Radiohead 2008.10.8:東京国際フォーラム ホールA

来日公演も、いよいよこの日が最終だ。最寄駅である有楽町駅の改札を出ると、「チケット譲って下さい」のボードを掲げた人が前日に続いて結構いた。私は、ビックカメラの脇の階段を下りて地下から会場に向かったのだが、国際フォーラムの地下駐車場から通じているエレベーターの出口の前にも、ボードを掲げて待ち構えている人がいた。そんなこんなで、前座のモードセレクターが終了して少し経ったくらいの時間に中に入り、席について開演を待った。





前日と同じくらいの、時刻が午後8時を少し回ったときに客電が落ち、SEが鳴り響いた。まだ照明の当たらないステージにメンバーが登場してスタンバイし、『15 Step』でスタート。最終公演ということで、今回のツアー・スタンダードの幕開けに戻したようだ。続くは『Airbag』~『Just』と5日の公演をそのまま踏襲し、そして前日はオープニングだった『All I Need』となった。お次が、前日披露された『Kid A』で、なんだか来日公演を総括するかのようなセットリストの様相を呈してきた。


この日の私のポジションは、列にすると前日より少し後ろで、そしてステージ向かって左寄り、つまりエド側である。長身のエドとその後方に構えるコリンの様子がよく伺えたのはもちろんだが、右側に陣取るジョニーが曲毎にプログラミングに移行したり、奥のキーボードセットに移行するさまもよく見えた。私にとってはこの日が来日3公演目になるのだが、もちろんこの日だけ来ている人もいると思われ、各曲に対するリアクションは尋常ではないくらい高い。


そうした中でもやはり微妙に日替わり選曲があって、映画「ロミオとジュリエット」に提供した『Talk Show Host』、『Kid A』からの『In Limbo』など、嬉しいセレクトが入ってくる。そして、『The Gloaming』~『A Wolf At The Door』と、前作『Hail To The Thief』から連続で来た。特に後者は、『Hail ~』のラストナンバー。レディヘのアルバムのラスト曲はどれも聴きごたえがあり、不思議な輝きを放っているのだが、テクノロジーを全般に駆使している『Hail ~』にあって、『A Wolf At The Door』は比較的シンプルなアレンジで、混沌とした曲調で、淡々と歌い上げるトムのヴォーカルがメインに据えられている。特に今回のツアーでは『Hail ~』からの曲が大胆に削減されてしまっているので、これはとても嬉しかった。


日替わりレア曲は、これだけには留まらなかった。なんと、セカンド『The Bends』からの『Bullet Proof...I Wish I Was』まで!うほー。これだからレディヘの公演はやめられないし、来日したら最低でも2回は行かなくてはと思わされる。近年では大物アーティストでもセットリストを固定にしないのは珍しくはないが、やはり多くのアーティストはセットリストを定型にしていて、日替わりは専用のコーナーになっているのが大半だと思う。曲順を組み替え更にレア曲を注入するという手法は、観る側にとっては非常にありがたいが、演奏する側にとっては非常に手間のかかることのはずだ。だからこそ、後者をやってくれるアーティストは尊敬するし、プリンスやエルヴィス・コステロがそうであるように、レディヘも同様のアプローチを取ってくれていることが嬉しくてたまらない。





リードヴォーカルであり、MCも担うトム・ヨークがライヴの顔であるのは間違いがないが、観ていて楽しく、そして飽きないのはジョニーである。ギターのみならずさまざまな機材を自在に使い切るのは言わずもがなだが、実はギターに着目しても面白いのだ。エドは完全なリズムギター、トムは曲によってはイントロのリフを担いはするが、やはり基本はリズムギターだ。つまり、主要なフレーズはおおよそジョニーによるものなのだが、トムやエドが複数のギターを曲により使い分けているのに対し、ジョニーはほとんど1本だけでこなしている。


