Zazen Boys 2006.6.13:Zepp Tokyo

Zazen Boysについては、去年のジェームズ・チャンスの来日公演で、前座として出演していたのを観たのが最初だった。サマーソニックでも観る予定だったのだが、主催者側の無様な仕切りのために混乱が生じ、結局このときは観られなかった。そして今年になり、相変わらず精力的に活動しているバンドを観て、ついに単独公演に足を運ぶことに踏み切った。そしてそれは、奇しくも全国ツアーの最終公演だ。





 開演時刻よりやや遅れて客電が落ち、テレヴィジョンの『Marquee Moon』がSEとして流れた(この曲は、ナンバーガールのときからオープニングに使われている、向井のベスト・フェイヴァリット・ソングだ)。まず登場したのが「町田のヤンキー」ことベースの日向で、ひとりでベンベンとベースを弾き始める。次いで登場したのが松下で、日向のベースに合わせるようにドラムを叩き始める。やがてギターの吉兼も加わって、そして最後に登場したのが向井だった。


 『Si・Ge・Ki』~『Usodarake』と連射し、早速4者によるリフとビートがぶつかり合う。日向のベースはストレイテナーのときよりも攻めモードに見え、松下のドラムはずしりと重い。吉兼のギターは変拍子リズムを刻み、そして向井のギターはキメになるリフを要所で発している。言わば、吉兼がロン・ウッド、向井がキース・リチャーズの役割といったところか。しかしこのバンドは、決して2本のギターが前面に出るというわけではなく、見事なまでにきっちりと揃っている、4者のリフとビートの融合だ。


 日向は髪が部分的に金髪そしてモヒカンで、ステージ上をアグレッシブに動き回りながら腕を振り上げる。対照的に吉兼はほとんど直立不動で、抱えるようにしてギターを弾く。2人の間にいる向井は足を大きく開いていて、マイクスタンドの前に仁王立ちして歌いながらギターを弾く。そして向井の後方に陣取る松下は、大柄な体格を生かしたかのような、パワフルなドラミングだ。機材は広いステージの中央部に狭く設置され、両サイドには大小のスポットライトが曲に合わせて点灯する。後方には、もっかの新譜である『Ⅲ』のジャケ写が飾られていた。





 「3日前、3ヶ月前、3年前に別れた女の秘密~」といったような向井のMCで始まった、『Himitsu Girl's Top Secret』。演奏のキレの良さもさることながら、合間合間に発せられる向井のことばのひとつひとつにも、惹かれるものがある。この日のキーワードとなったのは、ズバリ「お台場」。「トーキョーシティ、オダイバッ」「オダイバッ・バッ・バッ」となぜか「バッ」を連呼し、この「バッ」のところで必ず松下のドラムが入る。演奏もそうなのだが、よくズレることもなくきっちりと合わせられるものだ。


 『Water Front』ではギターを手放し、キーボードを弾く向井。電子音の導入は、『Ⅲ』になって見せたこのバンドの新たな展開であり、ナンバーガール時代から通じても異例にして大胆な試みに思える。のだが、この電子音が浮いているかといえば決してそんなことはなく、むしろ自然な成り行きのように刷り込まれている。自然にできるようになったからこそ向井は発表に踏み切ったのかもしれないし、これでバンドは音楽の幅を広げることに成功した。


 『自問自答』は、音そのものよりも歌詞に重きを置いた曲で、アコースティックのときにそれが一層際立ってくる。のだが、ここではもちろんバンドバージョン。しかしメンバーは、向井が歌うときは最低限のリズムだけを刻み、間奏に入ったところでバンドとしての演奏にシフトするといった具合だ。切々と歌う向井は、曲のラストになってメンバーをひとりひとり紹介。これで本編が終わりという雰囲気が、場内に漂った。





