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スターダスト(ネタバレあり)

スターダスト

1971年。は、アルバム『世界を売った男』のプロモーションのため渡米。しかし、英国のマネージメントの手違いで観光ビザでの入国となり、ライヴはできないことに。マーキュリーレコードのロン・オバーマンが受け皿となり、ロンの運転するクルマで全米をまわる。

ロンが苦心して、ラジオ局への出演や音楽誌のインタビューや、酒場での歌う場などをとりつける。しかしボウイは気が乗らず、アメリカのラジオ局ではご法度の下ネタをしゃべって曲をかけてもらえず。雑誌のインタビューでは、はっきりしない受け答えをした末、披露したパントマイムも空回りする。

ボウイをはじめ、当時の妻アンジー、ミック・ロンソン、トニー・ヴィスコンティらが、実名のまま役者によって演じられている。しかしボウイ側非公認のため、ボウイの曲は一切使えない。劇中に流れるのは、ヤードバーズやをはじめとする、ボウイがカヴァーした曲になる。『世界を売った男』のアルバムジャケットは、ちらちら確認できる。

いちおう事実に基づくとされてはいるが、脚色もされているようだ。ワタシが持っている、いくつかのボウイの書籍を確認してみた。それらによると、『世界を売った男』は1970年暮れにアメリカで先行リリース。ボウイ渡米は、1971年2月。には、9月に会っている。

劇中では、ウォーホルとの面会は役者としてのカメラテストで、あまりいい感触は得られなかったことになっている。実際は、この年暮れにリリースする『Hunky Dory』にも収録している『Andy Warhol』を演奏したとか(本作では、『Hunky Dory』は完全スルーされている)。

また、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのライヴを観てその後ルーと直接話すも、ルーは3ヶ月前に脱退し、ボウイが話していたのはダグ・ユールだったというくだりがある。書籍では、ボウイがだと思って観たライヴはルーのソロだった、となっていた。

アメリカで不遇を強いられているボウイを観続けるのは、正直かなり辛い。『世界を売った男』は暗いと評され、アメリカ進出を意識するも、認めてくれたパブリッシャーはロンひとりだけ。観光ビザは、手違いではなく最初からそうなっていたのでは?とも思えてしまう。ロンにしても、放っておけず仕方なく相手しているところもある(にしては、この人はボウイのためにかなり頑張っていた)。

観ていて辛いは辛いが、兄テリーとの関係が描かれたのは貴重だった。テリーは精神を病んで病院に入るが、その後もボウイとの交流は続く。ボウイは、自分もいつか精神に異常を来すのではという恐怖に襲われる。実際、この時期のボウイはテリーのことでかなり苦悩していたようだ。ジャック・ブレルの英語版カヴァー『My Death』は劇中何度も歌われ、2人で口ずさむシーンもある。ある意味テーマ曲のような位置づけにある。

いつ事態が好転する、いつボウイが復活する、と思いながら観ていて、最後の最後になってようやくその兆しが見られる。ボウイは短髪の赤毛にし、バンドにもド派手な衣装を無理やり着させてステージに立つが、ライヴは大成功を収める。ボウイがステージに上がる直前、かけつけたロンとの短い対話には、感慨深いものがあった。

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