Adrian Belew 2005.8.1:Shibuya O-East

フジロックから帰宅したのが午後3時過ぎ。体力的にも気力的にもそれほどへばっていなかったので、少し休んだ後渋谷に向かい、当日券ゲットでこのライヴに参加することにした。入場時に係のお姉さんから「お目当てのバンドは?」と尋ねられたのだが、中に入って納得した。客層が、面白いほどに真っ二つに分かれていたのだ。クリムゾンファンと、トライセラファンとにだ。





 定刻となり、まずはカリフォルニア・ギター・トリオが登場。今回は、トニー・レヴィンも帯同している。4人が横一列に並び、演奏がスタート。3人が奏でるクリアなギターの音色が場内に心地よく響き、それにレヴィンの重低音ベースが絡む。O-Eastは狭いライヴハウスで、4人の指の動きまで完璧に追うことができる。ベルギー人がリズムを、アメリカ人(MCも担当していたので、この人がリーダーなのかな)がリードを務め、日本人が高いキーと印象的なリフを発している。


 トニー・レヴィンは、クリムゾンやピーター・ガブリエルのライヴでは大きく体を揺さぶりながらベースを弾くアクションが目に焼きついていたのだが、この場ではさすがにほぼ直立不動で演奏している。それでも、次第にノッてきたのか少しずつアクションが見られるようになってきた。今回レヴィンはカリフォルニア・ギター・トリオ(以下CGT)の新譜をプロデュースしたとのことで、それでこうした共演が実現したようだ。それにしても、この人のプレイをこんな間近で観れてしまっていいのだろうかという、後ろめたささえ感じてしまう。


 曲は全てインストで、美しい音色やメリハリの効いたリフなど、この人たちの妙技がたっぷりと堪能できる。ユーモアのセンスもたっぷりで、なんとドリフのズンドコ節を演って、合間に『21st Century Schizoid Man』や『Red』のリフをチラつかせている。ラストは映画「バッファロー'66」でもお馴染みの、イエスの『Heart Of The Sunrise』だった。CGTはロバート・フリップが主催したギタークラフトの門下生だが、御大フリップなら絶対演らないようなことを、いろいろ演ってくれるのが嬉しい。





 続いてはトライセラトップスで、セットチェンジの間にトライセラファンの若い女の子が大挙前の方に押し寄せる。メンバーが登場すると黄色い歓声が飛び、先ほどとは雰囲気がまるで異なる。そんな中を、まずはセッション風に演奏が始まり、やがて彼らのデビューシングル『Raspberry』となる。メロディーはポップだが、ギターは幾分かラウドに。続いて、これまたイントロのリフが印象的な『The Captain』となる。


 MCで和田は、このイベントに出演することになったいきさつを説明。エイドリアン・ブリューにせよCGTにせよ、元々はフジロックのために来日していて、それが日本のバンドと一緒にライヴをやりたいということで、トライセラは誘われたのだそうだ。しかし和田は、「エイドリアンと・・・その他」と、CGTをその他扱い。嗚呼。当人たちに直接の交流があるわけではなく、プロモーターがこういうブッキングをしてしまった、というところなのだろう。


 というわけで、イベントとしての流れはまるでないが、トライセラはトライセラとして、彼らにできることを最大限に発揮した。ドブロを手にしての『Big Bag Blues』。元m-floのLisaとデュエットした曲である『Believe The Light』。ラストの『Rock Music』では、順番に3人それぞれのソロを披露し、そして『Day Tripper』~『Satisfaction』~『Crossroad』~『The Immigrant Song』~『Walk This Way』といった具合で洋楽カヴァーを連射して、見せ場を作った。トライセラファンは満足しただろうが、クリムゾンファンには彼らのプレイはどう映っただろう?





 更にセットチェンジで、いよいよエイドリアン・ブリューの番に。がしかし、近年のクリムゾンのライヴではこの人の見た目は御茶ノ水博士化しているので、今回もそうなのかなあと思いながら待っていたら、ブリューは真紅のスーツ姿で登場。頭頂こそやばい状態だが、長髪を後ろで結んでいて、ダンディーな佇まいになっていた。


 そして演奏スタートとなるのだが、編成はブリューのほかはマッチョなベーシストにスキンヘッドのドラマーというトリオ。序盤はインスト主体で、ほとんどヴォーカルはない。ブリューはいつもそうしているように、上体を小刻みに揺らしながらギターを弾き、アームを効かせ、そして笑顔を浮かべて楽しそうにプレイしている。ギターもスーツと同様に真紅のボディで、かなり薄くて軽量そうに見える。


 2曲目で早くもクリムゾンの『Dinosaur』が飛び出したが、以降は恐らくこの人のソロ作品からであろう曲の演奏となる。もともとはフランク・ザッパのバンドメンバーで、後にデヴィッド・ボウイのバンドメンバーにもなり、トーキング・ヘッズに参加し、そして80's~90'sクリムゾンのフロントマンを務め、更には自分のソロも出しているという、非常に引き出しの多い人なのだ。先ほどのレヴィンと同様、この人のプレイをこんな間近で観れてしまっていいのだろうか、という気にさせられる。





 中盤以降は結構ヴォーカルも入るようになり、ブリューのノリも徐々によくなってくる。ギターを交換した辺りから、演奏にも更に緊張感がみなぎるようになってきた。クリムゾンファンは年齢層の高い男性が多く、トライセラファンは若い女性が多い。フロア内は直立不動でライヴを楽しむ人がほとんどだったのだが、この人の基本は実はダンスビートだと思っている。クリムゾンにも踊れる要素を持ち込んだ人だと思っていて、プログレという先入観を取っ払えば、客は気ままに踊ってこの人のライヴを楽しんでいいはずだ。


 終盤には、予想通り80'sクリムゾンの曲が畳み掛けられた。演奏のアレンジが原曲とは大きく異なる、『Frame By Frame』。そして、2000年のクリムゾンのツアーではアンコールでこの人の弾き語りで歌われもした『Three Of A Perfect Pair』で、本編を締める。アンコールは『Thela Hun Ginjeet』で、ブリューはタオルを使ってギターを弾いたり、跪いてラップスティールのように太ももの上にギターを置いて弾いたりと、変幻自在のプレイをしてみせた。最後はフロアの前の方に詰め掛けている客とタッチを交わしもして、気持ちよくライヴができた様子だ。





 トライセラとクリムゾンという、音楽的な接点を見出すのが非常に困難なアーティストたちの対バンになりはしたが、私はいずれのアーティストのライヴも楽しんだ。冒頭に書いた、お目当てのバンドはと入場時に訊かれたときに、私は「全部」と答えていたのだ。トライセラは今年4月に単独公演を観ているし、エイドリアン・ブリューはクリムゾンとして来日するたびに観ている。トニー・レヴィンにCGTはというと、こちらは95年のクリムゾン来日公演以来になるだろうか。そのときレヴィンは「ダブルトリオ」クリムゾンの一員で、CGTはオープニングアクトを務めていた。あれから10年も経ったのかという感慨にも浸りながら、私は会場を後にした。


(2005.8.5.)
















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