Tool 2007.2.12:Club Citta

本国アメリカでは絶大なる人気を誇り、昨年はコーチェラのヘッドライナーも務めたトゥール。がしかし、ここ日本でのツアー会場はライヴハウスになっていて、この落差を悲しむべきなのか、それとも喜ぶべきなのか微妙なところだ。個人的には2001年のフジロックで1度観ただけなので、実質的には今回が彼らの世界観にどっぷりと浸かれる初の機会になると思っている。





 開演前のBGMは、意外やテクノ系がほとんどだった(クラフトワークの『Vitamin』も流れていた)。写真撮影や録音、録画、モッシュやダイブなどを禁止するアナウンスが何度かあって、定刻より15ほど過ぎたところで客電が落ちる。怒号のような歓声が飛び交う中、メンバー4人が登場してスタンバイ。最後に登場したのが、メイナード・ジェームス・キーナンだ。そしてついに、『Stinkfist』でライヴはスタート。たった4人だけで発しているとは思えない分厚い音圧の洪水が、早くも襲いかかってきた。メイナードのヴォーカルには、エコーがかかっている。


 メンバー配置だが、向かって右からベースのジャスティン。大柄で、まるで打ち下ろすように弦を弾いていて、かなり目立っている。続いてドラムのダニー。バスケットボールのユニフォーム姿で、こちらもジャスティンに劣らず重厚かつ緻密なビートを発している。この2人のリズム隊が、音としても存在感も強力だ。そしてメイナードだが、オレンジのパーカーにジーンズといういたってラフないでたち。頭髪はモヒカンで、サングラスを掛けている。そして左端が白いTシャツ姿のアダムで、意外なほど小柄。ギタープレイもほぼ直立不動で、存在感が最も薄い人だ。


 バックドロップには4枚のスクリーンが横並びに配置されていたのだが、続く『Swanp Song』でメイナードの真後ろのスクリーンだけが稼動し、砂嵐が吹き荒れるようなモノクロの映像が流れる。メイナードはストラップ付きの拡声器を背負い、拡声器のマイクで歌ったり、更にマイクスタンド越しに歌ったりしていて、そのヴォーカルは一層機械がかっている。そして『46+2』になるとメイナードはパーカーを脱ぎ捨て、上半身裸になる(少し腹がたるんでいたように見えたが・・・)。スクリーンの稼動は、中央部2枚になった。ステージは暗めで、メイナードの除く3人には時折スポットが当てられるが、メイナードだけは例によって当たることはなく、まるでロバート・フリップのようだ。





 最初のピークは『Schism』だった。アダムがリードのリフを奏でつつ、やがてジャスティンとアイコンタクトを取って爆音を炸裂させる。バックのスクリーンには、限定生産の形でリリースされたDVDシングルと同じ映像が流れ、灰色の肌をした両性具有の生物が奇怪な動きをしている。CDやDVDシングルで聴く限りは、この曲はトゥールの中では比較的ポップな印象を受けるのだが、この場においてはよりハードでヘヴィーな仕上がりになっていて、圧倒的とも言える輝きを放っている。


 選曲は、基本的には最新作である『10,000 Days』からを中心としているが、どうやらセットリストは固定ではなく、微妙に日替わりしているようだ。この日は、なんとファーストアルバム『Undertow』からの『Sober』が披露され、スクリーンにも『Undertow』のジャケットが登場。黒を背景とする中にカニの甲羅のような赤い異物が浮かび上がるのだが、これがその後人体の肋骨のような形へと変貌し、異様で奇怪な動作を展開していた。





 『Sober』が終わるとメイナードは機材の裏に隠れるように座って休み、他3人によるインスト演奏がしばしの間繰り広げられた。やがてダニーがドラムセットを離れ、ジャスティンもベースを手放し、ステージ左前方に陣取る。2人が何をしているのかがよく見えなかったのだが、そのうちジャスティンが火をつけたライターをかざし、それが合図になって、フロアのオーディエンスも呼応するように火をつけたライターを掲げ出した(モッシュやダイブは禁止と言っていながら、コレはOKなのか?)。


 やがて2人はそれぞれ持ち場に戻り、メイナードも姿を見せて、曲は『Wings For Marie, Pt. 1』から『10,000 Days (Wings, Pt. 2)』と、もっかの新譜である『10,000 Days』の中核を成す曲が組曲のように披露される。メイナードはマイクスタンドを軸にするようにして歌い上げ、インプロヴィゼーションのときは上体をかがめて左右に動いたり、あるいはイナバウアーのようにのけぞったりと、妖艶な踊りを踊る。リズム隊の切れ味の良さは相変わらずだが、ここで注目すべきはギターのアダムだ。最も地味で存在感が薄いこの男こそ、実はサウンド面の要を担っているように見えた。





 そしていよいよ終盤。まずは前作のタイトル曲である『Lateralus』で、壮大なスケール感に溢れ、ドラマ性を帯びた曲調、4人4様の凄まじい力量、そして演奏にシンクロする映像と、これがラストかと思わせるような渾身のパフォーマンスが発揮される。終了後に思わずフロアからも大きな歓声と拍手が沸いたのだが、追い討ちをかけるように『10,000 Days』の冒頭の曲である『Vicarious』が始まった。このアルバムはアダムのギターが前面に打ち出された作風だと思っているのだが、ここでもアダムは殻を破ったかのようにギターをかき鳴らし、メイナードもプログラミング機材を操りながら歌い上げていた。


 ここまでひと言も発することのなかった4人だが、メイナードが「アリガトウゴザイマス…next Nagoya…see you soon」と、鬼気迫るヴォーカルとは対照的な、穏やかな声で挨拶をした。そして、最後に放たれたのは『Aenima』だった。壮絶なる時間と空間が締めくくられると、ダニーはフロアに向かってスティックを投げ、ジャスティンは丁寧にお辞儀をした。そして4人は、ステージ前方に集まりスクラムを組むかのように円になり肩を組み合った。メイナードのキャラクターは確かに異形で特異ではあるが、ステージでは必ずしもメイナードがバンドを牽引しているわけでもなく、アダムもジャスティンもダニーもそれぞれに存在感を放ち、4人が阿吽の呼吸で固く結束しているがために、バンドとして非常に密度の濃い演奏を成しうることができるのだと思う。





 トゥールは昨年サマーソニックのソニックステージのヘッドライナーを務めたが、個人的にはフジロックのグリーンステージのヘッドライナーを充分務められるバンドだと思っている。冒頭にも少し書いたが、欧米と日本との格差が開いたままというのは、やはりよろしくない気がしている。もっと多くの日本のロックファンがこのライヴを体感すべきだと思うし、それだけの会場を用意したとしても、バンドはそれに応えうるだけの力量と表現力を備えているはずだ。




(2007.2.14.)














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