The Smashing Pumpkins 2000.6.30:日本武道館

私はここ3年ばかり、武道館のライヴにはクルマで行っていた。しかし、この日は会社から直行のため、久々に九段下駅の改札を通る。ダフ屋攻勢に遭うのも久々。グッズ売り場を覗くが、今回のスマパン来日はほぼ全国ツアー。東京公演はその最終に当たるため、既に品切れになっているグッズが多かった。


 席についたのは午後7時を少し回った辺り。ここ武道館公演に限り、一般公募された日本のバンドがオープニングを務めることになっていて、そのライヴが既に始まっていた。Feed(フィード)という4人組で、望郷感漂うサウンドと女性voの甲高い歌声が印象的だった。オーディエンスの反応も良好だったようだ。ビリーが抜擢したのがうなづけるようなバンドである。彼らは3曲を演奏し、最後はテルミンやどらを操って幕を閉じる。





 若干のセットチェンジの後、7時半過ぎについに場内が暗転する。割れんばかりの歓声が響く中、メンバーが姿を見せる。ビ、ビリーでかい。まるでプロレスラーのような巨漢だ。頭部もでかい。きっと脳味噌がいっぱいつまっているに違いない(笑)。ステージには鉄骨アーチがなく、まるで文明開花期のガス灯のようなライトがいくつか吊るされている。後方には、アルバムジャケットとおぼしき絵があった。更にはTV収録でもするらしく、カメラがあちこちに配置されている。


 『Age Of Innocence』『Glass And The Ghost Children』の、新作からの2連発でスタート。『Age~』は、今回の来日公演の多くでトップを飾っている曲だ。しかし、心なしか音が悪いように思え、演奏が私たちのところまで染み渡ってこない。そして私からすれば、この2曲はライヴの出だしを飾るにはおよそ似つかわしくない地味な選曲。果たしてこれでいいのだろうか。


 イハは赤いスーツに開襟シャツ。なんかVシネマのヤクザものにでも出てきそうな格好である。最後方に構えるジミー。2年前の武道館にはその場にはおらず、変わりにドラムマシーンがいくつも並べられていた。彼は帰ってきた。戻ってきたんだ。やはり機械には人間の代用はできない。


 そしてメリッサ。まずはビリーに劣らないくらい身長が高いのにびっくり。スリーブレスの赤いドレス姿で、そのスリットから覗く、黒いロングブーツがセクシーである。そしてその存在感が凄い。機材に片足をかけて前のめりのポジションを取り、ベースのネックを垂直に持ち上げるパフォーマンス。私の頭の中では、ダーシーがこうであったのに対しメリッサは~、という図式が駆け巡るであろうことが予想された。が、ダーシーがどうこうということを考える余地はなくなってしまった。


 ビリーは黒づくめでスカート姿。PVでも着ていたやつだろうか。ステージ前方に何度も立ち、オーディエンスを指差す。優しいまなざしを向ける。おじぎをする。ビリーの私たちとコミュニケートしようという気持ちが、痛いくらいに伝わってくる。なぜなんだ。どうしてなんだ。スマパンほんとうに解散してしまうのか。こんなに凄いバンドなのに。こんなにみんな熱狂してるのに。一見地味に思えたこの冒頭の2曲だが、「終わりのない悲しみ」が漂う曲調に無念の想いが募ってしまう。





 そうした私の想いを不意に打ち破ったのは『The Everlasting Gaze』だ。アルバムに比べてかなりのアップテンポである。ジミーのドラミングが凄い。そしてビリーの爬虫類の咆哮のようなヴォーカル。後半、無音状態の中でビリーひとりが歌うパートがあり、バックからのスポットライトを浴びて目一杯にシャウトする。場内は一気に熱狂の渦へ。


 タイトル通りの重厚さを備えている『Heavy Metal Machine』。まるで全てを燃やし尽くすかのような轟音ギターノイズの嵐。首を少しもたげてギターを弾くビリーの姿に、80'sに隆盛を極めた多くのメタルバンドのギタリストの姿がダブる。これらのバンドのほとんどは、メタリカを除けば90'sに入ってもその確立した様式美を再構築しているにすぎず、時流との格差は広がるばかり。しかしビリーは、実はこれらのバンドの文脈を今に受け継いでいるのではないのか。ここが最初のクライマックスだったと思う。





 「special guest...」なるビリーのMCによって紹介されたのは、イハがメインvoの『Blew Away』。『Siamese Dream』時代のアウトテイクだが、今回のライヴでは常に演奏されている。ソフトな曲調は、スマパンの曲というよりはやはりイハのソロ的色合いが濃い。ビリーはメリッサと背中合わせになるかのようにしてギター弾きに徹している。


 そして新作のファーストシングルになった『Stand Inside Your Love』。『The Everlasting Gaze』とどちらをシングルカットするかで二転三転したのも、今となっては微笑ましいエピソード。ご存知ない人にとっては訳のわからない例えで恐縮だが、『Everlasting~』が村田兆治がマサカリ投法から放つ149キロの豪速球ならば、コチラは"サブマリン"山田久志が繰り出す伝家の宝刀シンカーのような切れ味だ。


 更には意表を突く『Cherub Rock』。てっきり本編ラストに持ってくるとばかり思っていたのでこれまたびっくりだ。今回は基本的に『MACHINA』に伴うツアーであり、当然ながらセットリストもその新作が基本となるが、それだけにかつてのスマパンを彩った曲が放つ輝きは素晴らしい。