 ところが、演奏が終わってもメンバーがステージを去る気配はなく、まるで何事もなかったかのように、水を飲んだり汗を拭いたり楽器を交換したりしている。向井は「終わったと思ったでしょ?」とちゃっかりしていて、これはプチ2部構成形式にするための演出だったようだ。といっても明確な休憩時間が設けられるわけではなく、少し向井がしゃべった後で「後半戦」に突入する。


 前半戦が、向井のMCがわりかし合間合間に入っていたのに対し、後半戦は演奏そのものを突き詰めていくモードだ。『Riff Man』では間奏のときにレッド・ツェッペリンの『The Immigrant Song/移民の詩』のフレーズが飛び出して、嬉しくなる。向井「少年」が初めてギターを手にしたとき、ツェッペリンのコピーを試みては失敗した、といったようなことをテレビの番組で語っていたのを観た。だけど、ナンバーガールにせよZazenにせよ、ツェッペリンを思わせるところはほとんど感じられず、テレヴィジョンならまだしも、ほんとにツェッペリンの影響受けているのかなと、個人的には違和感を覚え続けていた。それが、すっきりした瞬間だった。


 演奏はなおもハードに繰り広げられ、『Cold Beat』~『Tobizaru』を経て『Friday Night』へと至ったくだりは、この日のライヴのハイライトではなかっただろうか。その『Friday Night』では、ステージ上の2つの小さなミラーボール、そして客が陣取るフロア上の大きなミラーボールが共に光りながら回り始め、妖しい光によって場内が彩られる。向井が淡々と鍵盤を弾く中、日向が吉兼を指差す。そしてこれまでほとんど大きな動きのなかった吉兼が、ギターを抱えたまま緩く踊り出した。PVで観たのと同じ踊りだ。


 更に、曲は『Crazy Days Crazy Feeling』。Zazenのテーマと言ってもいいフレーズ「繰り返される諸行無常♪よみがえる性的衝動♪」が、ハードなリフに乗せて連呼される。CDに収められている原曲では椎名林檎がコーラスで参加していて、7月に日比谷野音で行われるイベントでは、もしかしてステージでの共演が実現するかもしれない。そしてラストは『Kimochi』。徹底したハードな展開から様変わりし、切々と歌う向井。あれほど騒いでいた場内も一転して静まり返って、向井のことばを噛み締めるように聴き入っている。向井は歌い終えるとステージを去り、次いで日向、松下と去って、最後は吉兼がひとしきりギターを弾いた後ステージを後にし、ここで客電がついた。





 帰る人もちらほら出だしたのだが、フロアからアンコールを求める拍手は止まなかった。この状態がしばし続き、これはもしかしてと思ったそのとき、ステージが再び明るくなった。メンバー再登場。帰らなくてよかった(笑)。そして鍵盤に向かった向井が弾き始めたのは、なんとヴァン・ヘイレンの『Jump』だった!うわー、なんだこりゃ!演奏も完コピとは言えず、歌詞もややデタラメで強引に歌っていた感があった。が、ここはそうした細かいことは気にせず、素直に楽しむべきだろう。そして、オーラスは『半透明少女関係』。まだこの曲が残っていたかと思わせる、決定的なダメ押しだった。





 ヴォーカル及びMCを担っているということもあり、前面に出ているのはやはり向井ということになる。がしかし、他の3人も演奏の技術面においてそれぞれ主張ができていて、バンドとしてもしっかり機能できているのが素晴らしい。そして私がこの日のライヴ中、最も目が行ったのは実はドラムの松下だった。まるで大砲のような強烈なビートを発するこの人は、和製ラッセル・シミンズ、いやもっと言えば和製ジョン・ボーナムだ。腕をクロスさせながら叩く場面も何度かあって、それもボーナムを彷彿とさせる。アヒト・イナザワの後任としてバンドに加入した松下だが、音としてはこの人のリズムを軸に組み立てていて、今やこの人なしにはバンドは成り立たないのではと、勝手に想像する。




(2006.6.15.)




















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