東京事変 2006.5.25:NHKホール

開演前、ステージ前にカメラマンが数人詰めているのが見えた。更には、渋谷陽一が席を探して係員に尋ねているのも見てしまった(笑)。想像ではあるが、きっとこの日の公演はメディアにオープンにしている日なのだろう。そして2階席前方の両サイドには、細い鉄柱の先端にマイクがセッティングされているのが見えた。収録もするのかな。





 予定時間を15分ほど過ぎ、待っていてじれてきたところでやっと客電が落ちる。ステージには薄い幕がかかっていて、それまではステージには十二単の女性の絵が映し出されていたのだが、それが雪が降るイメージ映像になり、やがて右前方にスポットが当たった。白無垢姿の椎名林檎が、番傘をかざしながら舞を舞っているのが、幕越しにわかる。曲は伊澤一葉のピアノをメインにした『雪国』で、林檎女史は舞いながら歌い上げる。そして幕が上がり、メンバー全員の姿が明らかになった。


 続いては、これも伊澤のピアノによる『現実を嗤う』で、この間林檎女史は素早く白無垢を脱ぎ捨てて黒と青のスリップドレス姿に早替わりする。そして、「東京の皆さんこんばんは、東京事変です。」という林檎女史の軽い挨拶を経て『少女ロボット』へ。私は今回のツアーは広島公演に引き続いて2回目なのだが、広島では1階前列でステージを間近にして観ることができた。この日は2階席の後方で、メンバー個々の細かい動きまで判別するのは難しいが、演出を含めたステージ全体を観るような格好になる。そして広島ではわからなかったのが、『少女ロボット』のときのライティング。モノトーンの映像が上下左右さまざまな角度から流れるようにステージを照らしていくのだが、その形がマルだったり四角だったりと、さまざまな形で彩られていたのだ。


 序盤は特にMCもなく、淡々と曲が演奏される。『歌舞伎』では、ステージ後方のスクリーンにメンバーの名前が表示され、そのときにその紹介されている人にスポットが当たる。そして林檎女史が歌う英語詞がスクリーンに流れるのだが、その流れが早すぎて読み取れない(笑)。続くは、アルバム『大人』の冒頭の曲である『秘密』。刃田のドラムによるイントロが印象的な曲だが、今回の私の席は向かって右寄りで、つまり刃田側。しかも刃田は客席に向かって半身の状態で叩いているので、その動きがよく見えた。刃田のヘアスタイルはサイヤ人のように爆発していて(笑)、そして赤のエクステンションをつけている様子である。





 『そのをんな淑女ふしだらにつき』で林檎女史は袖にはけて行き、男性陣だけの演奏で『現実に於て』~『顔 faces』へ。後者ではヴォーカルがなく、その代わりに「女」と「男」の会話のような日本語詞が後方のスクリーンに映し出された。スクリーンの手前には木のオブジェがあったのだが、日本語詞の進行に合わせるようにして、葉がついたり散ったりしていた(ライティングでそう見せている)。続く『入水願い』で、林檎女史がステージに復帰。動きやすそうな、白を基調としたパンツスーツ姿に衣装替えしていて、そしてニット帽をかぶっていた。


 新曲ですという紹介も特になく、新曲『ミラーボール』が披露される。スペイシーなメロディーで、曲終盤の林檎女史の熱唱ぶりが素晴らしい曲だ。ネットしていてわかったのだが、純然たる新曲というよりも、ギターの浮雲が以前やっていたバンド時代に作った曲らしい。今後、事変の作品として収録されるかな?続いては、同じく林檎女史の熱唱が炸裂する『手紙』。楽曲が持つ素晴らしさに、ライヴの場での生々しさが加わって、中盤のクライマックスになったと思う。


 『サービス』では、全員が拡声器を持ってステージ前方に登場。真っ先に躍り出てきたのが刃田で、軽く舞を舞う。やがて5人は横一列になって、歌詞を少しずつ歌い継ぐ。林檎女史を中心にし、その両サイドに亀田と刃田、更にその外側に浮雲と伊澤の新メンバーという並びだ。そのうち、浮雲と伊澤は前方の段のところにまで躍り出てきた。そして幕が降り、林檎女史と男女2人のスタッフが幕の前へ。スタッフは「御用」と書かれた提灯を掲げていて、3人で揃って軽く踊る。幕には「御用」の提灯が飛び交う映像が映される。この間幕の向こうでは男性陣4人が衣装替えをしていて、やがて幕が開くと、4人は黒を基調とした衣装姿になっていた。





