The Rolling Stones 2006.3.24:東京ドーム

午後7時きっかりに客電が落ちた。巨大なステージセットの前方スペースにこじんまりとドラムセットが設営されていて、そこでリッチー・コッツェンのライヴがスタート。メンバーは、ギター&ヴォーカルのコッツェンのほか、ベースにドラムというスリーピース編成だ。1曲目がなぜか『機動戦士ガンダム』の映画主題歌『哀・戦士』。もちろん歌詞は英語だが、思わず笑ってしまった。続いては『Shapes Of Things』で、こちらはジェフ・ベック・グループバージョン、つまりヘヴィー気味のアレンジで演奏。パフォーマンスは約30分で、ラストの曲も、『Zガンダム』のテレビ主題歌の英語バージョンのように聴こえた。ストーンズの日本公演に前座がつくのは今回が初めてだが、個人的には前座つけるくらいならその分チケット代を安くしてほしかった。


 今回の公演は、チケット代が異常なまでに暴騰している。これには私も悩まされ、どうするか考えた結果、最も安いC席を取り、2階三塁側の席に陣取った。場内は空席だらけになるのではと思われたのだが、前座の頃は遠目にもブロックまるごとガラガラとわかるところがいくつかあったが、セットチェンジの間に徐々に埋まり出し、ストーンズ開演直前にはほぼ満員と言っていい入りになった。コンサートとしては歓迎すべき状態なのだろうが、バカ高いはずのチケットがはけてしまっていることに、複雑な思いもした。





 8時15分過ぎに場内が暗転。スクリーンに惑星が爆発するCG映像が流れ、轟音SEが響き渡り、やがてメンバーが姿を現して『Start Me Up』の電撃のイントロが轟く。私にとっては3年ぶりのローリング・ストーンズのライヴだが、4人とも相変わらずで、うち3人が60歳を過ぎているとはとても思えない。続くは『It's Only Rock'n Roll』を畳み掛け、場内はあっという間にストーンズワールドに包まれる。


 ステージセットは、来日前から話題になっていた巨大ビルだ。そしてなんと、ビルのところにも数10人の客を入れていて、彼らは背中越しながらメンバーを間近で観ている。以前エアロスミスの公演で、エアロカフェと称してステージ両サイドに客を入れていたことがあったが、そのストーンズ版とでも考えればいいだろうか。ビルの中間にはスクリーンがあり、カラーもしくはモノクロでステージ上のメンバーを映し出している。花道は両サイドに向かって伸びているほか、中心からアリーナ席方面にも伸びている。この正面の花道が結構太めで、そしてその先にあるのは後半で稼動予定のBステージだ。


 ミックの「ツギハ シンキョク」という日本語MCの後、新譜『A Bigger Bang』からの『Oh No, Not You Again』となる。オリジナルではミックもギターを弾いているはずなのだが、ここでのミックはヴォーカルとパフォーマンスに徹していた。『Bitch』ではホーンセクションが加わり、続く『Tumblin' Dice』でコーラス隊が出揃って、これでフルバンド編成に。ベースのダリル・ジョーンズを筆頭とするサポートメンバーたちも、今やストーンズのライヴではお馴染みの面々だ。





 今回のツアーでは序盤が日替わりセットリストらしく、まずは前回の武道館での日本初披露が鮮烈だった『Worried About You』。ステージ前方にキーボードが用意され、その前に座って鍵盤を叩きながらファルセットで歌い上げるミック。年齢のせいもあるのか、曲によっては高いキーで歌えない現在のミックだが、ここは頑張った。続くはブルース調の渋味の効いた曲だったが、これはテンプテーションズのカヴァーで『Ain't To Proud To Beg』という曲だそうだ。


 そして前半のハイライトとなったのが、『Midnight Rambler』だ。ストーンズにしては珍しい長尺の曲なのだが、間奏のインプロヴィゼーションはライヴの場でより具現化されていて、各パートのソロも光り、またミックのブルースハープも冴えていた。スリリングな音そして曲の展開に、観ている側はぞくぞくとしてきて、どれだけの時間が経過したのかという感覚が失われそうになる。そうしたドラマティックな間奏を経て、最後にミックのヴォーカルに舞い戻り、ミックはきっちりと締めた。





 『Gimme Shelter』では、これも今やお馴染みなのだが、コーラスのリサ・フィッシャーがフロントに登場し、高いキーと伸びのある歌声を披露する。まずはキースに寄り添い、続いてミックと向き合いお互い顔を近づけてのデュエット合戦となり、これで場が一層暖まる。そしてミックがそのリサを紹介したのが口火となり、メンバー紹介となる。これまではドラムセットの中でコールを受けていたチャーリー・ワッツも、今回はステージの前の方に出てきて歓声を受けていた。


 そしてミックはステージの奥に下がり、ステージ前方にはキース用のマイクスタンドが用意されて、キースコーナーとなる。曲は新譜からの『This Place Is Empty』、それにキースといえばこの曲という『Happy』だ。メンバーはミックがいないだけのフル構成で、特にロニーがラップスティールで好サポートしているのが印象的だ。ステージでのミックは、とにかく動きまくることによってその存在感を示している。対してキースには派手さはないが、ひとつひとつの動きそのものが重く、そこに存在感が宿っているのだと感じた。





