Weezer 2005.8.15:Zepp Tokyo

 開場時間から40分ほど経過したくらいに、会場に到着した。整理番号順の入場はとっくに終わっているはずで、悠々と入場できるものと思っていた。のだが、なぜか会場前には多くの人が列をなしている状態。リハが長引いたのか、それとも仕切りの要領が悪くてこうなっているのか。私はこの10分後くらいに入場したのだが、それでも外にはまだ結構人がいた。こりゃ開演も遅れるな。





 ところが、ほぼ定刻に客電が落ちてしまった。場内は既に異様なヴォルテージで、バンドを待ちわびる客の歓声が凄まじい。そしてリヴァース・クオモを始めとしてメンバーが姿を見せると、歓声のヴォリュームは一段と高くなった。大げさでなく、これまで私が体験してきたライヴハウスにおけるライヴの中でも、1、2を争うくらいの客の熱狂度だ。


 オープニングは『Don't Let Go』。ステージ中央のリヴァースは細身というか華奢で、足なんかマッチ棒のように細い。トレードマークであるはずの、メガネはかけていなかった。リヴァースの右にはベース、左にはギター、真後ろにはドラムという配置。バックには、竜が踊っているような絵が描かれている。サポートのギタリストもリヴァースの左奥にいて、そしてこの人はローディーも兼ねているようだ。


 選曲は新譜中心というわけではなく、新旧満遍なくセレクトされている。そして必ずしもリヴァースが全てを歌うわけではなく、ベースとギターの人のツインヴォーカルでリヴァースはギターに徹したり、ベースの人が歌ってリヴァースがキーボードを弾く、なんてこともあった。バンドをコントロールしているのはどう見てもリヴァースなのだが、演奏そのものを他のメンバーに任せることなどによって、自身で何もかも背負うことをせず、結構楽にやれているように見えた。





 新譜『Make Beliebe』からは『Beverly Hills』や『Perfect Situation』を演り、ファーストからも『My Name Is Jonas』『No One Else』などを演ったりする。ウィーザーのアルバムは、枚数を重ねる毎にギターのリフがハードだったのが徐々にソフトになってきているように思え、そして『Make Beliebe』に至っては音が全般的に大人びているなあと感じていた。のだが、ここライヴの場においては、以前の作品と比べても温度差を感じることもなく、他のアルバムからの曲と相俟って流れを成している。


 『Buddy Holy』は、『Beverly Hills』から間を置かずにリヴァースがギターソロを弾いたのに続いて始まった。原曲よりもかなりラフなアレンジで演奏され、皆が一斉に合唱しモッシュする決定的な曲というよりも、数あるウィーザーナンバーのひとつという感じになっていた。意外。この次はリヴァースがドラムセットに収まり、ドラマーがフロントに出てきてギターを弾きながら『Photograph』を歌い、本編を締めた。





 アンコールを求める拍手の音圧も尋常ではなかったが、リヴァースは更にその上を行った。ステージは電気が消えていて暗いままだが、そのうちに場内が何やらざわつき出した。やがて、フロア後方のPAエリアにスポットが当たった。その中のテーブルの上に、リヴァ−スが立っていたのだ!


 なんということだ。スタジアムやアリーナといった大規模の会場で、客席の中央部にサイドステージを設置して、そこで演奏するというのは観たことがあるが、ライヴハウスでのサイドステージ状態なんてのは前代未聞だ。リヴァースは、アコースティックギターを弾きながら切々と『Island In The Sun』を歌った。フロアの客は皆ステージに背を向けてPAの中にいるリヴァースに見入り、また2階席の客は前方の手すりのところに身を乗り出して、やはりリヴァースに見入っている。


 ウィーザーすなわちリヴァース・クオモが、なぜここまでの絶大な支持を受けて来たのかを、私は今ひとつ把握しかねていた。お世辞にもルックスが売りだとは言い難いし、実際ハーバード大学に通っていたという学究肌で、ロックスター像からは程遠いところに位置していると思う。


 アーティストとファンとの間には、ある一定の距離感が存在していて、ほとんどのアーティストはこの距離感を保とうとする。しかしこの人の場合は、予測できないようなやり方で自ら打ち崩してしまうのだ。96年の初来日公演のとき、終演後リキッドルームの外で溢れているファンの中に階段を降りて突入してきてもみくちゃになったという、今や語り草になっているエピソードを思い出した。そして、今回のこれだ。これでわかった。こんなことをされて、ファンが虜にならないわけがない。


 短いようでいてしかし普遍的な長さを感じさせる、信じられないような瞬間が過ぎ去り、リヴァースはスタッフに囲まれてPAを後にした。ステージには他のメンバーがスタンバり、まもなくリヴァースも生還。この後は『Hold Me』など3曲ほど演って、ライヴ終了となった。最後はオーディエンスのモッシュも更に凄まじくなり、興奮したのかペットボトルを投げるバカまで出だして(これだけは正直いただけなかった)、ものすごい騒ぎになった。





 私がウィーザーを観たのは5年前のサマーソニック以来で、そのときは中止になり失われたフジロック'97の2日目を取り戻すような、過剰な思い入れを込めて臨んでいた。今回は、サマソニ2005では他のアーティストとかぶっていたためにパスしていて、それを補完したいくらいの割かし軽い気持ちでチケットを取ったのだが、それがよもやまさかのとんでもなく凄まじいライヴを体験できてしまった。ウィーザーに感謝。そして、ウィーザーを支える素晴らしいファンに感謝だ。





(2005.8.17)



















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