Kraftwerk(Electraglide 2002) 2002.12.13:幕張メッセ国際展示場ホール

インドアのオールナイトイベント、エレクトラグライドは今年が3回目の開催になる。第1回はアンダーワールドをメインに据え、第2回はファットボーイ・スリムやエイフェックス・ツインなどを擁していたのだが、私は不参加だった。オールナイトはちょっとなという気持ちがあって、それでもどうしても観たいというアーティストを見出せなかったからだった。そんな私が今年エレグラに初参戦したのは、クラフトワークという、「どうしても観たい」アーティストが出るからだ。


イベントは、午後9時開場。会場は幕張メッセの1番から3番ホールまでを使っていて、1番ホールがDJステージ、2番が飲食や物販のエリア、そして3番ホールがライヴステージという構成になっている。9時半過ぎに中に入ったのだが、DJステージの方は既に始まっていて、ダンスフロア状態になっていた。一方のライヴステージ側はというと、クラフトワークの出演時間が30分後ろにずれたこともあってか、人もまばら。なので前方2列目に陣取り、時間が経つのを待った。こちらもダンスチューンのBGMがかかっていて、体を小刻みに揺らすファンも少なくなかった。





BGMが止まると同時に歓声が沸く。少し間があってイントロの電子音声が響き、幕が開いてステージがあらわになる。そして右側の袖の方からひとりずつ歩いて登場し、中央に4人が並んだ。オープニングは『Numbers』だ。ステージにはメンバー4人の前に卓がある以外は何もなく、がらんとしてスペース余りまくり。そして後方は大きなスクリーンになっていて、「ein,twei♪」「one,two♪」という、曲の歌詞が映し出される。それが「イチ、ニ、サン、シ♪」と日本語の詞になったところで、歓声は一層高くなる。


曲はメドレー式に、『Computer World』へとつながれた。ステージは、ラルフ・ヒッターとフローリアン・シュナイダーの中核が両端に陣取り、中央の2人はいわゆる"お弟子さん"だ。卓の上にはノートパソコン(のように見える電子機材だったのかな)があるだけで、当然ながら他に楽器はなし。演奏というより淡々と機材を操作しているようで、4人の動きも手先以外ほとんどない。特にフローリアンはほとんど動いておらず、最初のうちはロボットなんじゃないかと思ってしまった(笑)。ヴォーカルはラルフひとりで、この人だけがヘッドフォン付きのマイクで歌っていた。


もっとダンスチューンのアレンジに仕上げてくると思ったのだが、曲のテンポは原曲とほぼ同等で、ちょっと踊れる状態ではない。オーディエンスは、ステージを食い入るように見つめるといった具合。しかし4曲目で早くも『Pocket Culculator』となり、ここで場内の温度が変わった。スクリーンにも電卓が現れ、両端には日本語で「電卓 クラフトワーク クリング クラング プロダクション」というアナログの帯のような表示があった。後半は日本語詞の『Dentaku』となり、ラルフは口元に手をかざしながら「ボクハ オンガクカ デンタク カタテニ♪」と歌う。





『Expo 2000』はドイツ万博のテーマ曲として作られた新曲で(といっても既に2年経つが)、スクリーンには未来都市とその中に蛍光グリーン色の4人のCGが映される。ステージの、4人が立っている壇の下が蛍光グリーンに光り、4人の姿もグリーンがかる。『Man Machine』ではスクリーンに「MACHINE」の字が羅列され、今度は壇の下が赤く光り、4人も赤がかる。『The Robots』では4年前のようにロボットが出て来なかったのが少し残念だったが(現在のツアーではやってないのかな?)、その代わりロボットCGがスクリーンにアップになった。このようにどの曲でも曲と映像とのシンクロが見事で、もしかしたら映像やライティングのコントロールもこの4人でしてるんじゃないかと思ってしまった。


こうしてライヴは、ほぼベストと言える選曲で進んだ。未だにシングルオンリーでリリースされている『Tour De France』や、クラフトワークの出世作となった『Autobahn』。そして『Model』といった具合だ。プライマル・スクリームは新作で『Autobahn 66』という曲を書き、『Model』はかなり意外だがライドにカヴァーされている。90'sのテクノ~ハウス~ヒップホップ隆盛という時流の中、彼らはゴッドファーザーとして若きアーティストたちに迎えられ、シーンに復帰した。だけど彼らの影響を受けたのはそうしたジャンルの連中だけではなくて、UKロック勢もまた同様なのだろう。


終盤は、ラジオの集積回路のような映像が印象的だった『Radioactivity』や、ヨーロッパ急行が走る実際の映像を使った『Trans-Europe Express』を畳み掛け、いったん幕が引かれる。しかしまもなくアンコールとなり、「boing boom tschak...」という電子音声と共に再び幕が開いた。曲は『Music Non Stop』で、演奏が続く中、右端のフローリアンが卓を離れて深々とおじぎし、ステージを後に。4人の中で最も無表情だった人なのに(笑)、その去り際の表情は少し微笑んでいるように見えた。続いてお弟子さん2人が去り、ラルフひとりだけとなる。ラルフはキーを叩き、生演奏を披露。ここまでが完璧すぎるほどにコントロールされていたので意外に思え、そして嬉しくもあった。





曲のアレンジがあまりダンサブルではなかったこともあってか、フロアはレイヴパーティー状態にはならなかった。これがエレクトラグライドというイベントの性質に合っていたのか、エレクトラグライドを観に来たオーディエンスが求めていたものに応えていたのかという疑問は残る。だけど彼らは自分たちのスタンスを無理に崩すことはせず、あくまであるがままのライヴをしたのだろう。何よりクラフトワークは今や存在自体が「まさか」なのだし、個人的にはそのまさかをステージ間近で観ることができたので、それだけでもこのエレクトラグライドに参加した意味はあったと思っている。



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(2002.12.14.)
















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