The Wallflowers 2001.2.10:渋谷公会堂

『Sympathy For The Devil』『Brown Sugar』『Midnight Rambler』という、ストーンズヒットメドレーがBGMとして流れているのに内心ニンマリとする。客層は男女半々くらいで、中年のカップルも結構いる。私にとっては待ちに待ったウォールフラワーズの来日公演だが、果たしてバンドとオーディエンスがうまく噛み合ったライヴになるのだろうか、という不安もよぎる。


 開演時間を5分ほど過ぎて客電が落ちる。ここで場内から歓声が起こり、前列の方から次々に人が立つ。やがて総立ちになった。キング・クリムゾンのように椅子に座っての鑑賞会モードになる恐れもあったのだが(クリムゾンの場合はそれでいいと個人的には思っているが)、ウォールフラワーズの面々は最初から立ち上がって出迎えるべきだと私は思っていた。これだけで「行ける」と感じる。





 オープニングは『Sleepwalker』。新作に収録されているシングルであり、今回のツアーでは必ずトップを飾ってきた曲である。フロントにはもちろんジェイコブ・ディラン。黒い革ジャンに黒パンツ。結構長身だ。向かって左はgでスキンヘッドのマイケル・ワード。右端にはkeyのラミ・ジャフェ。この3人が横1列でフロントラインを形成。ラミとジェイコブの間で一歩下がったところにbのグレッグが位置する。dsのマリオはジェイコブの真後ろ。そしてサポートのgであるベン・ピーラーが左奥に陣取っていた。この絵柄だけでもう壮観だ。


 結構頻繁にギターを交換するジェイコブ。『Hand Me Down』ではアコースティックギターを抱える。スポットライトの光線の当たり具合も作用し、ほんの一瞬ではあるが、その表情は父ボブ・ディランの若いときにそっくりに見えた。ジェイコブのクールでいながら哀感漂うvoに、ただただ聴き惚れる。そしてマイケルがファルセットでコーラス。2人は歌うことに重点を置き、サポートであるベンが泣きのスティールギターを利かせている。





 ライヴは『Bringing Down The Horse』『(Breach)』から均等に選曲されて続く。『Bringing ~』は個人的には90'sを代表する1枚に数えていて、バンドが幾多の偉大な先人の音楽性の継承者でありつつも、90'sという時代性を吹き込むことに成功した奇蹟の傑作だと思っている。今バンドの演奏を目の前にして思い浮かぶのはブルース・プリングスティーンやトム・ペティ&ハートブレイカーズ(実際マイク・キャンベルはレコーディングに参加している)。父ボブ・ディランの音楽性とは、あまり似通ってはいないのではと感じる(ボブ・ディランの方がもっとラディカルだと思う)。


 対して『(Breach)』の方だが、最初聴いたときは気の抜けたアメリカンロックのように思え、これやばいんじゃん、と危機感を感じてしまった。しかしそれは間違いで、特にジェイコブの力量が一層奥深さを増し、バンドのコンビネーションもより強固になっているのだ。どの曲もシングルカットに耐え得るポップチューンに仕上がっていることを、私は今更ながらに思い知らされている。





 『Murder 101』では、ジェイコブが曲についてのエピソードを語る。『(Breach)』のライナーノーツにも書かれているが、エルヴィス・コステロがバックコーラスで参加している。曲を作ってみるとコステロが演りそうだとメンバーのひとりが言い、それならと打診したところコステロは快諾してくれたのだそうだ。そのときコステロは日本にいたのだという。時期から考えて、99年12月にNHKホールで公演をやっていたときかなあ、と想像する。





そして、あのイントロが!






 場内どよめく。必殺の『One Headlight』だ!ここまで1曲1曲がズシリと重く、充実感に満ちていたのに、この曲はその上を行く。言うまでもなくウォールフラワーズを代表する1曲であり、もしかしたら90'sを代表する重要な曲とまで言えるかもしれない。ジェイコブのvoは一層冴え渡り、波動になってオーディエンスに伝わってくる。感動に全身が打ち震える。更に、これまでの曲はほぼアルバムそのままに演奏されていたが、後半には延々とバンドプレイが続く。


 そして映画『Godzilla』のサントラとして提供された、デヴィッド・ボウイのカバー『Heroes』である。昨年10月のキング・クリムゾンのライヴを思い出す。場所も同じ渋公。あのときは実際にボウイと共演もしたロバート・フリップのギターにただただ酔いしれたが、今回はマイケルがその役を担い、それなりに健闘。しかし、ここでのメインはやはりジェイコブの歌だ。すっかり場内のテンションは上がり、疾走感溢れる『The Difference』で本編は終了する。





 ほとんど間を置かずにアンコール。bのグレッグとdsのマリオ、マイケルの3人だけで登場。そして披露されたのはブラーの『Song 2』である!!イントロだけかと思ったが、結局マイケルがvoをとってフルに演奏(といっても2分そこそこだけど)。ここでジェイコブとラミが姿を見せる。メンバー紹介の後、『Babybird』。これは『(Breach)』のヒドゥントラックなのだが、ライヴで演奏するところを見ると、単なるおまけではない、それなりの思い入れがある様子だ。


 そしてラストはザ・フーの『Won't Get Fooled Again/無法の世界』である。あの電撃のイントロはもちろんラミ・ジャフェが担当。そしてマリオによるダイナミックなドラミング(そういえばどことなくキース・ムーンの面影がある)。こうした一層引き締まった演奏にダメを押す、ジェイコブの力強い歌声。ウォールフラワーズがアメリカンロックの継承者でありながら、それだけに留まらない柔軟な音楽性を備えていることの証明なのだ。











 最初にも書いたが、ウォールフラワーズは私にとって来日を待ち焦がれたバンドだった。この日が来るまで、何度アルバムを繰り返して聴いたことか。そして私の中でできあがったバンドに対するイメージは、実物を観た瞬間に崩れてしまう恐れがあった。オーディエンスの反応が鈍かったり、バンドが空回りして消化不良のライヴになったりする恐れがあった。だけど、それは私の取り越し苦労に終わった。来日こそ初めてだが、バンドは既にキャリア10年。ダテにここまで生き抜いてきちゃいない。彼らはホンモノだったのだ。




(2001.2.11.)
















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