The Smashing Pumpkins 2000.7.2:東京国際フォーラム ホールA







 開演予定時間を過ぎてもなかなか客電は落ちず、通路を歩く人も多い。このあまりの緊迫感の無さに、ほんとうにこれから日本で最後のスマパンのライヴが始まるのだろうかという疑問が湧いてきてしまう。の、だが・・・、











本日は日本最終公演につき、途中15分の休憩をはさむ2部構成となります












 なるアナウンスがあり、場内の空気が一変。96年の『Mellon Collie~』での来日公演がやはり2部構成だったことはあったが、よもや、まさか。。。ビリーの、日本のファンに対する想いがまたしても痛いくらいに伝わってくる。なんてきまじめな人なんだろう。





 その2部構成の第1部が始まった。ビリーひとりだけでアコギを持って登場。やはり第1部はアコースティックセットなのか。固唾を飲む場内。オーディエンスの意識がビリーに集中する中、ついにスマパン日本最終公演の幕が切って落とされる。


 そしてその幕開けは、なんと『Stand Inside Your Love』のカップリングでありアルバム『MACHINA』のボーナストラックでもある『Speed Kills』だった。意表を突く・・・、まさに意表を突くスタートだ。しかしなんて切ない、なんて美しい音色なのだろう。


 更には2曲目で早くも『Today』の登場だ。おとついの武道館では後半のクライマックスを飾った曲だというのに、それがもう放たれてしまう。アコースティックアレンジということで、ドラゴンアッシュにパクられた例のイントロではなかったが、最早そんなことはどうだっていい。そして続くはこれまた意表を突く『Muzzle』。ビリーが放つのは、歌と演奏を通した祈りにも近いコミュニケーションだ。それが私たちの目に、耳に、突き刺さってくる。このライヴ、これからいったいどうなってしまうんだ。曲の方は『Once Upon A Time』『The Imploding Voice』と、更に嬉しい変化球が続く。


 ここでイハが登場し、今度は2人での演奏となる。そして、これまでのライヴのアコースティックパートの出だしに歌われていた『To Shiela』。これが途中から『Shame』に移行。更には『Drown』というダメ押しまでが加わる。イハは白いスーツ。ビリーは黒服のスカート姿だが、武道館のときとは違う衣装に見える。私は武道館ではステージ向かって左、つまりメリッサ側で観ていた。このときは視線の先にでかいスピーカーがあったためによくわからなかったのだが、ステージバックのスクリーンが曲によって変わっていることを始めて知る。この日は向かってイハ側の座席だった。





 ノエル・ギャラガーは『Be Here Now』に否定的な発言をしていたり、レッチリはライヴで『One Hot Minute』の曲を演奏しなくなったりして(もっとも、これにはデイヴ・ナヴァロ脱退とジョン・フルシアンテ電撃復帰というドラマが背景にあるのですが)いる。つまり前作が失敗、あるいは谷間的位置付けという判断をバンド自らが下してしまっているケースをしばしば見ることがある。


 『Mellon Collie』という、90'sギターバンドの臨界点を極めたかのような2枚組の大作の後、妖しくも美しい『Adore』が放たれる。どの曲も重たく、一見内省的とみなされがちなこのアルバムこそが、実はスマパンをまるはだかにしたときに輝く異様な美意識であり、バンドは遅かれ早かれ『Adore』のような作品を生み出さなければならなかったと思う。そして『MACHINA』は、ジミー復帰を印象づける激しいドラミングと、『Adore』的美意識が根底に位置していて、これが私にはとても嬉しかった。最新作にして最終作になってしまったこのアルバム、私はバンドのキャリア集大成的作品だと思っている。





 残るメリッサとジミーが姿を見せ、晴れてフルメンバーでの演奏となる。メリッサも、イハと対を成すかのように白い衣装だ。『Glass And The Ghost Children』『This Time』『Stand Inside Your Love』が立て続けに披露される。『Adore』~『MACHINA』で揺るぎないものになった美意識が、場内を包み込んでいる。


 ビリーがおどけて『Whole Lotta Love』や『Smoke On The Water』のリフを弾いてみせたり、MCでコンサートに来てくれたことに対するお礼を言ったり、メリッサやイハとのちょっとした微笑ましいやりとりもあったりした中、『Disarm』で第1部は締めくくられた。まさに最終公演。怒涛のスペシャルな選曲の連続は、その最後までが感涙モノだった。














 休憩中にはピーター・ガブリエルがサントラを担当した映画『Birdy』の曲が流れ、そして第2部。今や反則攻撃にも近い『The Everlasting Gaze』『Heavy Metal Machine』の2連発で幕を開け、場内のヴォルテージを一気に沸点にまで持って行く。第1部が次に何が飛び出すかわからないドキドキ感に包まれていたのと比べると、既に武道館で観ていることもあってか、なんだか少しほっとし、安心している自分がいた。


