Super Furry Animals 2007.11.10:Liquid Room Ebisu

単独としては約2年ぶりの来日公演で、この日は最終となる。チケットは完売になっていて、開演前に場内はすし詰め状態になっていた。土曜日ということもあるのだろうが、決して派手さはないが地道に活動を続け良質の音楽を生み出し続けているバンドのスタイル及び姿勢が、英国南部ウエールズからここ極東の島国にまで届き、染み渡っていることの証明なのだと思う。私も遅れてきたファンとして、付け焼刃ながら今回全てのアルバムを揃えて聴き、この日が来るのを心待ちにしていた。





 予定より8分ほど遅れたところで客電が落ちる。いつのまにかドラマーが既にセットに陣取っていてイントロのリフを始め、他のメンバーもゆっくりとステージに登場。曲は、まずは1分にも満たないシンプルな『The Gateway Song』からソウルフルにして普遍性を感じさせる『Run-Away』と、新譜『Hey! Venus』の冒頭2曲を勢いよく蹴散らし、これだけでもう場内はアガってしまった。


 ステージは、バックドロップにペナントのようなものが飾られており、また数台のスポットライトが設置されていて、演奏の流れに合わせて効果的に機能していた。メンバー配置だが、向かって右から左にギターのヒュー・バンフォード、ベースのギト・プライス、ドラムのダフィッド・エヴァン、キーボードのキアン・キアラン、そしてグリフ・リースという並びに。ステージ中央にはスペースを設ける形にしていて、また今回左前方で観ていた私のポジションからは、左奥に陣取っていたキアンの姿は見えずじまいだった。グリフ、ヒューは共にアフロヘアでヒゲをたくわえているのだが、強面という印象はなく「和やかでいい人」オーラが漂っている。


 スキンヘッドのダフィッドはツアーグッズのTシャツを着ていて、グリフとギト、ヒューの3人は、『Hey! Venus』のジャケットに描かれているキャラクターが胸元や背中にプリントされたスーツを着ていた。また、設置されている機材の前面やステージ前方にも、ジャケットに描かれている雲のような白い海のような絵が貼り付けられていた。このジャケットを描いたのは田名網敬一という日本人アート作家で、スーパーカーのラストアルバム『Answer』のジャケットも手がけた人である。グリフは曲毎にギターを替えていたのだが、そのボディーには独自のユニークなキャラクターが描かれていて、細かいところでのシャレが利いているというか、センスを感じさせる人だと思った。





 CDでは、どう聴いてもSFAはギターバンドではないと感じるのだが、このライヴの序盤は思いっきりギターバンドで、しかもかなりラフでガレージに寄っていて驚いた。変にレコードの音を再現することに固執せず、ライヴの場ではより生々しくやってしまおうというバンドの姿勢がにじみ出ているように思え、これが個人的にはとても新鮮で、いい意味で裏切られた。ヒットチューンのひとつである『Northern Lites』もギターバンドモードでやり切ってしまっていて、原曲とはまるで異なるアレンジに、最初は反応できなかった(苦笑)。


 中盤に差し掛かると、勢いを抑え目にして1曲1曲を丹念に歌い演奏するというモードにシフトチェンジする。何度かMCもあったのだが、ウエールズ訛りがきつい?のか、言っていることのほとんどが聞き取れなかった。そんな中「New song...」とヒューが言ったのだが、そこでやったのはなぜか両手を頭上の後方に掲げてパタパタさせ、ウサギのような仕草をしながら「Huuuuuuuuuu...」という、歌ではなく声を上げるものだった。コレはこの日3~4回はやっていて、そのたびオーディエンスもやはり両手を頭上に持って行ってパタパタさせ、ギトがその光景をデジカメに撮っていた。


 もちろんバンドとして立派に機能しているのだが、その中軸にいるのはやはりグリフ・リースで、この人の動きに注目することが多かった。極端に大柄でもないのだが、ヒューやギトよりは頭ひとつ大きく(ギトはかなり小柄なのかも)、存在感があった。ソウルフルな低音ヴォーカルとファルセットとを絶妙に歌い分けていて、この人のシンガー及びソングライティングの技量は並ではないと唸らされる。もちろんユーモアもたっぷりで、なぜかステージにニンジンを用意していて、それをかぶりつきながら(!)歌うこともあった。





