時刻が午後8時を少し回ったときに客電が落ち、シンフォニーのSEが鳴り響いた。場内はざわつき、そして座っていたオーディエンスは当然のように立ち上がり、バンドの登場を待った。やがて5人の姿が確認でき、そしてステージ中央にはピアノがあった。オープニングは『All I Need』で、そのしっとりめの曲調はアリーナクラスの会場ならば微妙だと思われるが、ホールクラスならアリだ。続いては『In Rainbows』のトップであり、今回のツアーでも冒頭に演奏されることの多い『15 Step』だ。
続いてはジョニーがプログラミング機材の下にかがんで操作をしていて、すると日本語の音声がランダムに飛び交った。恐らくは、このときにリアルタイムで放送されていたテレビかラジオの音を拾ってサンプリングしたのだと思う。これが少しの間繰り広げられた後、『The National Anthems』へとつながれる。コリンの重低音ベースが響き、ジョニーが奏でる電子音が絡み合い、トムの痙攣するヴォーカルも良好だ。
海外ではどうかわからないが、東京圏ではホールクラスでのライヴは超久々である。それが関係しているのかいないのか、選曲もどちらかというと地味でしっとりした曲が演奏されているように感じた。『Amnesiac』からの『I Might Be Wrong』や『Pyramid Song』、前作『Hail To The Thief』からは『Where I End And You Begin』『Myxomatosis』、と、『In Rainbows』のトーンに近い曲が並べられていて、リフや音量や音圧で圧倒、というよりは、観る側がいつのまにか吸い込まれていくかのような、不思議な感覚が漂い始めた。
先ほどの『The National Anthems』ではないが、この日の日替わり曲は何か、レアな曲の披露でもあるのか、というところに意識が行きながら、進行を見守った。すると、来たのが『Kid A』のタイトル曲だった。サマソニのときはオーディエンスを置き去りにするような具合になっていたのが、今回は場内のリアクションも上々で、観る側も追い付いてきたということだろうか。アンビエントに寄ったメロディは今なおインパクトがあり、トムのエフェクト加工されたヴォーカルがそれに乗ることで、観る側は一瞬ではあるが別世界に連れ去られたかのような感覚に陥ってしまう。アルバム『Kid A』がリリースされていつのまにか8年も経ってしまったが、この作品が持つ魔力は今なお有効だ。
終盤になり、『Climbing Up The Walls』『Exit Music (For A Film)』と、『OK Computer』からの2連発が。特に後者は、来日公演中どこかで必ず披露されると信じていて、それがこの日となったので、素直に嬉しかった。そしてここでも気付かされたのは、ジョニーの活躍ぶりだ。ジョニーが音へのこだわりを見せ、それが楽器のプレイぶりにも表れていったのは『Kid A』以降と思われていたのが、実はその前の『OK Computer』にて既にその萌芽はあったのだ、と。この後『Bodysnatchers』となり、ああここで本編が終わるんだなと思っていたら、5日のオーラスだった『How to Disappear Completely』が披露された。
最早お約束の2度目のアンコールだが、『House Of Cards』で幕開けとなり、これでめでたく?『In Rainbows』の全曲がこの公演の中で披露された。新譜がリリースされれば、そのツアーでは新譜からの曲が軸になるのは当然と言えば当然だが、にしても全曲を演奏するというのは、いや「できる」というのがすごい。それは音そのものに相当のクオリティがあり、かつそれをステージ上で再構築できる表現力と、観る側に対する説得力がなければなしえないことだと思うからだ。
続く曲が恐らくこの日最大の飛び道具で、それは『Blow Out』だった。バンドが意図的にライヴで演奏するのを控えているのがミエミエの、ファースト『Pablo Honey』からで、その中でもかなりレアな選曲と言っていいだろう。そしてオーラスが『Everything In Its Right Place』で、この日はイントロで『True Love Waits』のフレーズを少し歌ってくれた。ラストのアウトロのところに差し掛かるとメンバーがひとりずつステージを後にし、最後にエドが去った後、SEだけがしばし反響した。垂れている電飾には、演奏中に歌詞が流れていて、それが演奏が終わり客電がついた後も、「EVERYTHING」の文字が右から左にエンドレスで流れ続けていた。