Foo Fighters 2008.4.13:幕張メッセ国際展示場ホール

入場しフロアに入った途端、我が目を疑った。ステージに向かって右の前方がA2ブロック、左前方がA1ブロックとなっているのだが、A1とA2の間に花道ができていたのだ。ハイドパークのライヴDVDでも花道はあって、密かに期待はしていたのだが、一方でそれが日本で実現するとは思えなかった。これまで個人的に何度も幕張メッセのライヴに足を運んでいるが、花道が設置されていたことは一度もなかったからだ。整理番号が早かった私は、ステージ前方に陣取ることもできたのだが、花道の先端がよく見える位置に陣取ることにした。


オープニングアクトのハイファイ・ハンドグレネイズは、ほぼ定刻通りに登場。ギター×2人、ベース、ドラムという典型的なギターバンドで、ヴォーカルは2人のギタリストが2:1の割合で分け合って担当している。音の方も、これまた典型的なポップパンクだ。一生懸命やっている姿には好感を抱くことはできるが、いかんせんフーファイとは音楽的な共通点を見出すのは難しい。ゼブラヘッドの前とか、あるいはパンクスプリングなら、もっとマッチできたはず。観る側としては終盤はダレてしまって、早く終わんないかなあという感じに。結局彼らは45分ほど演奏したのだが、長くても30分に留めておくべきだったと思う。今回は顔見せで、夏のフジロックにもエントリーされるかもよ。





セットチェンジに約20分ほどかかった後、場内が暗転。いよいよその時が来た。歓声と怒号が飛び交う中、メンバーがゆっくりと登場。それぞれが持ち場につき、早速ゆる~くイントロが流れる中、なんとデイヴ・グロールがギターを弾きながら花道を歩いてきてくれた。A1、A2ブロックとも蜂の巣を突っついたような騒ぎになり、徐々に自分の方に近づいてくるデイヴを見て、私も大興奮。やがてデイヴは花道の先端まで来ると、私との距離は数メートルにまで縮まった。花道に繰り出してくるのはもっと先のことと思っていただけに、出だしからやられてしまった。


デイヴがステージに戻って、『Let It Die』でライヴはスタート。前半は穏やかな曲調なのだが、徐々にエモーショナルになっていき、後半になると音はラウドに、そしてヘヴィーにシフトしていく。海外の公演のセットリストを見ていて、正直この曲がオープニングとしてはどうかと思っていた曲だが、それも杞憂に終わった。お次はすかさず『The Pretender』となり、場内は更に湧く。が、ステージを観てびっくり。フーファイの4人だけでなく、サポートメンバーが加わっていたのだ。


見てすぐわかったのは、向かって左端に陣取っていたパット・スメアと、その後方のひな壇でキーボードを操るウォールフラワーズのラミ・ジャフェの2人。一方向かって右の後方にはパーカッションがいて、この人はドリュー・ヘスター。そして、右前方にはチェロを弾く女性がいた。つまり、これはアコースティックライヴと同じ編成であり、彼ら4人が今回サポートメンバーとして参加していることになるのだ。8人編成での重厚なサウンドはさながらオーケストラの様相を呈していて、ショウは早くもピークに達した。





サポート4人がステージを後にし、再びフーファイ4人でのパフォーマンスとなる。『Times Like These』を経て、ライヴでその効力を発揮する『Breakout』となり(この曲は、ライヴで演奏し続けることで成長してきた曲だと思う)、もちろんサビは大合唱に。ここまでの流れは完璧だ。この後デイヴのMCとなり、Mt.フジ(←フジロックのことと思われる)では1時間(つまり、97年のときのことを言っているのかな)、武道館では1時間20分の演奏だったけど、でも今日は2時間やるぜ!と高らかに宣言。そして、『Learn To Fly』~『Cheer Up Boys』へとなだれ込む。


続くは、ファーストからの『This Is A Call』だ。さてメンバー配置だが、向かって右前方にベースのネイト・メンデル、左にはギターのクリス・シフレット。後方はひな壇になっていて、中央のドラムセットにテイラー・ホーキンスが収まっている。デイヴ・グロールはもちろん前段中央で、当然ながらライヴの盛り上げ役も担っている。花道にまで繰り出すこと数知れず、その都度フロアは湧き、私の興奮度のメーターも振り切れる。ステージに戻っても、デイヴは右端や左橋に足を進めてはその場で拳を振り上げつつギターを弾き、首を激しく振って長髪を振り乱している。何度となく「Wooooo Yeahhhhhh」と絶叫していて、そこにライヴならではの生々しさを実感できる。


そして2度目のピークとなったのが、『Stacked Actors』だ。この曲もライヴの場で磨かれ進化している曲だと思っていて、2005年のフジロックではデイヴはステージを降りてPA後方に設置されていた照明用のやぐらにまでよじ登り、またハイドパークのDVDでは花道に繰り出してそこで演奏を続けていた。では今回はというと、まず中盤でネイトとクリスが捌けて行き、デイヴとテイラー2人でのプレイになる。やがてデイヴも捌けて行き、テイラーのドラムソロがしばし続く。テイラーの独壇場がしばし続いた後に3人が戻り、再び『Stacked Actors』の演奏を続けるという具合だ。





この後アコースティックセットにシフトチェンジし、サポートの4人が再び登場。『Best Of You』のカップリングだった『Skin And Bones』は、アコースティックライヴのアルバム/DVDのタイトルになったこともあってか、今や特別な意味合いを持つ曲になった。アコースティックとはいえ、中盤までは穏やかな曲調で進んでいたのが、終盤は8人の技量が結集した、壮大なシンフォニーへと進化する。かなり古い曲と言って始まった『Marigold』は、ニルヴァーナ時代に唯一採用された、デイヴが書いた曲。それから曲間を切らずに『My Hero』へとつないで行く。