 しかあし、このまま安心させてくれないのがビリーである。ジミーのドラミングとメリッサの重いベースラインのイントロ。両者にスポットが当たる中、導かれたのはなんとファースト『Gish』収録の『I Am One』だ!しかも、これがなんとも切れ味鋭く、そしてオーディエンスのリアクションもいい。92年の初来日公演。ニルヴァーナ来日とダブったのが関係したのかしないのか、クラブチッタは100人ぐらいのスカスカな客入りだったそうだ。そんな状況でもきっとビリーは、おのれの持てる限りのポテンシャルを出し尽くしてライヴを行ったに違いない。"グランジの仕掛人"ブッチ・ヴィグとビリーが組んで世に放ったミュータント、それがスマパンなのだ。


 『MACHINA』の中でも比較的ポップであり、これまで演奏されていなかったのが不思議なくらいの『Raindrops & Sunshowers』。そしてふざけてジョーク飛ばしまくっていた武道館とは違い、ビリーがまじめに淡々とメンバーを紹介する。そして最後に紹介されたイハから『Blew Away』へとつながれる。ほのぼのとした優しく温かい曲が終わるか終わらないかというときに、いよいよ私の待っていた瞬間がやってきた。











今夜、不可能が可能になる・・・。












 国際フォーラムはとても音が良く聞こえ、座席もゆったり。傾斜もなだらかになっていて、後方の席でもステージがよく見える。冷房も完備。トイレもきれい。駅からも近い。至れり尽くせりだ。しかし私の背筋が凍りついたのは、冷房がガンガンに効きまくっていたからではない。ジミーの激しいドラミングが、ビリーとイハの奏でるギターフレーズが、そしてビリーの歌声が、『Tonight,Tonight』が、私の全身を凍りつかせたのだ。


 不可能が可能になる・・・、これこそはスマパンが追いかけ続けていたテーマではなかったか。音楽を通し、少しでも多くの人と知り合うこと。少しでも多くの人と理解し合うこと。ビリーの一挙手一投足が、ビリーが発するメッセージが、なにゆえあそこまで危ういのか。なにゆえあそこまで痛々しいのか。それは全て、不可能を可能にしてみせるためではなかったか。














そして、ここに足を運んだみんなは知っている。感じている。















スマッシング・パンプキンズというバンドと時代を共有できて幸福だったことを。















スマッシング・パンプキンズが、不可能を可能にしてみせたことを。
























 これまで全国各地を燃えたぎる炎のような壮絶な勢いで焼き尽くしてきたであろう『Bullet With Butterfly Wings』~『Once In A Life Time』のメドレー。ビリーの咆哮。そして訪れる静寂。いちど曲が終わったかのようにみえ、拍手が沸き起こる。が再び、そして今度は幻惑モードに生まれ変わった『Once In A Life Time』が、更に異様な雰囲気を醸し出し、場内を興奮の坩堝に落とし入れる。ついに、第2部も終了してしまった。























 割れんばかりの拍手。私は数限りなくライヴ会場に足を運ぶうち、いつしかライヴ慣れした玄人を気取るようになってしまい、どうせアンコールやるんでしょ、決まってるんでしょ、と覚めて構えるようになってしまっていた。しかしこの日は違う。観たい。もっと演って欲しい。単純にただそれだけの想いで、ただ夢中で手を叩いていた。


 テンポを落とした『Perfect』でアンコールが始まる。またしても『Adore』の美意識が放たれるが、しかし、なぜか不思議な荘厳さが備わっている。やがてその荘厳さは『Cherub Rock』の重量感とスピード感に取って変わり、炎が消える間際に激しくゆらめく様を彷彿とさせた。














 最後の最後。武道館と同じく、ビリー、イハ、そしてジミーがアコースティックギターを持ってステージ前方に姿を見せる。ここでビリーのMC。スマッシング・パンプキンズというバンドはもうなくなるけど、みんなの心の中には永遠に残る。違ったかもしれないが、私にはビリーがそう言ったように聞こえた。そして4人横1列に並び、『1979』だ。場内大拍手で手拍子を取り、温かい雰囲気の中で曲が進む。不思議と悲壮感は漂わず、この日ここに来てよかった、という想いがにじみ出てくる。今回ギターをかき鳴らしラストを引っ張りに引っ張ったのは、ビリーではなくイハの方だった。


 ピックやら何やら投げまくってステージを後にするメリッサとイハ。しかし、その後もひとり残っておじぎをするビリー。身をかがめ、最前列のオーディエンスと握手を交わす。右に移動。更にはスピーカーを伝い、ぎりぎり行けるところまで行って、また握手。手紙やらプレゼントやらをたくさん受け取る。今度は左へ。セキュリティーがステージ前に集結し、アクシデントが起こらないよう細心の注意を払う。最後はもう一度ステージ中央に戻り、にっこり微笑んで深深とおじぎする。





























"最後のキス"。そして、スマパン日本最終公演の幕は閉じた。






























(2000.7.3.)
















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