80'sのUKを代表するソングライティングコンビといっていい、モリッシーとジョニー･マー。モリッシーの突出したキャラクターとカリスマ性、そしてマーのメランコリックなギターは、陰鬱で暗い曲でさえなぜかエネルギッシュに聴かせてしまう。『This Charming Man』はシングル代表曲のひとつで、リリース当初は収録されていなかった。彼らの"お里"マンチェスターからは、後年ストーン･ローゼズやオアシスも飛び出し、UKロックの聖地的存在となる。

　「食肉は殺人だ」という、またも辛らつなタイトル。その内容は、音や演奏はアルバムとしてのトータル性を増し、個々の曲の完成度も高くなった。モリッシーが手がける歌詞は内省的になり、"弱者こそが正しく美しい"なる、スミスのパブリックイメージも確立される(個人的には違和感あり)。彼らの所属はインディーのラフトレードで、日本では当初ビクターが受け皿となっていた(現在はワーナーから発売)。

　キャリア最高作の呼び声も高い1枚。前作ではジョン･ポーターとバンドが共同でプロデュースに携わってきたが、今作ではついにモリッシー＆マーのコンビでのプロデュースが実現。作品としての完成度が高いのはもちろんだが、セックス･ピストルズの向こうを張ったようなタイトル曲や、『The Boy With 〜』『There Is A Light 〜』といった、バンドを代表する際立った曲を収録していることにも注目。

　スミスではできない音楽をやりたいと、ジョニー･マーがリリース直前にバンドを脱退。バンドはメジャーレーベルEMIとの契約も済ませていて、モリッシーにとってはさあこれからという時だったのが、マーはバンドの限界を感じていたのだろう。今作はオリジナルとしてはラストになり、モリッシーの側に立って聴けばバンドがある高みに到達したように思え、一方マーの側に立って聴けば、失速しながらも世に公表しうるギリギリのレベルだったように思える。

　モリッシーはマーの代役を立ててバンドを存続させることをよしとせず、スミスは87年9月に解散。今作は解散後にリリースされたライヴアルバムで、BBCのラジオ番組用に収録された86年の音源だ。スタジオアルバムとはまるで異なる、アグレッシヴでハ−ドな歌と演奏。スミスは弱者の美学を追求するふりをして、実は強者の美学を目指していたのではないかと思わせる。私たち日本のファンにとっては、来日が果たされなかったことが悔やまれる。