Muse 2007.3.10:Studio Coast

去年のサマーソニックで彼らのライヴを観たとき、こりゃ今度来日するときは武道館に進出するかな、と思えるまでに完成度の高いパフォーマンスをしてくれたミューズ。そして今回の単独再来日となったわけだが、東京圏の会場はまず国際フォーラムが発表され、発売即完売に。当然のように追加公演が発表されたのだが、会場はスタジオコーストだった。国内最大規模のライヴハウスではあるが、アリーナクラスより集客が劣るのは当然で、こちらも発売即完売に。私はなんとかチケットを確保することができ、日程的には来日初演となる公演に足を運んだ。





 この日の公演は、一般発売後になってオープニングアクトがつくことがアナウンスされていた。フラテリスという、グラスゴー出身の新鋭バンドだ。当初は彼ら自身のショウケース公演で来日していたのだが、日程が近くプロモーターも同じだったことから、今回のブッキングになった様子だ。ちょうどアルバムの日本盤がリリースされたばかりで、テレビ番組のBGMやiPodのCMなどにも曲が起用されていて、新人でありながらメディアからの追い風を受けることができている。


 バンドはギター、ベース、ドラムというシンプルなスリーピース編成で、ギターのジョンがヴォーカルを取っている。音は野太いギターのリフを軸にしたガレージロックで、しかし曲によってはコーラスも入れていて、ごつごつとした印象は薄く、むしろポップで親しみやすい。個人的にはこれがグラスゴーのバンドなのかと違和感ありまくりで、というのは、グラスゴー出身のアーティストというと、ティーンエイジ・ファンクラブであったりベル&セバスチャンであったりスノウ・パトロールであったりと、美メロを主体としたイメージがあったからだ。もちろん後発のバンドがそれに倣わなくてはいけない理由も規律もないわけで、ルックスもワイルドな3人の自由度の高いパフォーマンスには、好感が持てた。


 この日のライヴはなんとかやり切った彼らだが、それでもジョンの調子が今ひとつのように見えた。聞き知ったところによれば、本来メインであったはずの彼らの単独公演は、ドラムのミンスの体調不良のためアコースティックスタイルに切り替えられて行われた。そしてこの日の翌日のミューズのオープニングでは、なんと出演そのものが中止になってしまったということだ。初来日は遺恨を残す結果になってしまったが、今後の彼らの活躍を見守りたい(サマーソニック2007への出演も決まったし)。





 セットチェンジに30分ほど要した後、場内が暗転。シンフォニーがSEとして流れる中で、ミューズの3人が登場。ここだけで、もう場内は熱狂と興奮の坩堝と化す。オープニングは、新譜『Black Holes And Revelations』の冒頭の曲でもある『Take A Bow』。このバンドの魅力のひとつである、たった3人で発しているとは到底思えない音の洪水と、バックドロップに設置されているライトやスクリーンの眩いばかりの閃光とがシンクロし、超満員のオーディエンスは早くも極上の空間にさらされる。


 メンバー配置だが、後方中央にドラムのドミニク(ドム)、前方右にベースのクリス、そして左にギター&ヴォーカルのマシュー・ベラミーだ。全員黒づくめの衣装だが、マシューは白のハーフコートをまとっている。ドムは体格こそ大柄の部類ではないものの、パワフルなビートを刻み、サウンドの屋台骨を担っている。クリスは長身で大柄で、打ち下ろすようにベースを弾いている。対象的にマシューは細身で華奢な体型だが、ハイトーンのヴォーカルと荒々しさと緻密さが同居するギターさばきには、そのか細い体のどこにエネルギーが潜んでいるのかと思わせる。


 『Hysteria』を経て、新譜からシングルカットされた『Supermassive Black Hole』へ。ミディアム調で、重低音ビートとマシューのファルセットが効いているのが特徴だ。あまりノリのいい曲調とは言い難く、シングルとして出すには結構勇気がいる曲のように思えるのだが、それをやってしまうところに現在のミューズの勢いを感じさせる。その勢いが場内にも蔓延し、オーディエンスにも浸透しているように見えた。この辺りでマシューはハーフコートを脱ぎ捨てて、細身の体型がいよいよあらわになった。





