Manic Street Preachers 2003.1.26:東京Bay NKホール

本国イギリスでは、今や押しも押されぬ国民的バンドに君臨しているマニックス。しかしここ日本では、これまでの公演は(フジロック'01を別とすれば)会場は全てライヴハウスだった。今回の日本公演も他の地域は全てライヴハウスで、中には客入りが寂しかったところもあった様子。しかし最終となる東京は、ベイNKホールというキャパ約7000の会場だ。これが吉と出るか凶と出るかは、バンドの力量はもちろんだが、この日集まった私たちにもかかっている。





 まずは、定刻通りに東京のみのオープニングアクトがスタート。くるりで、日本の音楽シーンで重要な立ち位置を占めているロックバンドのひとつ。個人的には過去に1度、フジロック'99で観たことがあるのだが、このときは観たというよりたまたま通りかかったようなものなので、実質的には今回が初となる。昨年ドラマーが脱退していて、どうやら今回はナンバーガールのアヒト・イナザワがサポートしているようだ。


 くるりはギターバンドといっていいと思うのだが、なつかしさと普遍性を併せ持ったサウンドは、洋楽ロックバンドには出せない独特の輝きを放っている。演奏、及びヴォーカル岸田の声量は申し分ない。マニックスのファンに受け入れられるか微妙なところだったが、オーディエンスのリアクションも好意的だった。岸田はMCで、日本出身のくるりです!とか、ディズニーランドのモノレールに乗ってきたとか、そんなような小話も。こうして彼らは、約40分の持ち時間を使い切った。会場が準アリーナといっていい広さなので、ライティングにもう少し凝った方がいいのにとも思ったが、それをしなかったのは、彼らのオープニングアクトとしての潔さだろうか。





 そして、約30分のセットチェンジの後に場内が暗転。興奮したオーディエンスの怒号が飛び交う中、流れたイントロはなんとデヴィッド・ボウイの『Speed Of Life』(!)だった。そしていよいよ、マニックスのメンバーがステージ向かって右の袖から登場。オープニングは、『Motorcycle Emptiness』。サビは大合唱となり、ジェームスは、間奏でくるくる回りながらギターを弾くお決まりのアクションを、早くも披露する。続く『You Stole The Sun From My Heart』でまたもや大合唱となり、アリーナは大モッシュ大会に。


 ステージは、正面にジェームス、向かって右にニッキー(例によって、花で飾られたマイクスタンド)。ショーンはジェームスの真後ろだが、ドラムセットに埋もれていてよく見えない(笑)。両端にはサポートが陣取り、向かって左はピアノ、右はパーカッションという具合。ジェームスは1曲毎にMCを発し、日本語も交えながらオーディエンスとのコミュニケーションを取る。例えば『Masses Against The Classes』では、「Ahhhhhh...」という、出だしの絶叫のところを歌わせるといった具合だ。





 新曲『There By The Grace Of God』は、一見地味だが奥深い味わいを感じさせる。そして続くはジェームスがステージ左端の前方に立ち、なんとまたまたデヴィッド・ボウイの『Revel Revel』のリフを弾き、そのままメドレーで『Motown Junk』へ。この曲のときは『Baby Love』などの曲をサワリだけ演ることが多いのだが、しかしまさかボウイとは・・・。オープニングといい、ボウイファンの私としては思わぬボーナスが出たようで嬉しい(笑)。


 今回のツアーは、昨年秋にリリースしたベスト『Forever Delayed』に伴うものだ。なので選曲も近年の作品に偏ることなく、初期の曲も多数披露。ファーストアルバムの1曲目である、まさかまさかの『Slash 'N' Burn』や、セカンドからの『Life Becaming A Landslide』、サードからは『She Is Suffering』といった具合。これが蔵出しという埃臭さがなく、むしろ封印を解かれて再び世に現れたことで新たな輝きを放っている。


 『Ocean Spray』では、イントロで日本語が流れるのだが、ココではステージの袖からスタッフを呼び寄せて、「とても美しいですね」というセリフをそのまま言わせてから始まった。この人は実はミッチ池田という日本人で、オアシスやマニックスを長年撮り続けている、メンバーとも気心の知れたカメラマンだ。マニックスにとって、日本という国はどのように映っているのだろう。まんま日本語のタイトル『Tsunami』というのもあるし、特別な想いというのがあるのだろうか・・・といったことにも、想いを馳せてみる。





 近年のライヴでは、途中にジェームスひとりだけのアコースティックコーナーというのがあった。今回もそうなるのかなと思ったが、メンバーはそのままで、ジェームスがギターをアコースティックに持ち替えただけで始まった。曲はなんと、『Little Baby Nothing』!オリジナルはトレーシー・ローズとのデュエットなのだが、ココではジェームスが全てのパートを歌う。続く『Faster』のときは、リッチー・エドワースに捧ぐと言ってから演奏が始まった。1曲毎に何かしらしゃべっているジェームスなのだが、このときは少しじいんときた。


 再びエレクトリックとなるが、既に連発されている、まさか聴けるとは思わなかった初期の曲がまたまた放たれる。『From Despair To Where』に『Roses In The Hospital』で、先ほどのジェームスのことばではないが、この場にはいないはずなのに、リッチーのことを思い出さずにはいられない。その一方で『The Everlasting』や『Everything Must Go』といった、リッチー不在後のバンド再出発を象徴するような曲も放たれて、ライヴはいよいよクライマックスへ。マニックスの音楽性は初期と近年では大きく変わってしまっているというのに、それがライヴの場では違和感を感じないから不思議だ。





 それにしても、なんと感動的な瞬間の連続なのだろう。まだこの曲が、更にこの曲が、といった具合で、1曲1曲にとてつもない重量感があって、聴いていてたまらない。"みんながひとつになれる"90'sのUKバンドといったらそれはオアシスだと疑わなかったのに、その認識が揺らぎそうになるくらいに凄まじい。『A Design For Life』では、曲の後半でジェームスはマイクスタンドを持ってステージ左端で歌い、その位置のままで、ついにラストの『You Love Us』へ。


 ジェームスが立って歌っているその位置は、本来ならリッチーが立っていたであろうポジションだ。そこでギターをかきならし、熱唱するジェームス。間奏になるとニッキーはスピーカーの上によじ登り、一方のジェームスはマイクスタンドを持ってステージを降り、アリーナ最前のオーディエンスのすぐ前に構えて、最後までを歌い切った。客電がつき、場内は大きな拍手と歓声に包まれる中、ジェームスはステージに戻る。片やニッキーだが、いつのまにかスピーカーを降りたかと思ったら、ベースをへし折って両手で持っていた。そのニッキーを肩車しながら、挨拶をするジェームス。こうして、全てが終了した。





 この日のマニックスを超えるライヴを、果たして今年体験することはあるのだろうか。まだ1月だというのに、私はそんなことを考えていた。そしてもうひとつ思ったのは、マニックスは今回のツアーが終わったら、ライヴアルバムをリリースして解散してしまうんじゃないかということだ。こんな余計な心配をしたくなるくらい、凄まじいライヴだった。そして会場をベイNKホールにしたのは、「吉」どころか大きくプラスに働いた。数千人がモッシュしているありさまを2階席から見ながら、これだ、この光景なんだと私は思った。この国でのマニックスの立ち位置が、ひと握りのファンに愛されるバンドから脱却し、多くの人に支持され応援されるバンドになったのだ。




(2003.1.29.)
















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