The White Stripes 2006.3.5:Zepp Tokyo

 今回の来日公演は、本来なら1月中旬に行われていたはずだった。それが、ギター&ヴォーカルのジャック・ホワイトの声が出なくなったとのことで、直前になり延期が発表。3月に振替になった。私は日程上の都合で1月公演はパスしていたのだが、振替公演は初日が日曜日となったので、チケットを取った。入場は、1月公演のチケットを持っている人が優先された。





 定刻より15分ほど遅れて、客電が落ちた。音声を逆再生させたかのような妙な感触の『Who's A Big Baby』をSEにして、ジャックとメグがステージに姿を見せる。ステージのバックを覆っていた黒い幕がストンと落ち、両サイドに植物が茂り、中央上部にリンゴがシンボルの如く光っている、といった具合のエキゾチックな絵がお目見えする。そして『When I Hear My Name』でライヴはスタート。ジャックのギターはのっけから爆音で、場内は早くも興奮の坩堝と化す。


 メグは今までと同じような赤を基調とした動きやすそうな衣装だが、ジャックは新譜のジャケットと同じように、黒いコートをまとい黒のシルクハットをかぶっている。ステージは、まず両サイドに観葉植物が飾られている。左側にメグ用のドラムセットとパーカッションがあり、左後方にはマリンバが。右後方にはアンプ等の機材があり、右端にキーボードとピアノがあるという具合。ピアノ以外は、みな赤と白のストライプ柄だ(徹底してるな)。右前方に広くスペースが取られている格好で、ジャックは通常そこで歌いながらギターを弾く。が、メグがいるドラムセットのそばにもマイクスタンドがあって、頻繁にそこににじり寄り、メグに寄り添うようにして熱唱する。





 3曲ほどメドレー形式で一気にかき鳴らすと、ジャックは素早くコートを脱ぎ、黒いTシャツ姿になる。そして分厚いリフが印象的な『Blue Orchid』となって、いよいよ『Get Behind Me Satan』ワールドが繰り広げられる。この曲はジャックはファルセットで歌い上げるのだが、その声は必ずしも万全というわけではなく、時折かすれることも。がしかし、それを補って余りあるのがラウドにしてソリッドなギターのリフであり、そしてメグのバスドラだ。


 ギターとドラムという、ほとんど最小と言っていい編成。ではあるが、メグのドラムは無駄なくビートを刻み、リズムの屋台骨をしっかりと支える。そしてジャックだが、よくたった1本のギターでこうもいろいろな音が出せるなと感心するくらい、いくつもの軋んだリフを炸裂させる。アルバムで聴くとブルースやソウル、カントリーといった伝統音楽に忠実で、かつそこに新しい感覚を注入しているのだが、ライヴの場においてはとにかくラウド、とにかくガレージサウンドで押しまくっていて、観る側を飽きさせない。『Dead Leaves And The Dirty Ground』『Black Math』といった曲での爆音は、とにかく凄い。


 こうしたガレージパンクを軸にしつつも、現在の彼らは音楽的な幅を更に広げている。メグがパーカッションを叩きながら歌う、『Passive Manipulation』。そして『My Doorbell』や『White Moon』では、ジャックがギターを胸元に抱えたままでピアノを弾き、切々と歌う。新譜『Get Behind Me Satan』は評論家筋を中心に絶賛されたが、その音楽的な革新性の一端を、垣間見たような気がした。70年代がデヴィッド・ボウイ、80年代がプリンス、90年代がベック、と、その時代時代にイノヴェイターが存在していたとしたら、2000年代はホワイト・ストライプス(というよりジャック・ホワイト)ということになるのかもしれない。


 『Jolene』ではオーディエンスの合唱となり、メグのバスドラが効いている『The Hardest Button To Button』(ユニークなPVが印象的だった)は原曲以上にラウドに響く。『In The Cold, Cold Night』はメグがリードヴォーカルを取る曲で、メグはドラムセットを離れて右前方のマイクスタンドのところに立ってけだるい雰囲気を醸し出しながら歌い、ジャックはゆる~くギターを弾きながら脇に回っている。本編ラストは『The Nurse』で、ジャックは左後方に移動してマリンバを叩きながら歌い、メグがいいタイミングでバスドラを入れる。ジャックはギターを弾いていないのだが、なぜかリフの音がうまくコントロールされて響き渡っていた。どうやってやっていたのかな。





 アンコールは、再びとなるジャックの弾き語りの曲『I'm Lonely (But I Ain't That Lonely Yet)』で始まった。『I Just Don't Know What To Do With Myself』などを経て、オーラスはやはりこの曲『Seven Nation Army』だ。間奏になるとステージ後方が激しく閃光し、視覚が奪われ幻惑されるような感覚に陥った。演奏を終えると、ジャックとメグは手をつないで挨拶をし、ポラロイドカメラで自分たちやオーディエンスなどをパチリパチリと写し、すぐさまカメラから出てきたポラロイド写真をフロアに向かって投げ入れていた。





 2年前のフジロックでは、モリッシードタキャンという事情はあったにせよ、ホワイト・ストライプスは3日目グリーンステージのトリとしてパフォーマンスした。人によって感じ方はさまざまだろうが、個人的にはこのときの彼らは、持てる力を発揮してはくれたものの、会場ともオーディエンスともうまく噛み合わず、空回りしているように見えた。このユニットには、巨大野外はあまり似合わないと思っていて、今回のツアー会場となっているライヴハウスのように、ある程度密閉された空間での方が、彼らの持ち味が発揮されると思っている。実際この日のライヴは素晴らしいものだったし、今後の彼らの創作活動にもライヴ活動にも、期待が持てる充実した内容だった。





(2006.3.7)




















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