椎名林檎 2008.11.29:さいたまスーパーアリーナ

1998年にシングル『幸福論』でデビューした椎名林檎。それから早10年の月日が経ち、デビュー10周年「林檎博」と題されたイベントが、さいたまスーパーアリーナで3日間に渡って行われることに。この日はその2日目で、まずはグッズ目当てで12時半過ぎに現地到着。販売は午後1時からだが、既に列が4重くらいになっていた。結局、1時間ほど並んだ後に無事購入。この後は駅近くで時間を潰し、開場時間を少し回ったところで入場した。今回の公演は、席種毎にお土産が用意されていて、S席の私がもらったのは旗、リボン、ポケットティッシュだった。





ステージは白を基調としていてかなり横に広く、そして直下がオーケストラピットになっていた。予定時間になったくらいにオーケストラの人たちがスタンバイし、音出しを。そして10分ほど経ったところで客電が落ちた。





1.『ハツコイ娼婦』
2.『シドと白昼夢』
3.『ここでキスして』
4.『本能』
5.『ギャンブル』

オーケストラによる長い前奏を経て、やがてステージ上に椎名林檎が腰掛けながら歌う姿が確認できた。林檎女史の衣装は薄いブルーのドレスに、なんと繭のような、鹿の角のような、異様なかぶり物をしていた。それまでもライヴやPVや宣材写真などで奇抜な格好をしてきてはいたが、過去最大級と言ってもいいインパクトのあるいでたちだ。途中からベースの亀田誠治、ギター、ドラムも加わり、バンド編成に。そしてソロ初期の曲を連射。個人的には懐かしく、また中には今回初めて生演奏を体感するファンもいるのではないだろうか。『ここでキスして』では、林檎女史はギターを弾きながら熱唱した。





−林檎の筋−

林檎女史を含むバンドメンバーは袖の方にはけ、ステージ上部のスクリーン、及び両サイドのスクリーンが稼動。椎名林檎のデビューから10年間を辿る、スライドショー上映となる。ソロ活動から東京事変を経て現在に至るまでを、シングルやアルバムのジャケットや宣材写真など、見慣れた写真によって、駆け足ではあるが紹介された。なおこの間、オーケストラにより『宗教』がBGM的に演奏されていた。





6.『ギブス』
7.『闇に降る雨』
8.『すべりだい』

林檎女史は前が白とブルー、後ろが黒というドレス姿で、そしてヘアピースもロングヘアのものになっていた。『ギブス』から『闇に降る雨』へのつなぎは、アルバム『勝訴ストリップ』収録バージョンにほぼ忠実に再現。『ギブス』のラストが打ち込み音が加速するモードになり、それが次の瞬間オーケストラによる『闇に降る雨』のイントロとなり、この流れはCDで聴いていたときから圧巻だったが、ライヴでの再構築も見事だった。シングルのカップリングの中でも際立つ部類に入る『すべりだい』も、素直に嬉しかった。



9.『浴室』

原曲は電子音によるイントロ。がしかし、ここでは林檎自らが吹き込んだと思われる「ダッダッダッダッ・・・」という音声がイントロになっている。ステージが回転し、林檎以外の3人は客席に背を向ける格好に。林檎はキッチンの前に立ち、歌いながら包丁で赤い林檎を切るパフォーマンスを。包丁を激しく動かすときはそれがスクリーンにどアップになっていた(でも、恐らく用意されている映像)。



10.『錯乱』
11.『罪と罰』
12.『歌舞伎町の女王』
13.『ブラックアウト』

ソロ時代のヒット曲を披露する中に、東京事変の『ブラックアウト』を交えてきた。ただ、オーケストラの方を基調にしていることもあり、通常のバンドバージョンとは曲の印象が異なり、ゴージャスでムーディな仕上がりになっていた。





−林檎の芯−

椎名林檎の生い立ちスライドショーで、ナレーションはなんと現在7歳という林檎女史の息子。「母」の生まれたときから2歳、4歳、小学生、中学生など、恐らく本邦初公開と思われる写真が次々にお目見えし、それを噛むこともなくナレーションする息子の声が可愛く、そしていじらしい。「母」だけでなく、祖母すなわち林檎の母の写真もあった。このときのオーケストラによるBGM演奏は、『やっつけ仕事』。



