ロキシーの『For Your Pleasure』と『Stranded』との間にリリースされた、フェリーのソロファースト。ヴィジュアルもサウンドも艶やかなロキシーとは区別する形で、アダルトな雰囲気漂う仕上りだ。曲は全てカヴァーで、ボブ･ディラン、ビートルズ、ローリング･ストーンズ、ビーチ･ボーイズといった大御所が多い。当時は副業的な意味合いだったのかもしれないが、個人的には"カヴァー王"フェリーのキャリアが始まった、記念すべき作品だと思っている。

　今度はロキシーの『Stranded』と『Country Life』の合間を縫ってリリース。またもや全曲カヴァーで、『Smoke Gets In Your Eyes』『You Are My Sunshine』『(What A) Wonderful World』といった、今やスタンダード化した曲を、渋くそして切なく歌い上げている。前作及び今作によって、フェリーがもともと持ち合わせていたカヴァー能力には磨きがかかり、ここでの修練がやがて『Jealous Guy』という極点に結びつく。レコーディングには、当時キング･クリムゾン在籍中のジョン･ウェットンが参加。

　ソロ3作目は、シングルのカップリング曲などを引っかき集めた編集ものに近い。しかし特筆すべきは、5曲にも渡るロキシーのカヴァーだ。『Re-Make/Re-Model』は屈折したサウンドのロキシーオリジナル(これがインパクトがあってカッコよかったのだが)とは異なり、落ち着いた仕上がりに。他の曲は、バンド色が薄くなってフェリーのヴォーカルが重視された仕上がりになっている。後々フェリーやロキシーの活動に深い関わりを持つ、クリス･スペディングがギターで参加。

　ロキシーが活動停止状態となり(当時は解散と発表されていたようだ)、ソロ活動がいよいよ本格化。初の全曲オリジナルで、タイトル曲は充実した出来を誇り、『Tokyo Joe』はリリースから20年後にドラマ主題歌に起用されてヒット。この年フェリーは初来日し、ソロとして公演を行っている。レコーディングやツアーメンバーにはフィル･マンザネラも加わり、今作やこのときのフェリーは、ロキシーの活動を引き継いだようにみなされていたようだ。

　カヴァー曲が復活し、ヴェルヴェット･アンダーグラウンドの『What Goes On』やトーキング･ヘッズも取り上げた『Take Me To The River』、スタンダード的なサム＆デイヴの『Hold On (I'm Coming)』など、6曲を収録。しかし個人的には『Sign Of The Times』『Can't Let Go』の冒頭のオリジナルが充実した出来だと感じていて、つまりカヴァーとオリジナルがうまく噛み合った作品と捉えている。しかし商業的には苦戦を強いられ、これが結果的にロキシー再編へとつながって行く。

　後期ロキシーはフェリーの美学を完成させるために機能し、その極致が『Avalon』だった。ロキシーは自然消滅的に解散するが、今作は『Avalon』を更に発展させたような完成度の高さと美の世界を誇っている(ただし、本人は『Avalon』と関連づけられることを拒否)。レコーディングには、デイヴ･ギルモアやトニー･レヴィンなどが参加。今作は前年亡くなったフェリーの父に捧げられ、またタイトルはフェリーが息子と娘を授かり、自らが父となったことに由来している。

　よく言えば、フェリーの美の世界が更に洗練され、大人の鑑賞にも充分に耐えうる出来。しかしAORでコンテンポラリーな方向に進み始めたという感の方が強く、ロック色が薄れてしまったのが聴いていて物足りない。バンド時代は言わば思春期で、年齢なりの作品を作ったらこうなったということなのだろうか。シングルカットされた『The Right Stuff』には、ジョニー･マーが参加している(時期としては、スミス脱退直後か？)。

　5年のブランクを経てリリースされたのは、久々となるカヴァー集。前作同様AOR方面に寄ってはいるが、この人のカヴァー能力の高さを再認識させてくれる出来だ。個人的には、ヴェルヴェット･アンダーグラウンドの『All Tomorrow's Parties』やキャロル･キングの『Will You Love Me Tomorrow』といった大物のカヴァーが聴きどころ。アンディ･マッケイがサックスとドラムで、メイシオ･パーカーがサックスで参加している。

　話題はなんと言っても、ブライアン･イーノの参加。イーノがロキシーを脱退したのが73年だから(解雇したのはフェリー)、20年以上の時を経ての再共演が実現した。フェリーの美学にイーノの手腕がからみ、久々にロック色が戻ってきている。レコーディングには、エリック･クラプトン･バンドでお馴染みのネーサン･イーストや、前作に引き続いてのアンディ･マッケイに加え、フィル･マンザネラまで参加。噂になっては消えていた、ロキシー再結成騒ぎに拍車をかけた。

　再びのカヴァー集。映画「カサブランカ」の挿入歌であるタイトル曲に代表されるように、全編にジャジーな雰囲気を漂わせている。バイオリンやクラリネットといった生楽器奏者を多数動員し、映画やテレビのBGMとして起用できそうなナチュラルさと完成度の高さはさすがで、ここまで開き直って徹底していると逆に気持ちがいい。しかしその反面、熱心なファン以外は手を出しにくいと思う。54歳のフェリーが、その年齢なりの作品を作ったということだろうか。

　前年のロキシー再結成ツアーを経て放たれた今作は、ソロキャリアのいいとこ取りをしたような意欲作になった。カヴァー＋オリジナルという構成は『Bride Stripped Bare』を思い起こさせ、これまで何度も取り上げてきたボブ･ディランから2曲をカヴァー。一方のオリジナルは、元ユーリズミックスのデイヴ･ステュアートを始め、ブライアン･イーノやレディオヘッドのジョニー･グリーンウッドなどが参加し、いずれも充実した出来に。前作は年齢なりだったが、今作では新たな勝負に打って出たという気合いがうかがえる。