Graham Coxon 2006.9.14:Liquid Room Ebisu

リキッドルームは、入り口から入るとすぐ階段になっている。2階に上がるとコインロッカーや休憩スペース、バーカウンター、物販、当日券売り場などがあって、開場前はここで待機することになる(開場すると、階段を降りてチケットの半券を切ってもらい、ドリンク代を支払って入場する)。あと数分で開場というときになって、外人数人がふらっと現れたのだが、その中になんとグレアム本人が!しかも、ちょうど私の脇を通り過ぎようとしていたので、迷わず手を差し出して握手してもらった。2階の奥にはタワーカフェがあるので、もしかするとそこでくつろいだのかな。





 そして開演時間になり、まずはオープニングアクト。日本人スリーピースバンドのデトロイト7だ。このバンド、去年のマニック・ストリート・プリーチャーズの前座でも観ているのだが、そのときは力みすぎて空回りしている印象があった。さて今回だが、まずそのときとはメンバーがひとり替わっている。ドラマーが男性から女性になっていて、ビジュアル的に少し華やかになった。そしてこのドラマーと男性ベーシストが一体となり、リズムの要を充分に担っている。


 そして、注目はやはり女性ギター&ヴォーカルの菜花ということになる。まず、見た目が去年のときより少しふっくらしたかなと思った。パフォーマンスは、去年のときは男まさりというか、男と張り合うかのように力みまくっていたのだが、今回はいい意味で女っぽくなっていて、リラックスして臨めているように見えた。ただ、ギターにしてもヴォーカルにしても、最大限に力量を出し切れているとは言い難く、どっちつかずの中途半端な印象が。リズム隊が一体になってはいるが、それをひとりで迎え撃つような形になっていたように感じたし、今の彼女がそれを担うのは少し負担が大きいようにも見えた。彼女の力量は、今後ツアーを重ねることによって磨かれるのかな。個人的には、サポートでもいいからもうひとりギタリストを入れて彼女はリズムギターにし、よりヴォーカルに専念できるような状況にした方がいいのではと思う。


 音はガレージロックで、『魔法使いサリー』のガレージバージョンなどもあり、個人的にはそれなりに楽しめた。ただし、グレアムを目当てとするお客さんに受け入れられたかはかなり微妙。ギターウルフの前座とか、モーサム・トーンベンダーとの対バンとか、音楽的に近いバンドと組み合わせれば、もっといいライヴになったと思う。





 約20分のセットチェンジを挟み、午後8時くらいにふらっとメンバーが登場。その最後に姿を見せたのが、グレアム・コクソンその人だった。慌てて客電が落ちるが、グレアムが少しチューニングに時間をかけていて、なかなか演奏が始まらない。少し間ができてしまったが、やがてチューニングもが終わり、『Escape Song』でライヴはスタート。続いて、早くもヒットチューン『Spectacular』となり、場内の温度が上がったような感覚を覚える。


 ステージはシンプルで何の飾りもなく、必要最小限の機材が並べられ、バンド4人が演奏するのみだ。中央がもちろんグレアムで、結構長身。薄いブルーのTシャツにジーンズという、ラフな格好だ。向かって右にテンガロンハットをかぶったベーシスト、左には小柄のギタリスト、そして奥にドラマーという配置になっている。グレアムはほとんど1曲毎に飲み物を口にし、そして英語で何かしゃべる。しかしその声は太くそして低く、何をしゃべっているのか聞き取れなかった。ただ、リラックスしてステージに立てているというのは伝わってきた。





 序盤は、『No Good Time』や『Bittersweet Bundle Of Misery』など、5枚目の『Happiness In Magazines』からの曲が中心になった。個人的に、この5枚目は会心の出来だと思っている。それまでの作品は、グレアム個人の趣味に走りすぎて実験的だったり、あるいはあまりにも内向的で暗すぎたりしたのだが、5枚目で一転してオープンになったのだ。プロデューサーにステファン・ストリートを起用し、そして精力的にライヴ活動を行うようになったのも、ブラーを脱退し、自分がソロアーティストとしてやって行くんだというこの人の決意表明のようにも思える。


 もちろん最新作『Love Travels At Illegal Speeds』からの曲も多く、『I Can't Look At Your Skin』や『What's He Got?』、『Just A State Of Mind』などが披露。前作ではポップな面を前面に打ち出していたが、最新作ではその流れを汲みつつも、幾分パンキッシュでノイジーな要素を加えたように思える。そしてこの場においては、どの曲も原曲よりノイジーに演奏されていた。ノイジーなアレンジであるにもかかわらずポップなテイストが消されずに生かされているのが、この人のバランス感覚のす凄さだと思う。





 グレアムは、2~3曲毎くらいのペースで頻繁にギターを交換していた。リードギターはもうひとりのギタリストの方に任せ、自らはリズムギターに徹するのかと思いきや、主たるメロディーラインの多くはグレアム自身が弾いていた。その上間奏になると、エビ反りしたりドラマーの方を向いてドラムセットに上がって弾いたりと、ギターパフォーマーとしてやりたい放題。途中からはメガネも外してしまったのだが、大丈夫だったのかな?


 中盤には、どちらかというとじっくり聴かせるようなメディアム~スローな曲を固めていたが、最新作の1曲目でもある『Standing On My Own Again』で再び場内の温度が上がったような形になり、いよいよ終盤に差し掛かったような雰囲気が漂う。アルバム未収録の『Right To Pop!』や、この2作の流れを汲みつつノイジーに仕上がっている新曲を披露するなど、相変わらず観る側を飽きさせることがない。そして本編ラストは、『Freakin' Out』~『People Of The Earth』という、『Happiness In Magazines』からの2連発だった。





 そしてアンコールに突入するのだが、まずは最新作の実質的なラストの曲である『See A Better Day』を丹念に歌い演奏。そして、その次が驚いた。なんと、ザ・ジャムの『All Mod Cons』をカヴァーしたのだ。原曲はジャムのパンク期の集大成の顔的な曲であり、シンプルで短い中にも、エッジが効きまくった名曲だ。そして、それを嬉々として演奏する今のグレアムが、あまりにもハマり過ぎていたのだ。


 そして、サプライズはそれだけに留まらなかった。最新作からの曲を次々に連射するのだが、これが1曲1曲がクライマックスのような様相を呈し、しかもなかなか終わりそうな雰囲気にならないので、このアンコールいったいいつまで続くんだという、未知の領域に踏み込んで行くかのような緊張感が漂い始めたのだ。よもやのセカンドアルバムからの『That's When I Reach For My Revolver』なんてのも飛び出し、オーラスの『Who The Fuck?』に至るまで、なんと8曲も!他の公演より明らかに曲が多くてびっくりしたのだが、それはこの日が来日最終公演だったからなのかな。





 フジロック'04で初めてグレアムのライヴを観れたのも嬉しかったが、今回よりじっくりとライヴを観れたことで、改めて嬉しくなった。元ブラーの、という枕詞は、もうこの人には必要ないと思う。そして、もしもこの人が今後ブラーに復帰することもなく、ソロアーティストとして活動を続けていくのだとしたら、ポール・ウェラーをひとつの手本としたらいいんじゃないか。ステージに立つこの人の姿を観ながら、私はそんなことを思い浮かべていた。それだけに、アンコールでの『All Mod Cons』は衝撃的だったのだ。




(2006.9.15.)




















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