 ビリーの長い長いながあいMC。当然英語なので、私には何を言っているのかさっぱり。客席に向かって指を指す。歓声が上がると「Thank you」を連発(笑)。イハとの掛け合いも。この中で、今日はいつもより少し長めに演ると言ってくれたようだった。





 アコースティックセットに移行。ビリーがひとりで登場し、まずは『To Sheila』。まるで原曲の面影がなく、耳に意識を集中しないとそれとわからないくらいだ。後から他のメンバーも入場。ジミー用の簡素なドラムセットもビリーとイハの間に用意されている。ビリーの訳の分からないMCによってメンバーが紹介され、『Ava Adore』へ。アコースティックながらも重量感溢れるサウンドと妖しいまでの美しさがよみがえる。私にとってのスマパンのベストアルバムは『Adore』なので、とても嬉しかった。


 だいたいこれまでのライヴではアコースティックセットは2曲。多くても3曲だった。それがこの日は先ほどのビリーのMC通り、てんこもりの4曲である。『This Time』と『Try, Try, Try』。しかし、『MACHINA』からの曲は『I Of the Mourning』といい切なさ漂う曲が多く、聴いているこちらの身が引きちぎられそうになる。


 来日前になって突如明かされた年内いっぱいでの解散という報。例えばリチャード・アシュクロフトは、先日発表されたばかりのソロアルバムを聴く限り、ヴァーヴ解散は必然だったと納得もできる。が、スマパンどうしても解散なのか。必然なのか。私にとっては解散の報は寝耳に水だったし、今もって素直に受け入れることはできない。





 再びエレクトリックに戻り、デヴィッド・エセックスのカバー曲である『Rock On』。バンドは『MACHINA』発売に先駆け、今年に入ってからヨーロッパでクラブギグを敢行していたが、その中でも演奏されていた曲である。よほどのお気に入りなのか。


 壮絶極まる『Bullet With Butterfly Wings』から、トーキングヘッズの『Once In A Life Time』へ。しかし、これがダンサブルで軽快な原曲の面影などまるでなく、ラウドでヘヴィーで壮大なスケールを備えた曲に仕上がっている。事前の予備知識がなければまるで反応できなかったところだ。そしてラストは幻惑モードに突入。このメドレーで公演を終えたことも多かったので、本編はここまでなのかな、と思ったそのとき、ビリーがギターを交換。そしてあのリフが!!


 もうこの日何度目かになるであろう、場内を暖かく包むオーラ。その中にいる私たち。そしてオーラを発しているスマパンの面々。『Today』だ。天井を見上げる私。武道館の天井には国旗が飾られているが、それがいやに近く見えた。近く感じた。高いはずの天井が、広いはずの武道館の中が、ぎゅっと圧縮されて場内の密度を一層濃くしているように思えたのだ。














 『An ode to no one』の、何度目かになるビリーの咆哮によって本編は終了。オールスタンディングでモッシュしまくったわけでもないのに、足にきてしまって思わず椅子に座り込む。まるでバラバラだが愛情いっぱいの拍手が渦巻く中、『Blank Page』のけだるい音色でアンコールは幕を開け、場内は一転して静まりかえる。オーディエンスの意識がビリーに集中する。


 『Mayonaise』。『Siamese Dream』はバンドがブレイクする足掛かりになったアルバムだし、密度が濃く聴きどころたっぷりの作品なのだが、今ひとつ私の中には入ってこなかった。それが、このときばかりは全身を感動が襲い、背筋が凍りつく思いがする。こんなにも美しい曲が、こんなにも美しい瞬間がやってくるなんて。そして場内は再び暗転。ここでライヴが終わっても不思議ではない状況だった。のだが・・・、














 ビリー、イハ、そしてジミーまでもがアコースティックギターを持ってステージ前方に姿を見せる。デジタルビデオを片手に、オーディエンスをそのファインダーの中に収めようとする。まずはビリーが挨拶し、そしてイハ。その間ビリーがイハを背後から録る。メリッサもカメラを片手に写真を撮る。4人が笑顔でオーディエンスに応える姿を見て、ため息が漏れる。なんて素晴らしい人たちなんだろう、って。


 4人が横1列に並び、『1979』のイントロが響く。このアングル、この4人の姿が幾多の歴戦をくぐり抜けてきた勇姿に見えてくる。・・・かと思えば、なぜかおどけて妙な踊りをしてみせるメリッサ。それを見よう見まねでやって追いつかないイハは苦笑いする。ジミーはその踊りに加わるでもなく、笑みを浮かべながら淡々とギターを弾く。そしてビリー。ラストを引っ張りに引っ張り、しつこいくらいにアコギをかき鳴らす。


 曲が終わり、ステージから何かを投げて配るメリッサ。可能な限り、あらゆる方向を向きながらおじぎするビリー。クレーンに吊るされたカメラに茶々を入れるビリー。プレゼントを受け取るビリー。ステージを降りてくることはなかったが、その気持ちは痛いほどに私たちに伝わってきた。





























 何度も押し寄せる波が、何度も訪れるクライマックスが、いいようのない感動と喜びを私たちにくれた。先日のレイジとはまた違った喜びを噛み締めながら、私は再び武道館の門をくぐって外に出た。あと1回彼らのライヴを観ることができる。恐らく最後の最後になってしまう日本でのライヴ。今度はあれこれ考えず、単純に楽しんでくるつもりだ。




(2000.7.1.)
















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