この後デイヴがメンバーをひとりずつ紹介。パット・スメアのみアコギセットに変わった時点で紹介していたが、向かって左から右へという具合でひとりずつ紹介していき、された側は軽くソロを披露。中でもドリューのときにデイヴはこの人を前の方に呼び寄せ、ドリューはなんとトライアングルでソロを披露。だだっ広い会場に小さなトライアングルの音色だけが響き、それを1万人が耳をひそめて聴くというのはとても奇妙な感覚だったが、不思議とサマになっていた。


4人のサポートのうち3人はアコースティックツアーで既にお目見えしているメンバーだが、チェロ/バイオリンの女性はチェンジしていて(前回はペトラ・ヘイデンという人)、今回はジェシー・グリーンという人だった。デイヴもジェシーに気を遣い、ジェシーは今回初めて日本に来たんだと彼女を紹介し、デイヴのギターとジェシーのバイオリンによる即興の演奏も披露された。なおジェシーは、ペトラもそうであったように、曲によってはバックヴォーカルも担当している。


そうして最後に紹介されたのがテイラーで、すると流れは必然的にテイラーがリードヴォーカルを取る『Cold Day In The Sun』となる。テイラーは自らのバンドも持っていてウドーフェスで来日もしている。『Cold Day ~』はフーファイの曲だが、テイラーのソロ活動の方もちょっぴり気になるところだ。この後は、やはり後半がエモーショナルになる『But Honestly』。デイヴは曲は必ずアコギを弾きながら書くと言っていて、アコースティックを単なる渋くて地味な仕上がりに留めるのではなく、むしろハードでアグレッシヴな要素を注入しようという意思が伺える。





そして、名曲『Everlong』だ。ステージはデイヴひとりとなり、デイヴがセミアコを弾きながら切々と歌う。バンドスタイルとは異なる、音数の少ないシンプルなアレンジながら、これが装飾を取っ払い曲を丸裸にしたようで、聴く側としては一層歌詞の方に耳が行く。この瞬間はいつまで続くんだろう♪こんな気持ちを2度と味わえるだろうか♪というフレーズは泣けてくるし、ラヴソングの体裁を取りながらも、この曲はフーファイのテーマ曲であると私は思っている。終盤になるとメンバーが舞い戻り、重厚な音圧が一体となって押し寄せ、観る側を圧倒した。


再びフーファイ4人の編成に戻り、デイヴもギターをエレキに持ち替えてギアチェンジだ。『Monkey Wrench』~『All My Life』という、なんとも贅沢なキラーチューン2連発で、これで暴れるなという方がムリな話だ。武道館ではオープニングだった『All My Life』が、この日のライヴでは本編を締めくくるという格好になっていて、この曲に限らずフーファイのキャリアにおいて選ばれし曲とそうでない曲とが、クリアになってきた気がする。





アンコールは、まずドリューとジェシーが加わった6人編成となった。デイヴは今日初めてフー・ファイターズのライヴを観に来た人に捧ぐと言い、『Big Me』が演奏された。続くは新譜『Echoes, Silence, Patience & Grace』からシングルカットされている『Long Road To Ruin』で、今度はドリュー&ジェシーと入れ替わりにパットとラミが加わっての6人編成で演奏。ラミはウォールフラワーズのメンバーでもあり、しかもジェイコブ・ディランの参謀的な存在である。こういう人を自分のツアーに引っ張ってこれるデイヴの人望の厚さと人脈の広さには感嘆するが、私個人としてはウォールフラワーズの活動も気になるところだ。


そんなこんなで、いよいよオーラスを迎えることに。今やフーファイを代表する決定的な曲になりつつある『Best Of You』である。間奏のときに「Ohhhhhhh~Ohhh♪Ohhhhhhh~Ohhh♪」とデイヴが歌うフレーズがあるのだが、ここでオーディエンスも応え、この日何度目かの、場内が一体になる瞬間がやってきた。デイヴは、この夏、この冬、来年、いや、またいつか、でもきっと、また帰ってくるよ!と言い放ってくれた。








前作『In Your Honour』のときは、通常セットとアコースティックセットを完全に分けて行うというスタイルでツアーしていて、日本では東京のみ両パターンの公演を観ることができた。今回はひとつの公演の中にアコースティックセットをも盛り込んだだけでなく、そのときのメンバーまでも動員して同じ編成でライヴを行うというスタイルを取っていて、観る側にとって1度で2度おいしい的な格好になっていた。


サポートメンバーのうち、ラミ・ジャフェに対する想いは上述の通りだが、ラミと同じくらい嬉しいのがパット・スメアの参戦だ。今更言うまでもなく後期ニルヴァーナのサポートメンバーであり(『MTVアンプラグド』でもこの人の姿を確認できる)、そして初期フーファイのメンバーでもあった人だ。パットがフーファイを脱退した当時の理由を私は知らないが、こういう形でまたデイヴと同じステージに立ってくれていることが、長くこのバンドを観続けてきた身としては感慨深いものがあるし、そしてそれはきっと、当の本人たちも同じ気持ちに違いない。


『In Your Honour』で、バンドは音楽的にひとつの高みに到達した。またそのツアーにおいて、デイヴは長らく悩まされてきたであろう元ニルヴァーナというキャリアを冷静に見つめ、またユーモラスに語れる境地に至ったのではないかと思っている。そうした流れを経ての新譜『Echoes, ~』はバンドの立ち位置を更に強固にしたものであり、フー・ファイターズが偉大なる先人~例えばレッド・ツェッペリンやU2といった正統派王道ロックバンドが残した轍に足を踏み入れたものと感じている。




(2008.4.19.)






























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