 そしてMCコーナーへ。まず林檎女史は伊澤にふり、伊澤はなぜか「伊澤フォーッ!!」というHGのマネをしたのだが、これが見事に寒くて、やっちゃったなあ状態に。亀田は自らが鉄道マニアであることを告白し、浮雲はほとんど話さず、刃田も「今回は何も用意していないんで」と、さらりとかわしていた(広島では泣けるエピソードを披露してくれていた)。地方ならご当地ネタがいろいろ出てくるらしいが、さすがに東京でそれは難しい。しかしここでの最大の見せ場は、客席からの「回ってーーっ」という掛け声に、「私はこの意味が一生わからん」と言いながらも、林檎女史がくるりと回ってくれたことだった。


 メンバーが2人新しくなったことで、バンドとして初心に還りカヴァー曲を、という林檎女史。そしてその曲とは、「ディープ・パープル」でも「TOTO」でも「ボウイ」でも「コンプレックス」でもなく(←実際にこのように林檎女史は言った)、バービーボーイズの『C'm'on Let's Go!』だ。近藤敦のパートはギターの浮雲が担い、杏子のパートはもちろん林檎女史がこなす。恐らくだが、このとき浮雲はリズムギターに徹していて、ではリードギターはというと、それは伊澤がやっていた。終盤林檎女史は袖の方にはけて行くと、浮雲が前方に躍り出てきて伊澤とギターソロ合戦をするような格好になった。


 『ブラックアウト』で林檎女史は生還するが、今度は黒いロングコート姿に衣装替えしていた。続く『本能』ではコートを脱ぎ捨て、白のスリップドレスに早替わり。袖にはけての衣装替えや、ステージ上での素早い衣装替えは、どこか歌舞伎を連想させる。そしていよいよ終盤追い込みモードとなり、林檎女史の熱唱が際立つ『スーパースター』、更にはジャジーなテンポの『Dynamite!』、シングルカットされた『修羅場』となる。『御祭騒ぎ』では林檎女史は手旗を大きく振りながら歌い、一方客席はというと、2月の武道館のときに販売されていた手旗を用意してきている人が多く(私もそうしていた)、林檎女史の動きに合わせるようにして手旗を振った。


 本編ラストは『喧嘩上等』だが、ここでの出だしのスタイルが広島のときとは少し変わっていた。この日は、まずは刃田がドラムセットの中からタンカを切るような口上を述べ、その中で次の曲が本編最後の曲であることも併せて告げる。それを受ける形で、今度は林檎女史が口上を述べ、そして歌へという流れだ。ジャジーかつ和風な曲調は、あまり締めくくりには相応しくないと個人的には思うのだが、そんな私の思いとは関係なく演奏は進み、本編は終了した。





 アンコールでは、これも今や恒例なのだが、全員がツアーグッズのTシャツ姿に着替えて再登場。林檎女史は通称「手錠」の白Tシャツだが、袖を破ったかのような変形スタイルで着こなしていて、そしてベージュのハットを被っていた。まずは浮雲の、「みんな、透明人間になりたいと思わないかい?」という語りによって始まった『透明人間』。続くは、原曲とは大きく異なるジャジーなイントロで始まった、『丸の内サディスティック』だ。この曲は広島では聴けなかったのだが、その後の公演からセットリストに組み込まれるようになったらしい。


 林檎女史はすり足ながらステージ上を右に左に、更には前方へと歩を進めながら歌い、そして間奏になると今度は亀田がステージ前方に躍り出てきた。ソロ時代の名曲で(他にも名曲はたっくさんあるが)、懐かしさも感じるが、曲そのものが持つリアリティがそれに勝っている。当時は歌詞の中に「ベンジー」と出てくることでも話題になったのだが、奇しくもこの日は、ベンジーこと浅井健一のソロシングルがリリースされ、林檎女史がコーラスで参加していることがメディア発表された。そしてオーラスは『落日』。シングルのカップリング曲でアルバム未収録だというのが信じられないいい曲だ。最後の最後、林檎女史はステージ前方に躍り出て、アコギをかきならす音だけが場内に響き渡った。





 メンバーが2人入れ替わった「新生」東京事変だが、ツアーを続けていくことでお互いが親密になっただろうし、またそれぞれの個性も際立つようになってきた。林檎女史とは長いつきあいの亀田は存在感たっぷりで、これは相変わらず。しかしドラムの刃田は、第二期になって前に出てくるようになり、その物言うキャラクターが浸透してきた。鍵盤の伊澤は、こちらも物言うキャラクターで、前任者のH是都Mとは対照的。ギターの浮雲はクールな仕事人という佇まいで、従来あるギタリストのイメージとは少し異なるが、これもアリだ。こうしたメンバーがひしめく中、でもやはりその中心に位置しているのは椎名林檎。約2ヶ月に渡るツアーはまもなく終了するが、今後の東京事変の活動にも、私たちは大きな期待を抱いていいはずだ。




(2006.5.26.)




















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