この日で言うと、トムと2人だけでの『Faust Arp』のときはセミアコであり、『Optimistic』のときには別のギターを手にしていたが、それ以外で使ったギターは全てテレプラスである。ボディーカラーがブラウンで、そして私のところからでは確認はできなかったが、恐らく日本のアニメーション「アタックNO.1」のステッカーが貼られているはずだ。メンバーの中で誰よりも音に対するこだわりが深いように思われるジョニーが、ほとんど1本だけのギターを駆使していることに、エリック・クラプトンやジェフ・ベックといった、偉大なる先人の系譜をたどっているように思える。





『Bodysnatchers』で本編を締めくくり、アンコールは『You And Whose Army?』で幕開けに。ピアノを弾きながら、目の前にセットされているCCDカメラに自分の顔をどアップになるようさらし、それが後方のスクリーンにモノクロで大写しとなって、そのさまが茶目っけがあって観ている方は和まされる。『Amnesiac』の曲ということで、初めて観たのは2001年の来日公演だが、場内を包む温かい雰囲気は同じで、そのときのことをふと思い出した。というか、あれからもう7年も経ってしまっていることの方に逆にびっくりした。


曲は『Videotape』を経て『Paranoid Android』となり、心なしか5日に聴いたときよりも表現力が増し、ドラマ性を帯びているように思えた。更にはこれも実は珍しい『Dollars & Cents』を経て、『Everything In Its Right Place』にて1回目のアンコールが終了。やはり電飾に歌詞が流れ、演奏終了後は「EVERYTHING」の文字が垂れ流しになったのだが、これらの文字は右から左に向かって流れていくため、ステージ向かって右にいる人はその文字が読み取れるが、向かって左側にいる人にとってはさっぱり訳がわからないということが、それぞれのポジションで2日続けて観たことでわかったのだった。


さて2度目のアンコールだが、まずはなんとトム・ヨークのソロアルバム『The Eraser』から、『Cymbal Rush』だ。トムはソロとバンドはきっちり分ける人のように勝手に思っていたので、これは意外だった。続くは、この日は演奏されないのではと思われていた『There There』で、エドとジョニーのツインパーカッション、中盤のジョニーのソロを拝むことができた。バンドのキャリアを通じても顔となるべき曲と思っていたのに、それがツアー必須でなくなっていることに少し寂しくなった。そしてオーラスは、前日不意に披露された『Blow Out』。私もそうだったが、前日ではこの曲へのリアクションはほとんどなかったが、この日はさすがに場内がざわついた。








レディオヘッドの凄いところは、サウンドクリエイトの面では道なき道を切り開いていくイノヴェーターでありながら、しかもそれが早すぎず、時代そして私たち一般人よりも「少しだけ」先に進んでいるのが絶妙なところだと思っている。そして新譜『In Rainbows』においては、まずはそのリリース形態で世界中の度肝を抜き、業界を震撼させた。CDかダウンロード配信かという媒体のあり方があいまいだったのが、これで一気に急進したのだ。以降のリリースの指針になり、批判するアーティストももちろんいたが、それはすなわちレディヘの影響下にあることの裏返しだったのだ。


一方で、レディオヘッドは決してライヴに絶対の自信を持つバンドではないというのが私の認識だった。クリエイトした音や世界観がライヴ向けかというのもあったし、彼らはもともとあまりタフとは言えず、日毎に浮き沈みのある青年たちであり、またそれが彼らの魅力のひとつでもあると思ったからだ。しかし今回のツアーは、彼らの表現力が飛躍したことを痛感させられたライヴでもあった。特に、世に出たばかりの『In Rainbows』、及び実験的で密閉感溢れる『Kid A』からの曲をライヴ映えさせたことが素晴らしかった。2000年代もいつのまにか終盤に差し掛かってしまったが、この年代にデビューしたアーティストたちは、レディヘに追いつくどころか、足元に及ぶのも困難な状態だろう。それを幸福と取るか不幸と取るかは人それぞれだが、少なくとも私はこのバンドと同じ時代を共有できていることを幸せに感じている。




(2008.11.2.)






























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