 さてミックが生還し、曲は『Miss You』。ミックはヘッドフォンマイクをつけていて、そしてこの日初めて(そして唯一)ギターを弾きながら歌う。と、ここでステージに変化が。中央部が少し盛り上がり、いつのまにかそこにドラムセットとキーボードも移設されている。メンバー4人、それにベースのダリルとキーボードの計6人がその盛り上がったスペースで演奏を続けていて、するとなんと、そのスペースが少しずつ前の方にせり出してきた。つまり、演奏しながらスペースごとBステージに向かって移動しているのだ。


 Bステージというアイディアも今やスタジアム会場でのライヴではお馴染みで、もちろんストーンズのライヴでもお馴染みなのだが、演奏しながら移動するという新たなアイディアを注入するところに、マンネリを打破せんとするストーンズ側の意気込みと、ファンに少しでも楽しんでもらおうというサービス精神が感じられる。私のいる2階席は臨場感こそ薄いが、メインステージからBステージにゆっくりと移動するさまを全体的に観て取ることができ、ぞくぞくしてしまった。


 演奏が終わった頃にBステージに到着。だだっぴろいドームがライヴハウスの雰囲気に包まれる中、新譜からの『Rough Justice』となる。やはりミックはギターを弾かなかった。そしてライヴ定番曲として定着しつつある『You Got Me Rocking』へ。ミックはパフォーマーに徹して全方向360度に目を配り、動き回ってはオーディエンスを煽る。キースやロニーはバックネット方向を向いて演奏を続け、それでも演奏中にピックを投げまくる。どうしても動きが制約されてしまうチャーリーだが、そのドラミングは心持ち力が入っているように思えた。


 Bステージのラストは『Honky Tonk Women』。Bステージでの演奏中、メインステージはライトが消されて静まり返っているのだが、ここで動きがあった。だいたいこの曲のときにはいつも何かしらの演出があるのだが、今回はというと、中央のスクリーン部分から巨大なベロマークのオブジェ(風船かも)がお目見え。しかも花柄模様だ。そして演奏が中盤くらいに差し掛かったところで、再びBステージがゆっくりと動き始めた。ライヴハウスのノリから少しずつスタジアムのノリにシフトしていくような感じで、やがてメンバーはメインステージに舞い戻った。





 この後は鉄壁の布陣だ。『Sympathy For Devil』では場内が出だしから「フーッ!フーッ!」とノリ出し、ミックはシルクハット(デビルをイメージか)をかぶって登場。そして、初日はオープニングだったという『Jumpin'Jack Flash』が続き(私はてっきりオーラスなものと思っていたので、意表を突かれた格好になった)、本編ラストは『Brouwn Sugar』。ミックはこの日何度もそうしてきたように、左右の花道を走り回ってはその先端で場内にアピールし(ちょうど「イェー!イェー!イェー!フーッ!」という辺り)、更には中央の花道にまで乗り出し、最後にステージに舞い戻って締めくくった。


 アンコールは、ホーンセクションがイントロを引き受ける『You Can't Always Get What You Want』でゆったりと始まり、そしてオーラスは『Satisfaction』。後半はいつ終わるとも知れぬインプロヴィゼーション合戦となり、ミックはまたまたステージを縦横無尽に駆け巡り、キースも負けじと駆け巡った。演奏が終わった最後には、ステージの両サイドから花火が上がった。








 不満がないわけではない。そもそも今回のツアーは、オリジナルとしては実に8年ぶりとなる『A Bigger Bang』に伴うものであったはずだし、その新譜は旧来のストーンズサウンドを思い起こさせつつも、今の時代の感覚を取り入れた力作として仕上がっていた。であるにもかかわらず、その新譜からはたった3曲しか演奏されず(うち1曲はキースの曲だった)、つまりは新譜の世界観がライヴに反映されているとは言い難い内容だった。この新譜ではミックはギターを弾きまくっていたのに、この日ミックがライヴ中ギターを手にしたのは1度だけだっ た。


 日替わりセットリストも、若干物足りなかった。初日は歴代日本公演を通して初となる飛び道具が3曲もあったというのに、この日はいずれも過去の日本公演で披露された曲ばかりが取り上げられ、サプライズに相当する曲はなかったのだ(厳密に言えば、テンプテーションズの曲が日本初ではあるが)。


 ではあるが、トータルとしてはこうした不満を打ち消して余りある、会心のステージだった。今回が最後、とは毎回ツアーのたびに言われていることで、だけど今回ばかりは、年齢的にも体力的にもほんとうに最後になってしまうかもと覚悟して、私はライヴに臨んだ。ところがミックもキースもチャーリーもロニーも驚くほどに元気で、3年前からパフォーマーとしての力量が落ちたということもないし、特にミックに至っては逆に若返っているのではないかと思えるくらい熱がこもっていた。最後どころか、あと3~4年後にも同じようにツアーをやっていそうな、そんな感じがしたのだ。




(2006.3.27.)
















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