Yo La Tengo 2005.5.28:ラフォーレミュージアム六本木

キャリアを総括したベストアルバムをリリースし、そして約1年半ぶりの来日公演を行うヨ・ラ・テンゴ。しかし、この日の公演は通常の内容とは異なっている。「Film Show」と題されていて、映像に合わせてバンドが演奏をするという試みがされるのだ。会場も、通常のライヴハウスではなく、六本木にあるラフォーレミュージアムというところ。そしてチケットの整理番号が早かった私は、最前列の椅子席に陣取ることができた。





 定刻より15分ほど遅れて客電が落ち、ステージ向かって左の袖の方からメンバー3人がふらふらっと登場。それぞれが持ち場についた頃に早速映像の方がスタートし、それに合わせるようにして、演奏の方も始まった。


 ステージは後方上部にスクリーンがあり、ココに映像が映し出される。機材の配置は向かって左にドラムセット、右にキーボードがあるという具合。ギターのアイラ・カプランはキーボードの内側つまりステージの中央やや右辺りに、ベースのジェイムス・マクニューはスクリーンの左端辺りに陣取っている。ものすごい巨漢というイメージのあったジェイムスだが、実際はそれほどでもなかった。





 さて映像だが、海の生物の生態を捉えた記録ものという感じ。まずは、クモガニが海底で活動するさまが流される。3人はそれぞれ映像を確認しながら演奏していて、よって客側には背を向けるかあるいは半身になっているという格好だ。序盤はドラムの音が少し浮いていたような気がしたが、それも徐々に気にならなくなってくる。アイラは最初はキーボードを弾いていたのだが、途中でギターを手にして浮遊感のある音を発し始める。


 映像は短編で、約10分程度で終わっていた。しかし演奏の方はジョージア・ハブリーがドラムを叩き続けていて、音を切れさせることがない。その間にアイラとジェイムスはいろいろとセッティングをしていて、そしてそれぞれの楽器を手にする。まもなくして、次の映像が始まった。今度はウニだ。映像はフランスの人が作ったものなのだろうか、タイトルなどはフランス語で表示されていて、そして劇中の解説として下の方に英語の字幕が入る。更に日本語の翻訳が、スクリーンの両端に縦書きに表示される。


 こんなスタイルでのライヴなので、客は全員が椅子に座ったまま観ていて、体を揺さぶることもなければ声を張り上げることもない。がしかし、それでも結構神経を使ってしまい、ちょっと疲れる。というのは、視線が絶えず動きっぱなしだからだ。映像そのものを見て、英語の字幕を見て、日本語の訳を見て(この訳の表示が遅れることが多く、少しストレスになった。この日のためだけにここまでやってくれたのには敬意を表するが)、そしてバンドの演奏を見るという具合だ。


 映像と演奏をシンクロさせたライヴというのは、過去に何度か観たことがある。最もインパクトがあったのは、2000年のナイン・インチ・ネイルズの公演であり、記憶に新しいところでは、昨年のデヴィッド・シルヴィアンの公演が思いだされる。がしかし、これらはあくまでまず自分たちの音楽ありきで、それに基づいて映像の方をつけているというスタイルだ。今回のヨ・ラ・テンゴはその逆で、まずは映像ありきのような気がしている。映画音楽を担当するロックアーティストも世の中には数多くいるが、それをナマでやっていると考えればいいだろうか。





 映像は淡々と進み、クラゲ、竜の落とし子、タコ、エビなどの生態へと移り変わって行く。海中を自由に泳ぐさま、仲間と戯れるさま、受精、産卵、などのシーンが克明に捉えられ、また時には電子顕微鏡で拡大したような映像もあって、細胞が分裂していくさまやオタマジャクシが元気良く泳いでいるさまなどが出てくる。個人的に目に焼きついたのは、タコの産卵シーン。無数の小さなタコの卵が次々に飛び出して行って、不気味さと美しさが交錯しているように思えた。


 一方の演奏の方だが、全ての曲がインストで、もちろんメンバーはひと言も発しない。アイラのギターは、浮遊感を感じさせるものから痙攣するようなノイジーなリフもあって、通常のライヴパフォーマンスのさまを一瞬垣間見ることができる。ハウリングさせたり、または大きな太鼓を叩くバチのような棒で弦やギターのへりを叩いては振動させたりしている。また曲によってはギターレスあるいはドラムレスになり、そのときはジョージアやアイラは淡々とキーボードを弾いている。





 こんな具合で、ライヴは約1時間30分くらいに渡って行われた。最後になってアイラがマイクを取って挨拶し、アンコールもなくあっさりと終了。ライヴのスタイルからして当然といえば当然なのかもしれないが、場内は若干呆気に取られた感じになり、やがてステージ前にはたくさんの客が押し寄せてきた。私は最前列にいたのでステージの様子や彼らの動きが手に取るようにわかったのだが、後方で観ていた人にとっては、どんなステージになっていたのかを確かめたかったのかもしれない。





 私が彼らのライヴを観たのはこの日だけだが、正しいヨ・ラ・テンゴのファンであれば、まずは通常の「Rock Show」のライヴを観ておき、併せて「Film Show」というように捉えるべきなのかもしれない。ただ、「Film Show」という試み自体稀少度が高く、そう何度も行えるものではないと思われることから、個人的にはこれで充分満足している。




(2005.5.29.)



















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