Foo Fighters 2006.12.1:東京厚生年金会館

入場時に配布されたチラシや会場内に張り出されていたポスターには、バンド公認という携帯用特設サイトのURLやQRコードが掲示されていた。早速コードを読み取ってアクセスしてみると、開場から開演時間中のみ壁紙がダウンロードできるサービスが提供されていた。単独来日が久々ということもあり、レコード会社が鼻息を荒くしてこういうサービスを考えたのだろうか。


 客の年齢層は、思った以上に高かった。この日の公演がアコースティックライヴと銘打たれていて、会場が椅子席のホールになっていることもあったのだろう。ただよく考えてみれば、フー・ファイターズのキャリアはとっくに10年を越えており、増してやニルヴァーナ時代から数えると、更に5年くらい上乗せされることになる。『Nevermind』をリアルタイムで聴いていた学生が、妻子持ちになっていても不思議ではない年月が経っているのだ。





 予定より10分くらい経ったところで客電が落ち、まずはデイヴ・グロールがひとりだけで登場。ステージ中央前方の椅子に腰掛けると、単独公演で日本に来るのは8年ぶりになるんだ、待たせてゴメン~といったようなことを語り、サンキュー、グッナィッと言ってステージを去ろうとした。もちろんコレはジョークで、再度椅子に腰掛けてギターを弾きながら歌い始める。オープニングは『Razor』だ。


 中盤まではデイヴが爪弾くエレアコの音色がクリアでそして心地よく響き渡り、抑え目のヴォーカルも渋味が効いていた。やがて他のメンバーもステージに姿を見せ、それぞれ持ち場について演奏に加わる。すると演奏はどんどんラフになり、終盤に向かってテンポも早くなり、エレアコをかきならすデイヴの上半身は大きく揺れ、長髪も振り乱れ、そして最後は計ったかのように全員が揃ってピタッと演奏をストップ。1曲目にして早くも力の入ったパフォーマンスになり、コレだけでオーディエンスはぐっと引き込まれた。


 続いては『Over And Cut』~『On The Mend』という、『In Your Honour』のアコースティックディスクからの曲が披露される。CDで聴く限りこれらの曲は非常に地味だが、この場ではそうはなっていない。それは、まずメンバーが豪華だからだ。ステージにはデイヴ、ベースのネイト・メンデル、ギターのクリス・シフレット、ドラムのテイラー・ホーキンスといったフーファイのメンバーのほか、4人のサポートがいる。パーカッションやビブラフォンのドリュー・ヘスター。バイオリンのペトラ・ヘイデン(女性)。キーボードを担当するは、ウォールフラワーズのラミ・ジャフェ。そしてもうひとりのギターが、「あの」パット・スメアだ。


 8人編成という大所帯になっていて、当然ながら音数も増え、そして音のバリエーションも格段に広がり、表現力が二重三重になっている。ステージの上部にはバンドのイニシャル「FF」が記されたエンブレムがあり、その両サイドには『In Your Honour』のジャケットでも確認できる鷹が向かい合っている。照明は演奏に合わせて効果的にステージを彩り、またメンバーのソロになったときはその人にスポットが当たる。シンプルなライヴであるからこそ、こうした演出効果は一層重要な気がする。





 アコースティックライヴの魅力は、いくつかあると思っている。エレクトリックとして世に知られている曲を、原曲とは異なるアレンジで演奏することで丸裸にし、曲そのものが本来備えている魅力が明らかになる。『My Hero』は原曲はかなりエモーショナルだが、ここでは穏やかで深みのある曲に生まれ変わっていた。そして『Walking After You』などまさにそうだったのだが、エレクトリックよりもアコースティックの方がハマっているのではと思わせる曲も出てくる。


 『My Hero』の前に演奏されたのは、デイヴがニルヴァーナ時代に書いていて、『Heart Shaped Box』のカップリングとして収録されていた曲『Marigold』だった。極端なことを言えば、この1曲を聴くためだけでも、この日のライヴは観る価値があった。雑誌のインタビューで読んだのだが、ニルヴァーナのことはどうしたってつきまとうし、自分はニルヴァーナにいたことを誇りに思っているのだからと、デイヴは語っている。ニルヴァーナに対してここまで柔軟なスタンスを取れるようになったのは、逆に言えばフー・ファイターズとしてやってきた仕事に自信があったからこそだと思う。


 『See You』のときには、メンバー紹介も兼ねて各自のソロが披露された。ほとんどのメンバーは椅子に腰掛けて演奏していたのだが、終始立ったままでプレイし、複数ある鍵盤を自在に操っていたのが、キーボードのラミ・ジャフェだった。個人的には5年前のウォールフラワーズの公演も観ているので、この人がこうした形で再び日本に来てくれたことがとても嬉しかった。そして最も喝采が大きかったのは、やはりパット・スメアのソロのときだった。パットはステージ左端に陣取り、左足を投げ出すようにしてギターを弾いていた。金髪のヘアと褐色の肌がまぶしく、ぱっと見はアジャ・コング風だった(笑)。


