James Chance & The Contortions 2005.7.16:代官山Unit

開場20分ほど前に現地に着き、既にできている列の最後尾に並んだ。チケットには整理番号がなかったので、先着順での入場となる。やがて時間になり開場し、階段を降りて地下のライヴハウスに入場。フロア内にはそれほど人がいなかったので、ステージ向かって左側の最前に陣取り、その後約1時間まったりしながら待った。客の年齢層は思ったほど高くはなく、若いカップルも結構いる。前座のバンドのファンだろうか。





 ほぼ定刻通りに、1組目のオープニングアクトが登場。パニック・スマイルという日本の4人組で、ギター&ヴォーカル、外国人のギタリスト、巨漢のベーシスト、女性ドラマーという編成。演奏はこの女性ドラマーが発する分厚いビートが軸になっていて、それに2本のギターが時折軋んだ音を出して絡む、といった感じ。ヴォーカルは、何を歌っているのかよく聴き取れない。それでも曲間に短くMCを入れていて、謙虚な姿勢で臨んでいるのが伺えた。結局彼らは25分ほど演奏。場内のリアクションも、悪くはなかったと思う。





 25分ほどのセットチェンジを経て、2組目はZazen Boys。個人的にも観たかったバンドで、今回やや変則的ながら念願が叶った形になった。向井秀徳は黒と白に鯉が跳ねている柄のシャツ姿で、サングラスをかけている。意外と細身だ。向井の右にはもうひとりのギタリストがいて、腕に刺青が入っている。向井の左にはベースの日向。この人は、ストレイテナーのベーシストでもある。ドラマーはアヒトイナザワに代わる新しい人で、ヒゲ面でかなりの巨漢だ。


 向井の「MATSURI STUDIOから、MATSURI SESSIONを経てやって参りました、ZAZEN BOYSです♪」というMCがあり(このスタイルは、ナンバーガールから変わらないんだな)、演奏はファーストアルバムの冒頭と同じように『Fender Telecaster』『USODAREKE』で始まった。4人の音出しが見事なくらいに揃っていて、分厚いビートが炸裂。一瞬にして、場内がサゼンワールドと化す。奇しくもこの日が発売日だったニューシングル『Himitsu Girl's Top Secret』も、早々に披露。ヴォーカルは少なく演奏重視の曲で、クセの少ないメロディは、ザゼンにとっては新展開になるのではと感じた。


 アルバムを聴いていると、前面に出ているのはやはりギターの音色なのだが、ライヴの場では少し様相が異なっている。向井のギターもそれほど主張しておらず、もうひとりのギタリストはクールに淡々と弾いている感じ。ドラムは激しくはあるが爆音とまではいかない。では何が凄かったのかというと、それは日向のベースだ。向井に寄り添うようにポジションを取り、上体を大きく揺らし、首も前後に大きく揺さぶりながら、魔法のような指使いで弦を弾いている。その技術やパフォーマンスはストレイテナーのライヴでも体験済のはずだったのだが、今回間近で観ることで、改めて彼の凄さを思い知った。向井を横にしていながら、あの存在感は凄い。


 向井はMCでこの後登場するジェームズ・チャンスのことにも触れ、5年ほど前にニューヨークに行って、観光客気分丸出しでCB GB'sに行ったら、ちょうどジェ−ムズが(ホワイト名義ながら)ビリー・フィッカ(テレヴィジョンのドラマー)と演っていたのを観た、と言い、今回オープニングアクトとして演れて光栄です、とも言っていた。結局、彼らの演奏は約40分ほど続き、終了。ナンバーガールからはどんどん離れ、男っぽいバンドになっていっているなあというのが正直な感想。ナンバーガールは思春期で、それを通過して向井はより自分の理想とする音楽に向かって行っているのだろうか。





 更に25分くらいのセットチェンジ。ステージ上には少しずつ外国人が増えてきて、ドラムを叩いたりギターの音出しをしたりしている。ん?もしかして、この人たちコントーションズのメンバーなんじゃ?・・・と思ったら、いつのまにかセッション風に演奏を始めていて、少しすると向かって右の袖の方からジェームズ・チャンスが登場した。白いタキシードに蝶ネクタイ、黒のパンツスーツという洒落たいでたち。髪はリーゼントで、独特の雰囲気を持っている。


 やがてジェームズはサックスを吹き始める。よれよれした軋んだ音色はこれまた独特で、ジャズでもフュージョンでもなく、やはりパンクの精神が宿ったものと感じる。ひと通り吹き通すと、ステージ上で軽くステップを踏むジェームズ。このたたずまいはイカしている。バックを務めるコントーションズは、ギターが2人(うちひとりは女性)、ベース、ドラムという編成。アルバム『No New York』の内ジャケによると、メンバーはあとひとりピアノを弾く女性がいるらしいのだが、今回はいないようだ。


 ステージ向かって左前方にはキーボードがあって、ジェームズはその前に座り、足元に用意された飲み物を口にする(カクテルのように見えた)。続いてカウントを取って他のメンバーに演奏を始めさせ、自らはキーボードを弾く。これまた軋んだ音色で、ともすればテキトーに鍵盤を叩いているだけに見えなくもないが、この人の場合、それが技となり味になっている。やがてキーボードを離れると、今度はマイクスタンドを握り締めてシャウト。かなり神経質そうな顔だちだが、目つきだけは射るように鋭く、それがステージを緊張感のあるものにしている。





 コントーションズの演奏は、ベーシストの人が音も存在感も出していて、バンドを引っ張っている感じ。メンバーは皆さん年こそとってはいるが、技術的には何ら問題はなく、ジェームズのよきサポート役になっている。1曲やたらファンキーな曲があったのだが(恐らくジェームズ・ブラウンのカヴァーだったのでは?)、そのときも一糸乱れぬ演奏をしてみせた。ジェームズはいつのまにか蝶ネクタイを外していて、パフォーマンスは更にエモーショナルになっている。


 終盤になると、女性ダンサーがステージに登場。この踊りにくそうなリズムの中でダンスをしたり、ジェームズに絡んだりしてみせる。アンコールも2回あって、1回目はバンドで演奏し、2回目はジェームズひとりだけでサックスのソロを披露。約1時間のステージだったが、1曲1曲が密度の濃いものだったため、短いと感じることはなく、むしろこれでお腹いっぱいの状態だった。





 ジェームズ・チャンスのときはステージ直下にカメラマンが6人くらいいて、彼らがライヴの最初から最後までジェームズを追い回していて、客の立場としては少しうざかった。が、そうした不満を差っ引いても、得難い貴重なライヴを目にすることができたという、満足感でいっぱいだった。伝説の名盤『No New York』リリースから27年。ニューヨーク・パンクの鼓動は、今もなお脈々と生き続けている。


(2005.7.17.)



















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