Frank Black 2007.5.10:青山Lapin Et Halot

フランク・ブラックが、1993年から2003年までにリリースしたソロアルバムまでを対象とし、総括したベストアルバムをリリースする。それにリンクする形でプロモーション来日も実現し、そして更に、ベスト盤を予約した人の中から抽選でアコースティックライヴに招待されるという企画が持ち上がった。非常に狭き門になると思いながらも、私は対象店舗で予約手続きを行い、ライヴの申し込みをした。そしたらなんと当選してしまったのだ!


 会場は当選者だけに知らされていたのだが、そこは表参道から路地を入った住宅街の中にある、こじんまりとしたギャラリーだった。ライヴスペースは地下にあり、フロアにはいくつか椅子が並べられていて、入場が早かった私は幸運にも最前列に座ることができた。やがて徐々に人が集まりだし、椅子席はほぼ満席になって、後方で立ち見する人も出てくるように。それでも総勢40~50名程度で、まさにシークレットライヴというか、一般人であれば立ち会えないであろう非常に貴重な機会であることを実感。もちろんメディア関連の人たちも招待されていて、渋谷陽一氏や鈴木喜之氏らを見かけていた。





 予定時間を15分ほど過ぎたところで、進行役の鮎貝健氏が登場。今回の企画について簡単に述べた後、早速フランク・ブラックを紹介し本人が登場。フランクは薄いブルーのシャツに薄いブルーのジーンズというラフないでたちで、サングラスをかけていた。腹部こそかなりご立派だったが、背はそれほど高くはなく、言われているほど巨漢という印象はなかった。通訳の日本人女性も併せてステージに現れ、演奏の合間にフランクの語りが入り、通訳さんがそれを伝えるという、ユニークな形で進められることになった。


 先に演奏の間に語りをと書いたが、比重としてはむしろ真逆で、時間にすると半分以上しゃべっていた(笑)。1曲を弾き語りで歌い、それが終わってはしゃべり、を繰り返す格好になり、前半の話題はフランクがこの場で使っているテレキャスターのギターについてだった。以下、要約するとこんな感じだったと思う。−アーティストはみな古いギターを使いたがるもので、それは70年以降のギターはボディに施されている塗装が、ギターが本来持っている特性を損ねてしまうからだ。自分が使っているのは80年代に作られたギターだが、ロスの日本人ギター職人に預けてお願いし、すると彼は日本に持ち帰ってギターを蒸気で発酵させ、そして自分に返してくれた。ギターからはイイ香りがするようになり(コレは恐らくジョーク)、そして深みのある音が出せるようになった−。


 後半のしゃべりは、曲についての解説が中心となった。自分はだいたい半分ハイな状態で曲を書くことが多く、後で演奏するときになって改めて曲のことを認識し直すことがあるとか、海(大洋というニュアンスだったと思う)にインスパイアされて書いた曲が多いとか、カナダにある小さな街での出来事を書いた曲とか、元妻のことを歌った曲とか、などを延々としゃべり通し、そして演奏に入るという具合。エルヴィス・プレスリーの曲も演ってくれた。私が聴いてそれとわかったのは、『Calistan』と『Manitoba』くらい。スタッフにミラーボールをつけることを促し、光の玉が妖しくうごめく、あの独特の状況の中で歌われた曲もあった。





 今回はソロとしてのプロモなので、ではピクシーズの曲は封印されるのか?と思いきや、計3曲演ってくれた。冒頭がいきなり『Cactus』だったし、中盤では『Velouria』を。後半の『Wave Of Mutilation』は、なぜかロカビリー風に崩して(というか遊び心を交えて)歌っていた。『Wave Of ~』は、先月来日していたベックがライヴの中でワンフレーズをカヴァーしていたことを思い出した。ステージにはギターは2本用意されていたのだが、結局もう1本のアコギは使わずじまいで、テレキャス1本だけでライヴは行われた。


 ライヴが終了した後、再び鮎貝氏がステージに登場し、2人の客から質問を募って通訳し、フランクがそれに応えてくれ、そして終了となった。フランクはまあよくいろいろとしゃべってくれて、これまで取材を受けない、インタビューはしないという姿勢が信じられないくらいだった。鮎貝氏も最後に付け加えていたのだが、それはマネージメント側の戦略だったのではと思われ、本来この人はとても饒舌で、そしてコミュニケーションを取るのが好きな人なのではと思った。この前日にはクラムボンのミトと対談をし、その夜下北沢のライヴハウスで行われたミトのソロプロジェクトのライヴに、連れも伴わずひとりで地図を持って、あちこち迷いながら行ったのだそうだ(そしてステージに飛び入りしたらしい)。





 ベスト盤は今月末に日本先行でリリースされるが、この秋には早くもソロとしての新譜『Blue Finger』がリリースされるとのこと(銅貨を触っていると「Blue Finger」になるという、ネーミングの由来もフランクは教えてくれた)。フランクは去年もおととしもソロアルバムをリリースしていて、これは時期的にはピクシーズ再結成活動とかぶっている。ソロもバンドも同時並行で活動し、なんとも精力的だが、加えて嬉しいのは、バンドとしてもソロとしても、頻繁に日本に来てくれるようになったことだ。今回ソロのプロモで来日したということは、秋の新譜リリース後には、ソロのツアーとしてまた日本に来てくれるかもしれない。

(2007.5.12.)














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