 クリスやネイトなど、ふだんならデイヴの影に隠れてしまいがちなフーファイメンバーも、それぞれソロを披露した。紅一点ペトラによるバイオリンも、他の生楽器とは異なる音色が心地よかった。テイラーのドラムに至っては、デイヴが全幅の信頼を置いているだけあって、貫禄さえ漂うプレイだった(デイヴとテイラーによる会話のようなMCも何度かあった)。しかしこのソロ合戦で最も目立っていたのは、最後を務めたドリューだった。この人のパーカッションプレイがしばし続いた後で、元の演奏に戻っていった。





 そして、今度はテイラーがリードヴォーカルを取る『Cold Day In The Sun』だ。例の『In Your Honour』アコースティックディスクの中では最もポップな曲だと思っていて、それをデイヴでなくテイラーがフロントでというのが、なかなか興味深い。テイラーは今年自身のバンドを率いてソロアルバムをリリースし、ウドーフェスで来日もしている。この人の課外活動も、フーファイ本体に好影響をもたらしているのかもしれない。更にはテイラーに続いて、ペトラがリードヴォーカルを。そして曲のセレクトがめちゃめちゃツボで、『Floaty』に『Big Me』という、いずれもファーストアルバムからだった。


 先頃リリースされた、アコースティックアルバムのタイトルにもなっている曲『Skin And Bones』を経て、本編ラストは『Times Like These』。メンバー全員の力量が結集され一点に集中したかのような素晴らしい演奏を経て、終盤に差し掛かったときに全員が手を止めた。一瞬だけ無音の状態となり、場内が静寂に包まれるが、その後にデイヴの「It's times like these ~♪」という肉声だけが響き渡り、最後にデイヴはテンポを落としてしっとりと歌い上げて締めくくった。





 アンコールは、デイヴひとりだけが登場。いつのまにかマイクスタンドは立てられていて、デイヴはその前に立って語り始める。ふだんのロックショウではこんなにしゃべることはないけど、こういうことができるのもアコースティックライヴのいいところなんだ。そして次の曲は、カートとクリス、2人のことを思って書いた曲だ。・・・こう言った後、デイヴ自身の口から、若い頃のことやニルヴァーナ時代のエピソードが語られる。


 オレは昔、スクリームというパンクバンドで活動していた。あちこちをツアーして回ったが、中には客が2人だけというときもあった。やがてスクリームは解散してしまい、金がなかったオレは友人であるメルヴィンズのメンバーを頼った。するとそいつから、ニルヴァーナがドラマーを探しているから会ってみたらどうだと紹介された。カートとクリスとは空港で初めて会ったが、最悪の出会い方だった。クリスは長身で、一方のカートは小柄だった。オレたちはやがて共同生活を始め、『Nevermind』の制作を始めた。・・・だいたいではあるが、こんなことが語られた。そして披露されたのが、『Friend Of A Friend』だった。


 しっとりした場内の空気を引き裂くかのように、デイヴが「I've got another confession to make ~ ♪」とシャウトした。問答無用の『Best Of You』だ。バンドスタイルとは真逆の、デイヴがひとりだけでエレアコを弾きながら熱唱するスタイルだが、デイヴの姿が異様なまでに神々しかった。個人的に、過去何度かアコースティックライヴやアコースティックコーナーというのを体験してきてはいるが、これほどまでにエモーショナルで、これほどまでに緊張感に溢れ、そしてこれほどまでに感動的な瞬間はあっただろうか。


 そして、オーラスは『Everlong』だ。中盤までデイヴは穏やかに歌っていて、エレアコの弦を刻むようにして緻密な音色をはじき出していた。終盤に差し掛かると、他のメンバーもステージに生還して再度フルバンド編成に。音域が広がり、音の厚みも増し、深みも加わり、最後は壮大な大作モードの雰囲気を漂わせながら、ついにライヴは終了した。1階席前方のオーディエンスがステージ前に駆け寄り、デイヴを始めメンバーにプレゼントを渡したり、握手を求めたりしていた。そしてデイヴは、彼らに対して律儀に応えていた。





 公演日翌日の日中、デイヴとクリスがFM番組に生出演していた。この日のライヴについてデイヴは振り返り、自分たちだけで楽しみすぎてしまったのではないかと言っていた。しかし私は、いや恐らくはこの日この場に集まった他の人たちもきっとそうだと信じているのだが、充分過ぎるほど楽しんだのではなかっただろうか。フー・ファイターズがただハードでラウドなロックバンドとしてだけではなく、より奥深い表現力を備え発揮できるバンドであることが証明されたと思うし、ニルヴァーナ時代を含むキャリアを総括したような構成にもなっていて、それらがとても感動的だったのだから。




(2006.12.3.)
















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