14.『茎』

林檎は再び衣装を替えていて、今度は柄物のドレスで、かなりヴォリュームのあるバルーンスカートだった。なおバンドメンバーやオーケストラの面々は、白衣を着用していた。



15.『この世の限り』
16.『玉葱のハッピーソング』

どちらも実兄である椎名純平とのデュエットソングだが、ここでステージに純平登場。純平は、ネイティブアメリカンがつけるような飾りを頭につけていた。林檎が向かって左の花道に、純平が右の花道に足を進め、ステージを挟み込むようにしてのデュエットとなった。ここまでほとんどしゃべらなかった林檎だが、自ら兄純平を紹介する。『玉葱のハッピーソング』は、カヴァーアルバムに収録。原曲はマーヴィン・ゲイであり、選曲の妙と純平の元々の特性であるソウルフルなヴォーカルが生きていた。



17.『夢のあと』

東京事変のナンバーだが、映画「さくらん」のサントラ『平成風俗』にも収録されていて、早くも2面性のある曲になっている。ここではオーケストラとのコラボということもあり、『平成風俗』バージョンに。



18.『積木遊び』

またも林檎は衣装替えしていて、イエローのトップスに白のショートパンツという、身軽な姿に。そしてステージの両サイドに4人の女性ダンサーが登場し、林檎と同じフリで踊りを。このダンサーたちはみなおかっぱのヘアピースを被っていて、遠目には林檎のコピーっぽく見えた(たぶんそれが狙いなんだろうけど)。



19.『御祭騒ぎ』
20.『カリソメ乙女 Death Jazz Ver.』

『御祭騒ぎ』は事変ナンバーで、今までの事変のライヴでは「ドメス旗」を振るのがお約束だが、ここでは客はお土産の旗を振って応戦。曲が終盤に差し掛かると、なんとステージ両サイドから阿波踊りの踊り子さんたちが多数登場し、女性ダンサーを先頭にして踊っていた。『カリソメ』では林檎女史は花道を歩きながら熱唱し、最後はステージの後方へ、白い壁がオープンし、林檎は後ろ向きに「落ちて」行った。





−Encore 1−

21.『正しい街』
22.『幸福論(悦楽編)』

『正しい街』では、林檎はギターを弾きながら熱唱。対して『幸福論(悦楽編)』では、マイクではなく拡声器を使っていた。またしても林檎は衣装替えしていて、今度はスパンコール地のショートドレスだった。なお、このときのみオーケストラは一度ピットを後にしていて、バンドオンリーでの演奏だった。





−Encore 2−

23.『みかんのかわ』
24.『(新曲)』

『みかんのかわ』は、林檎が7歳の頃に書いたという曲で、ものの20秒足らずのシンプルな曲だった。7歳ということは、これが林檎の「処女作」なのかな。新曲は、曲名を『余興』もしくは『度胸』と言っていたように聞こえた。事変を始めてからのソロ名義の活動は、斎藤ネコや長谷川きよしなど、必ず誰かとのコラボレーションという形を取っていて、音楽もやや変則的なスタイルになっていた。しかし、この新曲は久々の直球バンドモードで、これがソロ名義でリリースされるとしたら楽しみである。



−Endroll−

スクリーンに演者やスタッフ等の字幕が流れ、BGMとして『丸の内サディスティック』がかかる。英語~日本語~また別のことばと、フレーズ毎にいくつかの言語で歌い分けられていた。オーケストラの指揮者が誰なのかは私のところから判別できなかったのだが、斎藤ネコであることをこのエンドロールで確認できた。最後に浮かび上がったのは、「自作自演 椎名林檎」という文字だった。








ソロ単独名義での公演は、2003年の武道館以来約5年ぶりだった。東京事変では、林檎だけでなく各メンバーも曲を書いたりライヴでMCを務めたりと、5人のキャラクターがそれぞれ明確になっていて、いい意味で気が抜けていている。それに対してソロというのは、常に限界ギリギリのような切迫感があって、今回5年ぶりにその空気感を体感できた。林檎の参謀格である亀田誠治はこの日全くしゃべらず、また林檎自身もMCは最低限に留め、終始緊張感を漂わせてライヴに臨んでいたように見えた。その意気込みは成功だったと思うし、私が観続けてきた彼女のライヴの中でも、ベストに近い出来だったと言っていいと思っている。




(2008.12.7.)



















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