Mew 2005.12.3:代官山Unit

 この日の公演は、追加にして来日最終。ここまでにバンドは東京~川崎~大阪~名古屋と公演をこなしていて、この日も日中はTokyo FMの番組で渋谷スペイン坂スタジオに出演し、アコースティックで1曲『She Came Home For Christmas』を演奏してから会場入りしていた。代官山Unitは、7月にジェームズ・チャンスの公演で足を運んでいるのだが、あれこんなに狭かったっけ?と改めてびっくりするほどのフロアの狭さ。入り口には、チケットの整理番号が1番から500番までとあって、つまりはたった500人だけがこの日の公演を目撃できることになる。





 開演前のBGMには、なんとブライアン・イーノの『Music For Airports』が使われていてびっくり。客は女性が圧倒的に多く、なのであまり背の高い人がおらず、フロア後方からでもステージがよく見える。MewのTシャツを着て、既に臨戦態勢の人も少なくなかった。私は向かって右の中段辺りでペプシをちびちびと飲みながらまったりとし、開演時間になるのを待った。


 予定より2分ほど遅れて、ゆっくりと場内が暗転。向かって右の袖の方からメンバーが登場すると、女性ファンを中心に黄色い声でお出迎え。そしてオーディエンスは全体的に数歩前進し、ライヴが始まるのを待つ。まずはジャムセッションのように長い長いインストが繰り広げられた後に『Circuitry Of The Wolf』となり、曲間を切らさずにすかさず『Am I Wry? No』の電撃のイントロが炸裂する。





 ステージは、中央にヴォーカルのヨーナス。右にはギターのボウ、左にはベースのヨハンが陣取り、この3人でフロントラインを形成。ヨーナスの後ろではスィラスがドラムを叩き、その右にはサポートメンバーがキーボードを弾いている。ヨーナスは、なんだかジョン・ボン・ジョビのような風貌。ほか4人は、いずれも肩までかかるくらいの長髪だ。ステージには装飾は何もないが、後方がまるまるスクリーンになっていて、曲にシンクロするように映像が流れる。


 『Am I Wry? No』では、火山が噴火する映像。他には猫がバイオリンを弾いたり、ウサギがトランペットを吹いていたり、何の生き物なのかよくわからない不思議なキャラクターがうようよしていたり、と、映像は不思議空間を演出している。この映像はサマソニのライヴでも既に観ていて、そのときは結構不気味でキテるなあと思ったのだが、今回改めて間近で見てみると、不気味さと美のギリギリのラインを行く、独特の美意識なのかなと受け入れるようになり、こういうのもアリなんだなと思ってしまった。





 曲はCDとほとんど同じ尺で演奏されているが、メンバーは個々にライヴならではの生々しさを発していて興味深い。まずはスィラスのドラムが結構ハード目で、これがサウンドの屋台骨を担っている。ヨハンは上体を前後に揺らし、長髪を振り乱しながらベースを弾き(最初にMCを発し、また手拍子の合図をしたのもこの人)、対照的にボウは淡々とギターを弾いている。サポートのキーボードも、ドラムと並んでサウンド的に重要な役をこなしていた。


 そしてフロントマンのヨーナスだが、常にギターを弾きながら歌っているわけでもなく、曲によってはヴォーカルに徹していた。そのヴォーカルだが、まるで生声とは思えない、実は口パクでCD流しているんじゃと疑いたくなるようなくらい、CDで聴いているのと寸分違わない、シャープで美しい声だ。これはこの人だけの武器だ。この声があれば、たとえこの先バンドが傾いても、ヨーナスはソロとしてもやっていけるな(暴言か/汗)。





 選曲は、2枚のアルバムから満遍なくセレクトされている。ファースト『Frengers』の曲は個々の曲がポップで際立っているように思え、セカンド『Mew. And The Glass Handed Kites』の曲はより進化し深化したように思える。プログレのような展開を見せる曲もあって、ギターバンドでありながらもジャンルにとらわれず自由にいろいろできるというセンスと姿勢が、英米のロックバンドにはないこのバンドのよさだと思う。そのよさは、ライヴの場においても如何なく発揮されている。


 『White Lips Kissed』を日本語詞で歌う『白い唇のいざない』という曲が披露される。ヨーナスはカンペを手にしつつ熱唱。この曲はセカンドのボーナストラックとして収録されているのだが、なぜこのような企画が実現したのか、さっぱりわからない。日本のレコード会社の担当にうまく乗せられてしまったのか、それともデンマーク人の彼らにとって、この極東の島国は神秘的なものとして映り、何か惹かれるものを感じてのことなのだろうか。とにかく、「自由さ」が高じたことを、私たち日本人は光栄に思うべきなのだろう。


 終盤、『Why Are You Looking Grave?』のとき、スクリーンにさえないおっさんの顔がアップになった。帽子をかぶり、メガネをかけ、そしてロン毛。何この映像?と思ったのだが、この人は実はJマスキスだ。帰宅後改めてセカンドアルバムのブックレットを読んでみたのだが、この曲にJはヴォーカルで参加している(『An Enjoy To The Open Fields』にもバックヴォーカルで参加)。ライナーノーツを読むと、MewのメンバーはもともとダイナソーJr.のファンだそうで、それで共演が実現したらしい。Jの方もまんざらでもないらしく、MewのTシャツを着てライヴをしたことがあるとか、そんなことが書かれていた。





 本編ラストは『Louise Louisa』で締めくくられ、そしてアンコールは『Apocalypso』でスタート。続いては、ヨハンがリクエストを求めるようなMCをした後で、『Eight Flew Over , One Was Destroyed』が演奏される。この曲のラスト、メンバーがひとりずつステージを後にし、最後にボウだけがステージに残った。これで終わりかと思いきや、ボウがもう1曲やるみたいなことを言い、ひとりで切々とギターを弾き始める。まもなくヨーナスが帰還して、『Frengers』のラストナンバーである『Comforting Sounds』を歌い始める。曲が中盤辺りに差し掛かったところでキーボードの人、スィラス、ヨハンが帰還し、フルバンドとなって演奏。ミディアム調で、いかにも締めくくり的な少し切ないメロディは、この日のライヴの終わりであると同時に、約1週間に渡るMewの日本公演の終わりをも意味していた。





 まずはフェスティバルでバンドの音を体感し、そこで琴線に触れれば次は単独公演に足を運ぶ。そうした形で、これまでもいくつかのアーティストの単独ライヴに足を運んだことがある。フェスは、ヘッドライナーを除くほとんどのアーティストにとってダイジェストパフォーマンスとなり、単独公演こそがそのアーティストにとっての本領を発揮できる場なのだ。今回Mewのライヴに足を運んだことで楽しい時間を過ごすことができたし、また今後Mewがどのように進化していくのかという、楽しみがひとつ増えた。





(2005.12.5.)



















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