Zwan 2003.2.1:Zepp Tokyo













スマッシング・パンプキンズというバンドはもうなくなるけど、

みんなの心の中には永遠に残る−












 2年半前、来日最終公演となった国際フォーラムで、ビリー・コーガンが言ったことば。そしてこの年の秋、バンドは地元シカゴでの公演を最後に解散。その後、ニュー・オーダーのサポートというやや変則的な動きはあったが、いよいよ新バンド"Zwan(ズワン)"を率いての活動が本格化した。アルバム『Mary Star Of The Sea』は、先日29日にリリースされたばかり。日本のファンは、世界でも比較的早くビリーに再会できることになった。





 定刻を少し過ぎたところで、場内が暗転。メンバーが姿を見せると、オーディエンスは一斉に前の方に押し寄せた。ビリー!ビリー!飛び交う声援。笑みを浮かべているビリーは、リラックスした様子だ。そしていよいよスタートだが、オープニングはなんとアルバムタイトル曲にして大作の『Mary Star Of The Sea』だ。ジャムセッション風に始まり、しばらくは淡々とした穏やかな演奏が続くが、やがてスイッチが入ったように爆音モードとなる。ビリーは、まだ始まったばかりだというのに、まるでこの世が終わってしまうかのようにギターをかきむしって轟音を発している。


 続くはアルバムの1曲目でもある『Lylic』で、明るい曲調に一転したことで場内もタテノリ状態に。ビリーは他のメンバーと顔を合わせ、笑いながら楽しそうに歌い、ギターを弾く。だけど私は、ここでぐっときてしまった。ああ、この人はやっぱり戻ってきたかったんだ。ステージに立ちたかったんだ。ファンの前に、姿を見せたかったんだ。おかえり、ビリー。





 ステージの立ち位置はビリーが中央前で、横一列に並ぶように右にデヴィッド・パホ、左にマット・スウィニーというギター組。ビリーとデヴィッドの間の一歩下がったところに、ベースのパズ・レンチャンティン。ビリーの後方には、"盟友"ジミー・チェンバレンだ。デヴィッドは半身に姿勢で、終始うつむきかげんで淡々とギターを弾く。片やマットの方は、リラックスした調子で楽しそうに弾いているのだが、アクションにおいてもサウンド面においてもかなり地味だった。


 では、ビリーに次ぐ存在感を放っていたのは誰なのかというと、それはパズだ。『Mary Star ~』のときはドラムの方を向いて、つまりオーディエンスには背を向ける形で弾いていたのだが、続く『Lylic』でくるりと振り返り、ビリーとのツインヴォーカル。ヴォーカルはほとんどの曲でツインとなっていて、なおかつ長い髪を振り乱し、踊りながら弾くパズ。ダーシー、メリッサに次いでビリーが起用したベーシストは、またもや女性。パズはToolのメイナード・キーナンのプロジェクトだった、ア・パーフェクト・サークルにも参加していた人だそうで、ビリーはいいところに目をつけている。


 ビリーはおなじみのスキンヘッドで、胸に像?のプリントが入った黒い長袖シャツ。何度となく右手で人差し指を掲げていたのだが、まるでこの日会場にいた誰よりも、ライヴを楽しんでいたような様子だった。そしてバンドを支える屋台骨がジミーで、ロキシー・ミュージックを経てブライアン・フェリーのソロバンドにも参加を続けている、ポール・トンプソンのような存在だろうか。『El Sol』や『Endless Summer』といった、ギターロックでありながら憂いや切なさ備えた曲は、後期スマパンの文脈を受け継いでいると思う。





 1曲1曲が重厚で、見応え聴き応えたっぷりでライヴは続く。中でも『Jesus, I』から『Gods Gonna Set This World On Fire』のメドレーは、パズのベースラインでじっくりと始まり、ビリーの淡々とした歌声に導かれるようにして、徐々に緊張感が高まってくる。そして終盤はまたまた壮絶なインプロヴィゼーションの嵐で、これで本編終わっちゃうのかなと思わせるくらいの壮絶プレイ。だけど私は、自らに妥協を許さず、徹底した演奏のみで至高の世界を作り上げるというビリーのアプローチに、ヘヴィー・メタル期のキング・クリムゾンの遺伝子が宿っていると思っている。


 続く『Of A Broken Heart』ではデヴィッドがキーボードを、パズがバイオリンを担当し、一転して物静かな曲調となる。こうした変幻自在ぶりも、このバンドの武器のひとつか。そしていよいよ終盤となり、Tレックスのヒット曲をもじったかのようなタイトルの『Ride A Black Swan』、そして先行シングルの『Honestly』と畳み掛けて本編が終了した。


 少し間が空いたが、もちろんアンコール。『A New Poetly』『Spilled Milk』と、いずれもアルバム未収録曲だが、そのクォリティは他の曲に少しもひけを取ってはいない。アルバム『Mary Star Of The Sea』は日本盤と外盤とで収録曲が異なっているのだが、ビリーはZwanを始動させるに当たってレコーデイングを重ね、多くの曲をストックさせているのではと思われる。こうして素晴らしいひとときが終わり、メンバーはステージを後に。しかしビリーだけが最後まで残り、最前のオーディエンスと握手したり、マイクスタンドにくっつけていたピックを投げまくったりしていた。まだ初日なのに(笑)。











 スマパンの頃を思い出すと、ビリーは緊張感出しまくりの、見ている方まで苦しく切なくなるようなライヴをすることが多かった(特に、解散を宣言した後のツアーでは)。今回はかなりリラックスしてライヴをしていたように見え、それでいて自分はまだやれるんだ、まだまだこれからなんだという、確信に満ちていたように思えた。

















ビリー・コーガン生還す。そして、"第2章"の幕は切って落とされたのだ。












(2003.2.2.)
















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