King Crimson 2000.10.4:渋谷公会堂

クリムゾンとしては95年以来となる本格的な活動。そして来日公演。2日のクラブギグ、3日の神奈川公演を経てこの日は東京初日となる。95年の「ダブルトリオ」のときは、客電が落ちる前からいつのまにかステージに姿を見せていたフリップ翁。今回、フリップが姿を見せるその瞬間を見逃してなるものかと、開演時間が近づくにつれてステージに視線を集中させる。


 しかし今回は普通に客電が落ち、普通にメンバーは現れた。少し拍子抜け(笑)。まずは4人がステージ前方に集まって手をかざして重ね合わせ、それからおのおのの持ち場につく。2000年型クリムゾンは"体育会系"かあ(笑)?フリップ翁は最奥ではなくセンターのブリューの右後方に陣取り、丸椅子に腰掛ける。





 いきなり『Red』のイントロ。まさかこれを1曲目に持ってくるとは思わず、すっかり意表を突かれてしまった。しかしこの曲の持ち味である重厚な音の洪水が場内を圧する、とはならず、なんだかレトロに取れてしまった。メンバー間のコンビネーションもちぐはぐっぽい。選曲自体は見事なのに、この曲を演奏してみせる4人のあり方には説得力がなかった。それともこの弛緩した空気が2000年型クリムゾンなのか。先行きが不安になる。


 しかし私が感じた不安は、『Thela Hun Ginjeet』に続いて放たれた『The ConstruKction Of Light』で断ち切られることとなる。ステージバックには抽象映像が広がり、4人の演奏は引き締まり、一体となって異様な緊張感をまといながら場内を襲う。プロジェクトシリーズという試行を経てはじき出されたフリップ、ブリュー、ガン、マステロットという4人による形態と、この4人が織り成す新たなインプロヴィゼーションの嵐。クリムゾンは弛緩してはいなかった。このぞくぞくするような張り詰めた緊迫感。そしてそれを構築し得たのは、他ならぬ新作のタイトルナンバーというのも納得できる。


 エイドリアン・ブリューは長髪を切り、オッサン度が一気に上がってしまった。額の後退の具合がはっきりと目立つようになってしまっている。微笑みながら上体を小刻みに揺らしてギターを弾き歌うさまは相変わらず。フリップとの陰と陽のコントラストは今回も健在だ。トレイ・ガンは特別派手な動きもなく(「ダブルトリオ」のときはトニー・レヴィンとコントラストを成していたのが思い出される)、直立不動でスティックベース弾きに徹する。時折パット・マステロットの方に歩み寄っては会話を交わしていて、表情が緩んでいたのが印象的だった。無表情ではなかったんだ。


 今回リズムの要を任されたパット・マステロット。巨体を生かしてのパワフルなドラミング・・・はあまり前面には出ず、要所を締めて底辺を支えるようにその役目をこなす。そして御大フリップ。椅子に腰掛け背中を丸め、うつむき加減になりながらギターを弾く。まるでその指さばきをオーディエンスに見られまいとしているかのよう。ギターをとっかえひっかえすることはなく、使用したのはライヴを通してたったの2本だった。


 まるで魔王のうめきのようなブリューのヴォーカルの『ProzaKc Blues』に続き、新作の目玉の一角である『FraKctured』。メロディーラインは"ヘヴィーメタル"期の『Fracture』そのままに、しかし単なる焼き直しではない新たなエネルギーが注入されたこの偉大な続編は、クリムゾンが断続的に活動し続けることの意義を証明しているようにも思える。





 クリムゾンの凄いところは、過去の楽曲が時の流れに負けて風化することなく、その時代時代に演奏することの意味を示せることだ。しょっぱなの『Red』こそレトロに思えてしまったが、"ディシプリン"期の『Frame By Frame』にも、"ダブルトリオ"期の『Dinosaur』にも、最早歴戦をくぐり抜けてきたような風格が漂ってしまっているのは、クリムゾンならではのマジックだと言える。


