Oasis 2000.3.5:横浜アリーナ

まさかこんなにも緊張感を帯びてオアシスのライヴに臨むことになるとは思いもしなかった。というのは、3日の福岡公演でリアムがノドの調子が悪く序盤4曲ほどでステージを後にし、その後は全てノエルがvoを取ってライヴが続行されたからだ。更にはアンコールもカット。スタッフからの歯切れの悪い説明があり、福岡のファンは消化不良のまま会場を後にしなければならなかった。そうしたマイナスの状況を背負いながらの横浜3Days初日である。


 5時の開場と同時にダッシュしてグッズを購入。ジュースを飲んだりトイレを済ませたりして少し休み、それから座席の方に向かう。ワタシのチケットはセンター席6列目のノエル側なのだが、これがめちゃめちゃステージに近い。チケットが届き6列目というのを見たときは、横アリだし1万人規模の会場だし、ステージからは結構距離があるのだろうと思っていたのだが、これは95年にチッタで初めてオアシスを観たときよりも断然近いぞ(笑)。smash会員先行のパワーを初めて思い知る。


 時間きっかりの午後6時に客電が落ちる。この日のライヴはスカイパーフェクTVで生中継されることも関係しているのか。自分の席に慌てて向かう人も多く、なんとなく緊張感に欠けた雰囲気の中、場内アナウンスが終わらないうちに『Fuckin' In The Bushes』のイントロが響き渡る。果たしてリアムは復調しているのか?それともダメなのか?どっちなんだ!





 ステージ左側の袖の方から、ノエルを筆頭にメンバーが姿を見せる。アラン・ホワイト、アンディ・ベル、GEM。そして・・・、リアムだ!上下ともグレーのジャージ姿。着ぶくれしているようにも見える。どうやらガムを噛んでいるらしい。ノドは大丈夫なのか?果たしてライヴを最後までこなせるのか?


 乾いたdsのイントロ。続いてノエルのギターリフ。『Go Let It Out!』だ。リアムは右手にタンバリンを持ち、腰を落として下からしゃくるようにマイクに向かって歌うお馴染みのスタイル。ちゃんと歌ってるよ~。声出てるよ~。まずはひと安心。中盤からはノエルの後方に構えているサポートメンバーによるメロトロンのもの悲しい音色が冴える。


 私は先行試聴会でアルバム全曲を初めて聴いたとき、どの曲も重厚な奥行きを感じさせる中、この曲だけが今までのオアシス節を継承したある種の"軽さ"を備えていると感じていた。それが、今はぜんぜん違う印象を持っている。シングルに相応しいポップなメロディなのだが、他の曲と同様やっぱり普遍性を醸し出す懐の深さを感じるのだ。


 アルバム『...Giants』収録順そのままに『Who Feels Love?』へと続く。エスニックで不協和音のようなイントロが印象的だ。この曲は間奏の美しさが素晴らしい。ノエルはもちろん、新メンバーのアンディ・ベルやGEMの腕の見せ所でもある。アンディもGEMも、以前のギグジーやボーンヘッドに負けず劣らず地味だ(笑)。GEMは全身黒づくめ。アンディは黄色のTシャツ姿だが、パフォーマンスもサウンドも、必要以上に前面に出ることがなく、淡々と自己が成すべき仕事に徹している様子である。


 そして『Supersonic』。リアムの曲紹介のMCだけで場内も一気に湧き上がる。「俺は俺でなければならない。他の誰かになれはしないのだから。」この当たり前すぎるフレーズが、90'sのロックシーンを貫いた。そして2000年の今、オアシスがこの曲を高らかに歌い続けることの意味。まさかのセールス不振。プレスはまだしも、ファンの拒絶にも悩まされた。解散の危機にも追い込まれた。今やオリジナルメンバーはギャラガー兄弟しか残っていない。それを乗り切ったこと。バンドを続けようとした、歩き続けることに決めた強固な意思。それがデビュー曲、そしてデビュー曲を歌うバンドの姿にそのままにじみ出ている。これはナツメロなんかじゃない。これはファンサービスなんかじゃない。生まれ変わったバンドが改めて放つ叫びなのだ。咆哮なのだ。





 今までならここで『Some Might Say』を演奏していた。いよいよ問題の場面に遭遇か・・・。しかし、なんと飛び出したのは『Shakermaker』だ!今回のツアー初であるのはもちろん、前回の『Be Here Now』のツアーでも演奏されなかったと思われる。これはリアムのノドの調子を加味してのものか、それともワールドツアーの序盤として、いろいろと試しているところなのか。この曲はこの日のライヴのワンポイントになったかもしれない。


 『Acquiesce』はサビを歌うノエルが主役か。なんだかリアムがまるっきりノエルの引き立て役に回っているような感じだ。ここまでずっとそうだったが、リアムは自分の歌うパート以外はマイクスタンド前にしゃがんだり、ミネラルを口にしたりしている。ステージ右側の袖に行き、そこで何やらスタッフと話している模様。この、袖の方に行く度にドキッとしてしまう。なんとかどの曲も歌えているものの、確かにノドの調子は万全とは言い難い。またか。また引き下がってしまうのか。そうした不安が付きまとう。


 そしてリアムはほんとうに袖の奥に消える。ここでノエルの『Sunday Morning Call』『Where Did It All Go Wrong?』、つまり『Giants』からのノエルvoの2曲が披露される。ここがいわゆる"ノエルコーナー"とみなしていいだろう。あるいはリアムのノドを気遣ってのインターバルかもしれない。しかし『Don't Look Back In Anger』以来、ノエルはソングライターとしてのみならず、シンガーとしても覚醒を始めている。それはこの2曲でも一層顕著だ。ステージバックには青と赤の曲線の模様が映し出される。これは『Giants』中ジャケにもあるデザインで、メロトロンにも同様のデザインがあしらわれていた。


