Radiohead 2008.10.7:東京国際フォーラム ホールA

ウイークデーの公演であること。グッズは5日の公演前に購入済みであること。オープニングアクトのモードセレクターが、全公演に帯同していること。これらの理由により、私が会場入りしたのは開演時間から30分くらい過ぎた頃だった。ロビーで少し休んでいると、モードセレクターのライヴが終わったらしく、フロアからロビーに人が溢れ出てきて、トイレの前には行列ができるようになった。やがてフロア内に入ってみると、さいたまスーパーアリーナよりも格段に密閉感があり、ステージが近いことを当然ながら実感する。





時刻が午後8時を少し回ったときに客電が落ち、シンフォニーのSEが鳴り響いた。場内はざわつき、そして座っていたオーディエンスは当然のように立ち上がり、バンドの登場を待った。やがて5人の姿が確認でき、そしてステージ中央にはピアノがあった。オープニングは『All I Need』で、そのしっとりめの曲調はアリーナクラスの会場ならば微妙だと思われるが、ホールクラスならアリだ。続いては『In Rainbows』のトップであり、今回のツアーでも冒頭に演奏されることの多い『15 Step』だ。


5日の公演では私のポジションはステージ向かって右のスタンド席だったが、この日は列では1階の真ん中程度でステージ向かって右寄りだった。会場のキャパシティそのものが大きく異なることもあるが、この日はステージの様子がよく見えた。エドとコリンが『15 Step』のリズムに合わせて手拍子をしていてそれがオーディエンスにも伝播したのだが、これって5日のときにあったっけ?と思ってしまった。


続いてはジョニーがプログラミング機材の下にかがんで操作をしていて、すると日本語の音声がランダムに飛び交った。恐らくは、このときにリアルタイムで放送されていたテレビかラジオの音を拾ってサンプリングしたのだと思う。これが少しの間繰り広げられた後、『The National Anthems』へとつながれる。コリンの重低音ベースが響き、ジョニーが奏でる電子音が絡み合い、トムの痙攣するヴォーカルも良好だ。





ステージ全体が見渡せることで、5日のときにはわからなかった様子も手に取るようにわかった。後方のスクリーンは常時5分割というわけでもなく、曲により4分割だったり6分割だったりした。また追うメンバーも5人均等ではなく、曲により楽器を替えているメンバーをピックアップしたり、あるいは全てトムだったりした。曲毎の楽器チェンジもかなり頻繁で、ギターのトムやエドはまだしも、コリンがベースを交換しているのにはびっくりした。ステージ上部から吊るされている、無数の棒状の電飾は、曲にシンクロするようにブルー/パープル/イエローなどの色に変色し、そして発光していた。


海外ではどうかわからないが、東京圏ではホールクラスでのライヴは超久々である。それが関係しているのかいないのか、選曲もどちらかというと地味でしっとりした曲が演奏されているように感じた。『Amnesiac』からの『I Might Be Wrong』や『Pyramid Song』、前作『Hail To The Thief』からは『Where I End And You Begin』『Myxomatosis』、と、『In Rainbows』のトーンに近い曲が並べられていて、リフや音量や音圧で圧倒、というよりは、観る側がいつのまにか吸い込まれていくかのような、不思議な感覚が漂い始めた。


先ほどの『The National Anthems』ではないが、この日の日替わり曲は何か、レアな曲の披露でもあるのか、というところに意識が行きながら、進行を見守った。すると、来たのが『Kid A』のタイトル曲だった。サマソニのときはオーディエンスを置き去りにするような具合になっていたのが、今回は場内のリアクションも上々で、観る側も追い付いてきたということだろうか。アンビエントに寄ったメロディは今なおインパクトがあり、トムのエフェクト加工されたヴォーカルがそれに乗ることで、観る側は一瞬ではあるが別世界に連れ去られたかのような感覚に陥ってしまう。アルバム『Kid A』がリリースされていつのまにか8年も経ってしまったが、この作品が持つ魔力は今なお有効だ。


終盤になり、『Climbing Up The Walls』『Exit Music (For A Film)』と、『OK Computer』からの2連発が。特に後者は、来日公演中どこかで必ず披露されると信じていて、それがこの日となったので、素直に嬉しかった。そしてここでも気付かされたのは、ジョニーの活躍ぶりだ。ジョニーが音へのこだわりを見せ、それが楽器のプレイぶりにも表れていったのは『Kid A』以降と思われていたのが、実はその前の『OK Computer』にて既にその萌芽はあったのだ、と。この後『Bodysnatchers』となり、ああここで本編が終わるんだなと思っていたら、5日のオーラスだった『How to Disappear Completely』が披露された。





アンコールでメンバーが登場したとき、場内からは『Happy BIrthday』の歌が少しではあるが歌われた。実はこの日はトムの誕生日であり、この日で40歳になったそうだ。しかしステージからイントロのSEが流れてしまったことで歌はかき消されてしまい、そのまま『The Gloaming』へ。そして『Videotape』となるのだが、その前にトムはいちおう反応してくれて、「I'm older♪」とも言っていた。『Bangers & Mash』ではミニドラムセットがステージ前方に用意され、トムがその中に収まって叩きながら歌うという、珍しいプレイを拝むことができた。『Idioteque』ではトムが痙攣ダンスを披露し、『The Bends』からの『Street Spirit (Fade Out)』で終了した。


最早お約束の2度目のアンコールだが、『House Of Cards』で幕開けとなり、これでめでたく?『In Rainbows』の全曲がこの公演の中で披露された。新譜がリリースされれば、そのツアーでは新譜からの曲が軸になるのは当然と言えば当然だが、にしても全曲を演奏するというのは、いや「できる」というのがすごい。それは音そのものに相当のクオリティがあり、かつそれをステージ上で再構築できる表現力と、観る側に対する説得力がなければなしえないことだと思うからだ。


続く曲が恐らくこの日最大の飛び道具で、それは『Blow Out』だった。バンドが意図的にライヴで演奏するのを控えているのがミエミエの、ファースト『Pablo Honey』からで、その中でもかなりレアな選曲と言っていいだろう。そしてオーラスが『Everything In Its Right Place』で、この日はイントロで『True Love Waits』のフレーズを少し歌ってくれた。ラストのアウトロのところに差し掛かるとメンバーがひとりずつステージを後にし、最後にエドが去った後、SEだけがしばし反響した。垂れている電飾には、演奏中に歌詞が流れていて、それが演奏が終わり客電がついた後も、「EVERYTHING」の文字が右から左にエンドレスで流れ続けていた。








私が初めてレディオヘッドのライヴを観たのが、ちょうど10年前の来日公演で場所も同じ国際フォーラムでだった。そのときは2階席で観ていたのと、自分の中での認識があまたあるUKギターバンドのひとつという位置づけでしかなかったので、当時それなりにCDは繰り返し聴いていたつもりではあったが、彼らの表現をしっかりと理解したとは言い難いものがあった。


以降アリーナクラスの会場で何度か彼らのライヴを観てきたが、今回は最もステージに近く、かつよく見えるポジションでのライヴ体感となった。また自分の中でのレディヘのポジションも『Kid A』を機に大きく変貌し、熱の入りようも尋常ではなくなってきた。フェスに出演すれば間違いなくメインステージのヘッドライナーにブッキングされるであろう今の彼らを、まさかホールクラスのキャパシティで観られるとは思ってもみなかったし、その密度の濃さは想像以上だった。10年の間にバンドも私ももちろん年を取り考え方も変わったが、10年を経てこうして同じ場所で「再会」ができたことを、とても嬉しく思っている。




(2008.10.27.)






























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