Oasis 2002.9.28:代々木競技場

オアシスが現在のメンバー編成になってから、早くも4度目の来日となる。2000年2月には、『~ Giants』のツアースタートの地として。昨年の夏は、フジロックフェスティバル'01の初日トリとして。今年5月は、MTV関連のイベントで。そして今回だ。その5月の来日は、関係者かもしくは高倍率を突破して当選した招待客のみが参加できた、言わば密閉されたイベントだった(私は落選)。なので、ほぼ全国ツアーとなる今回こそが、日本のファンが新生オアシスの姿を目の当たりにできる、真の機会となるはずだ。





 午後6時を10分ほど過ぎたところで、客電が落ちる。ステージ後方には白い垂れ幕のようなものが下がっていたのだが、これは単なる装飾ではなく、小さいスクリーン(計16面)になっていた。そのスクリーンにはオーディオのインジケーターのようなメーターが映り、そして聞き取れない機械音声によるアナウンスを経て『Fuckin' In The Bushes』へ。歓声が怒号へと変わる中、メンバーが姿を見せた。


 オープニングは、懐かしさを感じる『Hello』だ。ちょっと意外なセレクトだが、しかし場内は既に大合唱。ステージには凝った装飾はないが、両端に大きなスクリーンがあって、演奏するメンバーの姿をモノクロで映し出している。後方の16面スクリーンはというと、メンバーのフォトを入れ替わり立ち替わりで表示するといった具合だ。続いては、現オアシスのテーマ曲とも言える『The Hindu Times』。コイツらは、帰って来た。コイツらは、戻ってきてくれたんだ。


 ステージは、中央にリアム。ブルーを基調とした服装だが、体型が幾分ふっくらしたようにも見える。向かって右は"アニキ"ノエルで、薄いブルーのポロシャツにジーンズ。私はアリーナAブロックの向かって左側の席だったのだが、その私に近い側にはゲムとアンディ・ベルが。アンディはヒゲを伸ばしたワイルドな風貌に変貌しており、そして長身で細身だ。アランは、リアムの真後ろでドラムを叩いている。『Go Let It Out!』では、ノエルの後方でキーボードを弾くジェイ・ダーリントンの姿が確認できた。この人は、元クーラ・シェイカーのオルガン奏者。かなりの長髪だ。





 『Morning Glory』は、この日訪れた最初のピークになった。私は必ずしもそうだとは思わないが、オアシスの初期2枚に対するファンの信頼感が厚いという状況は、本国イギリスのみならず、ここ日本でも同様のようだ。新作よりも過去の作品に対しての方がリアクションがいいというのは、多くのバンドが抱えている悩みかもしれない(レディオヘッドの面々も、そんなようなことを言っていたと思う)。ただそれを打破するのは他ならぬ当人たちだし、ライヴとはそういう場でもあってほしいと私は思う。


 その新作からの曲だが、『Stop Crying Your Heart Out』ではゲムがキーボードを弾き、『Little By Little』ではノエルが切々と歌い上げた。前作『Giants』は、みんなで歌うというよりはぐっと聴かせる曲が多く、サウンドも実験的だった。『Heathen Chemistry』は、前作の実験性を継承しつつも、みんなで歌えるという方向性が戻ってきている。今まではノエルひとりが背負っていた感のある、オアシスのソングライティング面だが、今回はリアムもアンディもゲムも曲作りに参加。それらが満足の行く出来になったからこそ、外部から人を招くことをせず、自分たちだけでプロデュースもしたのだろう。





 観る場所によるのかもしれないが、音の悪さは噂通りだ(苦笑)。音が跳ね返ってくるのが遅いこと遅いこと。ただ、個人的に代々木のアリーナ席はずいぶん久しぶりで、音は悪くてもステージとの距離が近いのはありがたい。そしてもうひとつあれっと思ったのが、リアムがしきりにマイクを気にしていたこと。自分で自分の声がよく聴こえないのかな?スタッフが曲の間に2度3度と出てきては、マイクチェックをしたり交換したりしたが、とうとう最後まで直ることはなかったようだ。私には、リアムのマイクの通りが悪かったというより、ノエルのマイクの通りが良すぎたように見えた。


 リアム派か、ノエル派か。そんなのがあるのかどうかわからないが(笑)、私の目当ては断然リアムだ。しっかり者のアニキに、やんちゃな弟。そんな図式がもう当たり前のように定着しているが、プロとしての2人はどうだろうか。ほとんどの曲を書き、バンドリーダーでもあるノエルは、プロモーションにも積極的だ。来日中も外国メディアとの電話インタビューをこなしていたようだし、この日も、ラジオ出演をこなしてからの会場入りだった。


 ではリアムはどうなのかというと、メディアよりもむしろファンを目の前にしたときにこそ、この男のエンターテイナー魂は熱く燃え盛るのではないか。一見不機嫌そうでやる気のなさそうなその素振りは、もっとオレを燃えさせてくれよという、ファンに対して信号を送っているのではないかな。マイクをしつこく気にしていたのも、自分の声がファンにもっと届くようにと、気を遣ってのことではないかな。