 そしてプラスアルファの凄いところは、こうした過去の楽曲に依存し切ることなく、今なお音楽的な追求を行い、それに成功していることだ。『Lark's IV /太陽と戦慄 PartIV』~『Coda』という新作そのままの流れ。またしても異様な緊張感が場内を襲う。ただ残念なことに、この日のライヴではブリューにアクシデントが発生。機材トラブルでかなりの間演奏できず、スタッフが入ってきて調整しなければならなくなってしまった。だけどブリュー以外の3人は顔色ひとつ変えることなく演奏に没頭。やがてブリューも復帰し、結局何事もなかったかのようにライヴは続行された。しかしこのアクシデントは、『Lark's IV』でのフリップのギタープレイをクリアにしてみせたことで、ブリューには申し訳ないが個人的にはとても満足している。





 本編ラストは『Elephant Talk』で締める。時間的には少し早い引き際だが、それは新たな興奮の予兆であることに間違いはない。双眼鏡のように手をかざして場内を見つめるフリップの姿も相変わらず。場内はスタンディングオベーションでそれに応える。アンコールは、まずはブリューひとりだけで登場。アコギでの『Three Of A Perfect Pair』披露となる。小気味よいテンポとシンプルにして美しい音色が染み渡る。続いて他の3人も復帰し、『The World's My Oyster Soup ~』。もちろん今回はアルバム『The ConstruKction Of Light』に伴うツアーなので、ココからの選曲が中心になっていることに納得。演奏の精度の高さにも納得である。


 2度目のアンコール。今度はブリューを除く3人が登場し『The Deception Of Thrush』を放つ。この編成とこの曲は、つまりプロジェクト3なのだ。2年半前にプロジェクト2として来日公演をしてはいるが、この形態は日本初ということになる。しかしこのプロジェクト3、3人のぶつかり合いというよりは、ガンとマステロットがすっかり脇に回ってフリップ翁を立てている形になっている。ピアノの音色のような、あるいはクラリネットの音のような、ほんとにギターでこんな音出してるのかと思うぐらい、次々に魔法のようなフリップのギタープレイが繰り広げられる。やがてブリューも復帰しての『Vroom』で再び幕。場内は再びスタンディングオベーションに包まれ、ここで終わっても不思議ではない雰囲気になる。





 しかし、まだまだ夢の続きはあった。ほんとうにこれがラスト。そして放たれたのは、デヴィッド・ボウイの『Heroes』である。ブリューがヴォーカルを取るが、ボウイのそれに比べかなり押さえ気味だ。それもそのはず、ここでの主役はフリップのギター、フリップの指さばきだからである。私はこのとき、ほとんどフリップだけを見ていた。おおこれがオリジナルなんだ、って。


 何故にこの曲が時空を超えた名曲と呼ばれ続けているのか。それはボウイが放つカリスマ性が軸になっているのはもちろんだが、フリップのギターワークがそれを支えていたからだ。ボウイ~フリップ、そしてイーノ。イギリスが生んだ屈指の才能がぶつかり合い、融合してはじき出された『Heroes』。ピーター・ガブリエルのアルバムへの参加といい、フリップはこの時期ほんとうにいい仕事をしている。そしてフリップの脇に陣取るブリュー。フランク・ザッパのバンドメンバーとして活動していたところをイーノが見い出してボウイに知らせ、ボウイはザッパの許可を得てブリューをスカウト。ツアーを共にした。この3者の微妙な相関関係にも想いを馳せてみる。











 前回の"ダブルトリオ"期は"ヘヴィーメタル"期に酷似した重厚なサウンドになっていた。増してや6人の強者によるバトルは、物量的にもとにかく圧倒的だった。今回はそうしたメタリックな部分が削ぎ落とされ、よりシンプルに、よりタイトになっていた。今までのクリムゾンのエッセンスを継承しつつ、しかし今までのクリムゾンとは似て非なるバンド。この矛盾が同居しているところが2000年型クリムゾンの魅力であり、こういうバンドのあり方に至ったことを私は自然な流れだと受け止めている。




(2000.10.5.)
















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