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アイム・ノット・ゼア(2008年)

アイム・ノット・ゼア(2008年)

トッド・ヘインズ監督で、の半生を6人の人物の生き方で描くという、意表を突いた発想の作品だ。

【6人の人物】
ウディ(マーカス・カール・フランクリン):ギターを抱えた黒人少年
ジャック():フォークシンガーから牧師へ
アルチュール(ベン・ウィショー):取り調べ?を受けている詩人
ロビー():偽りの結婚生活を送る俳優
ジュード():ロックスター
ビリー(リチャード・ギア):放浪者、無法者

つまり、劇中にボブ・ディランは存在しないどころか、名前すら出てこない。タイトルがなぜ「アイム・ノット・ゼア」なのかを、始まって10数分で理解した。ディランの半生とその数々のエピソードを、それぞれの人物に分散して表現させるという、パラレルワールドのような形態を取ったのだ。また6つのストーリーは明確に区切られてはおらず、相互に入り乱れて展開する。6人が直接的に出会うことはないが、間接的に触れ合うことはある(例えば、ロビーが映画の撮影をする現場にジャックの看板があり、またビリーが忍び込んだ列車の中で手にしたギターは、後にウディが手にするギターでもある、等)。

【6人とディランの相関】
ウディ
ウディ・ガスリーはディランが最も敬愛し影響を受けたフォークシンガーであり、ここでウディの名を用い少年という設定にしているところに、デビュー前の少年期のディランを表現しようとしたと思われる。田舎の一軒家に招かれてセッションするシーンがあるのだが、一緒にギターを弾くうちのひとりはリッチー・ヘヴンスだった。

ジャック
前半はフォーク期のディランそのもの、後半では牧師となるが、実際のディランは70年代後半から80年代にかけてキリスト教に傾倒し、それがもろに作風に出た時期もある。また、ジュリアン・ムーアが演じる女性フォークシンガーだが、ジョーン・バエズがモデルだろう。

アルチュール
アルチュール・ランボーと同じ名を語り、詩人としてのディランを該当させたと思われる。6人中最も登場シーンが少なく、映画の語り部的な位置づけにあるようにも見える。ワタシはわからなかったが、アルチュールが語ったことばには、ディランが実際に言ったことばもあったかもしれない。

ロビー
フランス人で美大生だったクレア(シャルロット・ゲンズブール)との結婚し、2人の子供をもうけながら不倫してしまっている俳優ロビー。ディランの結婚生活を描いていたとされていて、クレアのモデルはサラ夫人とスージー・ロトロのミックスと思われる。自宅にはクレアが描いた絵が飾られていて、ディランはスージーと付き合っていた頃に彼女の影響で絵を描くようになった、とされているからだ。

ジュード
まさに『No Direction Home』や『New Port Folk Festival』に描かれている、65~66年のディランである。ファンに「ユダ!(=裏切り者)」と罵倒されるのも実際にあったことで、だからジュードという名前になっているのだろう。ココという女性も登場するが、公式サイトではイーディ・セジウィックがモデルとされているものの、ニコも入っているのかなと思う。ケイト・ブランシェットが男を演じることで、中性的な色気のある人物像を描くことに成功している。

ビリー
時間軸的には他の5人と大きく異なり、西部開拓時代の田舎町にて暮らすビリーが町の権力者と対峙。これはディランも役者として出演し音楽も担当した映画『ビリー・ザ・キッド』の世界観らしく、最もワタシの理解が届かないところだった。

【音楽】
BGMとして流れるのは、ディランが歌うバージョンの曲。そして劇中にて演奏されているのは、サントラに参加している豪華アーティストたちのバージョンを適用していると思われる(俳優たちが実際に歌ったのもあったのかな)。

【結局・・・】
トッド・ヘインズといえば、グラムをテーマにした作品『ヴェルヴェット・ゴールドマイン』が浮かぶ。、ミック・ロンソンらをモデルにしたキャラクターが登場していて、『アイム・ノット・ゼア』も、同じアプローチで描かれていると感じる。

なのでこの作品はディランの伝記映画ではなく、ディランをモチーフにした寓話的な作品だと思う。ココに書いた以外にもディランに関するエピソードは多数盛り込まれていると思われ、ワタシも全てには気づいていないはずだ。そしてひとつ気になるのが、ジュードをジャンキーという設定にしているところである。実際のディランがそうだったのか、それともトッド・ヘインズによるディラン批判なのか。

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