 ここでリアムがステージ上に舞い戻り『Gas Panic!』へ。重厚な曲が並ぶ『Giants』の中でもひと際抜きん出た大作で、オアシスが音楽的に次のステップに向かっていることを象徴する曲だと思う。『Giants』はシングル向け、ライヴ映えする曲が少ないと思っていて、それを今後のツアーでどう持って行くのかもバンドに課せられた課題だと思う。


 『Roll With It』で場内はタテ乗りになる。椅子席なんておかまいなしでモッシュだ。オアシスの曲は"みんなで歌える曲"は多いが、"みんなで踊れる曲"はあまりない。私自身はあまり好きな曲ではないのだが、なぜかこのときは無性に嬉しくなっていた。揺れる地面から伝わる地響きを心地よく感じていた。














 『Be Here Now』は、世界的規模では『Morning Glory』のセールスを大きく下回った(日本では『Be Here Now』が最も売れているようです)。サインを求めるファンが差し出すアルバムが『Definitely Maybe』や『Morning Glory』ばかりという現実に、さすがのノエルもこたえたようだ。最近のインタビューでは、ノエル自身が『Be Here Now』に対して否定的な発言が多く、メディアもノエルのことばに倣うようなコメントを発している。


 しかし、私は『Be Here Now』を素晴らしい作品だと思っている。オアシスはこういう音を出すべきだと、デビューの頃から待ち望んでいた音だと、そう捉えている。セールス不振という結果やノエルの嗜好が関係しているのか、この日のライヴで『Be Here Now』から演奏されたのは『Stand By Me』だけだったが、個人的にはこのライヴの臨界点だった。














 それは、私にとってのオアシスが何であるのかがこのときはっきりとわかったからだ。














リアムなのだ。リアムのヴォーカルなのだ。














 確かにノエルのソングライティングは素晴らしい。だけど、ノエルの書いた曲はやはりビートルズの曲には劣っているかもしれない。

 しかし、リアムのハイパーなヴォーカルは、ジョン・レノンやポール・マッカートニーを大きく凌駕しているのだ。ブチ抜いているのだ。














 私は今まで、オアシスのシングルやアルバムが出ると、迷わず購入していた。聴き込んでいた。来日が決まればチケット奪取に奔走した。会場に足を運び、ライヴを体感し、ここがよかった、あそこがダメだった、などと能書きを垂れていた。だけど、そうしたことを何年も続けているのに、私にとってのオアシスはこうだ!というのをずっと見つけられずにいた。



 私はこの日、ほとんどリアムだけを観ていた。それはもちろん福岡でのアクシデントのこともあった。この日のライヴが無事に成り立つのかという不安がそうさせたのかもしれない。














 プロ野球には、ペナントレース135試合の中でシーズンの行方を大きく左右する試合、大きく決定づける試合が1試合か2試合あるという。



 私はこの日のライヴが、オアシスが踏み止まるための、今後もバンドとして活動を続けて行くためのターニングポイントになるライヴだと感じていた。世の中的には『Be Here Now』はコケた。ツアーもコケた。休養を取った。ニューアルバムをレコーディングした。さあいよいよというときになってギグジーとボーンヘッドが脱退した。解散の危機がバンドを襲った。それをGEMとアンディ・ベルを迎えて蘇生させた。『Giants』を発表した。ワールドツアーが日本からスタートした。その矢先の福岡でのアクシデント・・・。この日のライヴは、絶対に成功させなくてはならなかった。まるで台風直撃を食らって中止になったフジロック97を背景にした、フジロック98のような位置付けだったのだ。



 恐らくはリアムも、ノエル以上にそのことを自覚していたのではないか。『Stand By Me』には、それがにじみ出ていた。ここまでどことなく不安定だったリアムのハイパーな歌声が、見事に甦っていた。4年半前にチッタで観たときも、2年前に武道館で観たときも、それは感じることができなかった。しかし、このときのリアムは違っていた。オアシスを存在させているもの、オアシスをオアシスたらしめているもの、それはこの男なんだ。リアムなんだ。私がオアシスを聴き始めて5年半。その間探し求めていたものが、はっきりしたような気がする。














 『Wonderwall』では歌詞を間違えて思わずはにかんでしまったリアム。『Cigarettes & Alcohol』ではアウトロでノエルが『Whole Lotta Love』のリフを弾くというひと幕も。今やノエルの独壇場の場と化した『Don't Look Back In Anger』から、本編ラストは若干スロー目の『Live Forever』でしめくくられる。














 アンコールは『Rock'n Roll Star』1曲だったものの、リアムがステージ右側のアリーナ席(通常のスタンド席)まで歩いて行き、この日ほとんど手にしていたタンバリンをオーディエンスに手渡すハプニングもあったりした。





























 アンコールが1曲カットされたこと(リアムのノドを気遣ってのことか)、演奏時間も短く感じられたこと(私は充分だと思いましたが)、客電がついたときに、思わず場内から「えーっ」という声が漏れたことなどから察するに、今回のライヴも恐らく賛否両論、観る人によって良し悪しが大きく分かれる内容になると思われる。私の場合は単に座席に恵まれただけ、とみなすこともできるかもしれない。縦長構造の横浜アリーナで、センター席の前の方で観ているのとそうでない人とでは、感想が全く同じはずなどないからだ。



 だけど、私は生オアシス3度目にして、初めて心底満足の行くライヴを迎えることができた。自分にとってのオアシスが何であるのかが明確になった。そして、このまま自滅してしまったかもしれないオアシスが蘇生して見せた。その場に居合せることができた。それだけで、もう充分なのだ。




(2000.3.6.)
















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