 今回の公演は途中休憩を挟む二部構成となっていて、第一部の終盤で、ここでライヴが終わるんじゃと思えるくらいの最高潮に達した。個人的にSFAの中で最も好きな曲『Juxtapozed With U』のイントロが流れたときには全身に電流が走ったし、あの感動的だった2006年のフジロックのパフォーマンスが頭によみがえった。グリフのところにはマイクが3本あったのだが、通常は向かって右端のマイクで歌っていたのが、この曲のときはまず序盤のフレーズを左端のマイクを使った。コレにはプログラミング機材が直結されていて、自分で操作して声にエフェクトをかけながら歌い、やがてサビに差し掛かるとその隣(つまり真ん中)のマイクに移行して歌い上げていた。


 『Show Your Hand』を経て、第一部ラストは『Receptacle For The Respectable』。曲の終盤ではヒューとグリフがギターソロを繰り広げ、2人で背中合わせになりながら弾いたり、ステージにひざまずいたりと、ちょっと過剰とも思えるアクションをしていて、メタルバンドのパフォーマンスをパロっているようにも見えたし、オレたちだってやろうと思えばこれぐらいのことはできるよ、と言っているようにも見えた。やがてギトがベースを頭上高く掲げると、ヒューとグリフもそれぞれのギターを×印のように重ね合わせ、エンブレムを形作るようなことをやっていた。そしてグリフは、「ハーフタイム 5分間」と日本語で書かれたスケッチブックを掲げながらステージを後にした。





 さて第二部だが、再び客電が落ちると『Slow Life』のイントロSEが流れ出した。長い長いイントロの間にメンバーが姿を見せ、ギトとヒューは上着を脱いでいた。グリフは自分のポジションにつくと例の赤い大きめサイズの戦隊ものヘルメットを取り出してかぶり、ここでまた場内はどっと沸いた。グリフはギターは手にせずにハンドマイクを持ってステージ中央に歩み寄り、マイクをヘルメットの右目部分にあてがいながら歌っていた。その声にはやはりエフェクトがかかっていた。ヘルメットは、両目部分の両端がサーチライトのようになっていた。


 私が最も好きなSFAのアルバムは、2001年作の『Rings Around the World』なのだが、第一部の終盤に畳み掛けたのに引き続き、アルバムタイトル曲である『(Drawing) Rings Around the World』が披露されたのも嬉しかった。第一部が強弱をつけたモードだったならば、第二部は一気に追い込みをかけようかというモードになっていて、この「攻め」のスタイルもとてもよかった。『Baby Ate My Eightball』や『Neo Consumer』といった最新作からの曲も見せ場を作ったし、そしてここでダメ押しの『Calimero』と来た!SFA最大のキラーチューンでありながら、他の公演では演奏されていなかったらしい曲なので、今回のツアーのマストソングではないんだなあと半ばあきらめていただけに、驚きと感激が同時に襲ってきた。場内の一体感も最高潮に達していて、ライヴのハイライトになった。


 更に『If You Don't Want Me To Destroy You』で攻め立てた後、一転してスローナンバーの『Hello Sunshine』となり、この見事なギアチェンジにも唸らされた。更に曲は『The Man Don't Give A Fuck』と、シングル攻勢が続いたのだが、オーラスはサードアルバム『Guellila』のラストナンバーでもある『Keep The Cosmic Trigger Happy』。終盤になるとグリフは再び戦隊ヘルメットをかぶってそのままでギターを弾き、最後にはそのギターを放り投げ、ニンジンをフロアに投げ込み、と、やりたい放題だった。そして、グリフが「ありがとう東京 LOVE SFA」と書かれたスケッチブックを掲げてステージを後にし、そのすぐ後に今度はヒューが「正直に生きろ」と書かれたスケッチブックを掲げた。その後ヒューは「おわり」と書かれたスケッチブックを掲げるとステージを後にし、その「おわり」ボードはステージ正面に置き残されて、ここで客電がついた。





 アンコールのないステージではあったが、この日この場にいた人の中で、誰がそのことに対して文句を言うだろうか。二部構成で計2時間近くにも渡るステージをやってくれ、卓越した技術もあり、妙技もあり、ユーモアもあり、と、とっちらかったことをしているようでこれらが見事に絡み合ったステージは驚嘆に値する。この人たちは信頼できるし、これからもこの人たちの音楽を聴いていこう、そういう決意をより一層深く、そして強固にできたライヴではなかっただろうか。




(2007.11.11.)


















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