 リアムは決していつも万全というわけではなく、好不調の波が激しい。そして、それをあまり隠すこともせずにさらけ出してしまう。これが時としてノエルの逆鱗に触れるのかもしれないし、ファンの中でもお気に召さない人がいるかもしれない。私も過去何度か彼らのライヴを観て来た中で、オアシスってこんな程度のモノだったのかと思わされることもあったし、逆にオアシスはやっぱりすげえやと思い知ったこともある。その鍵は、やはりこの男が握っているのだ。





 『Better Man』の後、メンバーは一斉に袖の方に引き上げてしまった。え、もう本編終わり?と思いきや、スタッフがステージ中央にマイクスタンドや機材を運び出した。ノエルのアコースティックだ!何を演るのかさっぱり想像がつかなかったのだが、アコギのイントロはなんと『Wonderwall』ではないか!そして驚くことに、場内は大合唱。ボブ・ディランやポール・ウェラーのライヴで"攻め"のアコースティックを目の当たりにしたことはあるが、大合唱なんて初めての経験だ。ノエルの歌い回しが元々の曲と違うのに少し面食らいはしたが、しかしこの一体感はたまらない。


 再び他のメンバーが戻り、リアムが書いた曲『Born On A Different Cloud』から、本編ラストの必殺『Acquiesce』となる。リアムとノエルの兄弟が交互に歌いつなぐこの曲は、シングルになっていないのが信じられないくらい、ライヴには絶対欠かせない曲になった。そしてこの曲は、私が最も好きなオアシスの曲なのだ。





 アンコールを待つ、オーディエンスのエネルギーも素晴らしかった。他のライヴと同じようにまずは拍手で始まるが、やがて足で地面をドンドンと鳴らし、そしてあろうことか「オアシス!オアシス!」というコールまで。結局ほとんど間を置かずに、リアムを除くメンバーが再登場。まずはノエルがヴォーカルの『Force Of Nature』でじっくりと入り、そしてまたまた必殺の『Don't Look Back In Anger』へ!


 今このとき、今この瞬間こそが、この日この場に居合わせた者にとっての至福の瞬間だった。個人的には武道館でも、横浜アリーナでも、そしてフジロックでも聴き、合唱したこの曲。もともとがいい曲であるのに加え、ライヴで歌い継がれることによって、更に磨きがかかっているように思える。オアシスはメジャーデビューしてからキャリア8年になるが、解散はおろか、彼らはまだまだ進化している。それはソングクリエイトにおいてもそうだし、ライヴパフォーマーとしても同じだ。





 ここでリアムが生還し、『Some Might Say』へ。さすがに原曲よりはキーを下げて歌っているが、それでも曲が持つ圧倒的とも言える魔力は健在だ。そしてラストは、ザ・フーのカヴァーである『My Generation』。オアシスはこれまでにもビートルズやストーンズ、デヴィッド・ボウイの曲などをカヴァーしているが、この曲は最も原曲に忠実で、そして私が聴いた限りでは最も精度の高いカヴァーだと思っている。間奏ではアンディ・ベルの重低音ベースが唸り、ここでまたどよめき。ここまでほとんど地味だったアンディの見せ場であると同時に、これは亡くなったジョン・エントウィッスルさんへのオマージュだ。


 演奏は続いているが、リアムは歌い終わるとステージ前をぐるっと回り、そして左隅の方に腰掛けて肘をつきながら場内を眺める。演奏はジャムセッションの様相を呈し、原曲は3分にも満たないのに、ここではスケール感に溢れた見応え聴き応えのある曲に生まれ変わった。そしてそれも終わり、ひと足早く引き上げたリアムに続くようにして、他のメンバーもステージを後にする。以前はまるで無愛想だったアンディも、拍手し手を振りながら帰って行った。


 しかし場内はなかなか明るくはならず、やがて『Champagne Supernova』が流れ始める。すると、曲に合わせて場内大合唱。両端のスクリーンは、「NOEL」「LIAM」というプラカードやユニオンジャックを持ったオーディエンスを写したり、必死で曲を口ずさむ女のコの表情を捉えたりしている。曲はやがて打ち切られてしまったが、それでも大合唱は止むことはない。この後少ししてから客電がつき、期せずして場内からは拍手が起こった。至福の瞬間ということばが相応しいのは、むしろこのときの方だったかもしれない。











 オアシスのメンバーは、日本のオーディエンスは静か過ぎて面食らう、というようなことを言っていたことがある。確かに『Familiar To Millions』のDVDなどを見ると、本国イギリスでのファンの熱狂ぶりは凄い。会場の外では喧嘩があって警官隊が抑えていたり、コワモテの兄ちゃんが開演を待ち切れずに『Live Forever』を歌っていたり、といった具合で、血気盛んな連中が集結している。そんな彼らがライヴが始まればバンドを後押しし、バンドは彼らからエネルギーをもらって渾身のライヴをするという具合に、うまく循環ができている。


 日本ではファン層も少し異なり、さすがに同じノリで熱狂するのはちょっと難しい。しかしそれでも、来日を重ねるたびにファンは増えていると思うし、以前の公演では起こり得なかった場内の一体感も、感じられるようになった。進化しているのは、バンドだけではない。私たちもまた、彼らを追うようにして進化しているのだ。




(2002.9.29.)
















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