひとりがトランペットに移行。更にはスターズのベーシストも加わってトロンボーンを吹き、音圧が何重にもなってオーディエンスを襲ってきた。その後はまた6人に戻り、これがスタンダードな編成としてライヴが進行。曲によりメンバーが担当する楽器もチェンジされ、ベーシストがギターを弾いたり(もちろんそのときはギタリストのひとりがベ−スを担当)、ケヴィンはサイドに配置されていたキーボードを弾いたりという具合。中盤では、ドラマーがキーボードに移行してケヴィンがドラムを、という場面もあった。


カナダウェット2006年のフジロックで観ていた限りでは、とにかく大人数で多彩な楽器を駆使して音量と音圧とで圧倒するというイメージがあったのだが、今回は比較的ロックバンドのフォーマットの範囲内でのパフォーマンスとなっている。意外であり、最初のうちは違和感があったが、ライヴが進むにつれてこれがこのバンドの核であり本質なのではないかと、思うようになってきた。各人が職人のように己がすべきことを淡々とこなしているように感じていたのが、実はケヴィンが強力なリーダーシップを発揮してバンドを統率しているというのも、明確になった。





終盤は1曲1曲が重厚感を帯びて迫ってくるようになり、そして本編ラストはこのバンド最大のアンセムであろう『Ibi Dreams Of Pavement』で締めた。エイミーも参戦し、終盤では再びスターズのベーシストがトロンボーンで登場したのだが、なんとDJオズマばりの全裸スーツに、赤いブーメランパンツをはいていた。スターズのライヴのときから妙な存在感を放っているなあと思ってはいたが、こういう人だったのだ(笑)。


しかし、演奏が終わりメンバーがステージを後にする中、ケヴィンとドラマーだけがステージに残った。ケヴィンはオーディエンスに向けてもっと拍手を!というように煽り、オーディエンスもそれに応えた。するとケヴィンはヴォイスパーカッションでビートを刻みはじめ、やがてドラマーもそれに合わせるように細かいリズムを刻み、即興のセッションになった。すると他のメンバーも戻ってきてそれに加わり、ジャムセッションがしばし続けられた。最後にケヴィンが挨拶をし、ステージを去って行った。


ここで全てが終わっても、満足して家路につける状態ではあった。実際ロビーの方に向かう人も少しはいたのだが、その一方でアンコールを求める拍手はしばし続いていて、そして客電がつく気配もない。もしや?と思っていたら、なんとメンバーが再登場して『KC Accidental』を!原曲はインストを主体としとてもシンプルな仕上がりなのだが、ライヴの場ではスケール感に溢れるキラーチューンと化すのだ。このダメ押しとも言える攻勢に、序盤の機材トラブルによるゴタゴタなどすっかり消し飛んでしまった。





ケヴィンが主宰するレーベル「Arts & Krafts」には、ブロークン・ソーシャル・シーンやスターズ以外にも、注目すべきアーティストがたくさん所属している。曲がiPodのCMに使われて大ブレイクし、グラミー授賞式でパフォーマンスを行ったファイストの例もある。こうしたアーティストが今後日本でももっと紹介され、露出が増え、フェスやライヴなどで実物を観られる機会が増えてくれば嬉しいなあと思う。




(2008.3.9.)
















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