 選曲は、新譜からの軸にしつつもこれまでのキャリアを彩ってきた曲も披露され、それがつぎはぎ感もなく次々にブチ込まれてくる。曲によりサンプリングも導入されてはいるのだが、基本はもちろん3人による生身の演奏だ。であるにもかかわらず、時に生楽器色よりも電子音の方が勝っていることがあって、それはなぜなんだろうと思いながらじいっと見ていると、マシューのギターにその秘密があった。ボディのところに金属板のようなパネルが埋め込まれていて、マシューは通常は弦を弾いているのだが、時に金属パネルにピックを滑らせていて、それで電子音のリフが発せられていたのだ。


 『Bliss』を経て、マシューがギターを手放しピアノの前に座った。ここまでハイテンションを持続したままライヴは進められてきたが、ここで一瞬だけクールダウンしたような状態に。『Feeling Good』では、マシューが鍵盤を弾く合間にひとりで紙吹雪を降らせていた。新譜からの『Hoodoo』を経て、次はなんとファースト『Showbiz』からの『Sunburn』!デビュー時のミューズの名詞的な位置づけの曲で、過剰で大げさすぎると揶揄されたのも今は昔のこと。個人的には生は2000年の第1回サマーソニックのときに聴いて以来だったので、そのときの光景が一瞬頭をよぎった。





 そしていよいよ終盤へ。まずは『Starlight』で、パン、パンパン、パン、パンパンパンという手拍子のリズムをマシューが自らやり、オーディエンスもそれに合わせて手を叩き、場内に一体感が生まれた。バックのスクリーンは宇宙の中を無数の星が飛び交う映像になり、ミューズが表現しているスペーシーな世界観が反映されているように思えた。更にマシューによる電撃のリフが、場内の温度を更に押し上げた。一般的にはどういう認識かわからないが、個人的にはミューズを代表する曲であり、決定的なアンセムの『Plug in Baby』が、ここでついに放たれたのだ。


 演奏にシンクロするように、ステージに設置されたライトやスクリーンは激しく閃光。そして、「My plug-n baby ~♪Crucify my enemies ~♪」というサビのところは大合唱となり、フロアのモッシュ度合いも壮絶さを増した。まさに決定的な瞬間であり、この日のライヴのクライマックスだった。追い討ちをかけるように今度は『New Born』で、序盤はマシューによるピアノの美しい旋律が耳に焼きつき、それが途中からギターへとシフトしてノイジーなリフが連射される。興奮の余韻に浸る間もなく、本編は『Stockholm Syndrome』で締めくくられた。


 アンコール。まずは『Soldier's Poem』でしっとりと始まり、ミューズが単に爆音をかき鳴らすだけの偏執狂ではなく、より奥深い表現力を備えたバンドであることを明示していた。そして叙情的な『Invincible』となり、スクリーンには戦争の映像が流される。歌詞は個人と個人の結びつきを連想させるものだが、ここでは反戦のメッセージ性が込められているように思えた。オーラスは、新譜のラストナンバーである『Knights Of Cydonia』。そのスケール感ある曲調は、完成というよりは、このバンドがまだまだいろいろな可能性を秘めていて、今後それがどんどん開花していくのではという期待を感じさせた。





 ファースト『Showbiz』がリリースされたのは1999年ではあるが、私はミューズを2000年代にデビューしたアーティストのくくりに入れて考えている。2000年代もいつのまにか後半に差し掛かっているが、この年代でデビューして決定的な存在にのし上がったアーティストとして私が認めているのは、これまではコールドプレイとリンキン・パークの2組だった。しかしこの日のライヴを観て、おぼろげだったものが確信に変わった。2000年代の決定的なアーティストに、ミューズの名も加えるべきだと。巨大ステージをものともしない今の彼らなら、フジロックのグリーンステージでも存分に暴れてくれるはずだ。




(2007.3.31.)


















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