Bryan Ferry 2002.11.30:東京国際フォーラム ホールA

この日の私の座席は2階席の前の方だったのだが、その2階は1/4も埋まっていなかった。予想していたこととはいえ、ちょっぴり寂しい気持ちに(1階の方はどんな具合だったのかな)。去年のロキシー再結成ライヴですら空席が目立っていたのだから、もっと狭いNHKホール辺りの会場にすればよかったのに。もしかして、フェリーがこの会場を気に入って指定してきたのだろうか(そんなことあるのかな?)。





 開演予定を15分ほど過ぎたところで客電が落ち、まずはステージ左の袖の方からフェリーが姿を見せた。後方左のピアノのところに陣取り、フェリーひとりだけでスタート。やがて今度は右の袖からバイオリンの女性が登場し、演奏に加わる。曲は『The Only Face』で、原曲とは異なるシンプルなアレンジだ。続いてフェリーはステージ中央に立ち、別のメンバーが出てきてピアノを弾く。今度は『Don't Think Twice,It's All Right』。言わずと知れたボブ・ディランの名曲で、ディランは"カヴァー王"フェリーが、そのキャリアの中で何度となく取り上げてきたアーティストだ。


 続いては右の袖から女性ハーピストが登場して演奏に加わっての『Carrickfergus』。更には盟友クリス・スペディングとサックス奏者が出てきて『Smoke Gets In Your Eyes』、といったふうに、1曲毎にメンバーがぽつりぽつりと登場してはバンドに加わる、という段取りが踏まれている。去年のロキシーのライヴでは、ラストの『For Your Pleasure』でメンバーがひとりずつ演奏を終えては挨拶して退場、というスタイルだったのだが、まるでそれを引き継いだかのような構成だ。


 そして今度はフェリーが袖に引き下がり、サックスをメーンにしたインストとなる。ここまではいやにしっとりめで、ここがホール会場ではなくブルーノートのようなライヴハウスではないのかと、錯覚してしまうくらいに渋い。ロキシー解散後のフェリーの音楽性はAOR~コンテンポラリー志向が強くなっているとはいえ、このライヴもこのままこの路線で行くのだろうか。と思ったら・・・、





 突然静から動へと転じ、なんとロキシーの『The Thrill Of It All』だ!この曲は去年のロキシーでは演奏されなかった曲なので、とても嬉しかった。まるでクラシックコンサートのようなここまでの鑑賞会モードから空気は一変し、1階は総立ちに。この日のライヴ、客の年齢層は恐ろしいまでに高かったように見えたので、みんな「ロキシーのフェリー」ではなく「ロキシー以降のフェリー」を観に来たのかなあ、なんて勝手に想像していたのだが、やはりロキシーナンバーで場内は狂喜。なあんだ(笑)。


 フェリーは黒づくめのスーツ姿で、左足で軽くステップさせ、両手を叩きながリズムをとる。バンドはフル構成になり、先ほどのハーピストは右後方でパーカッションを務め、白いスーツ姿の3人の女性コーラス、サックス、ベース、ギターのミック・グリーン、そしてフェリーとは今や腐れ縁の(笑)ドラムのポール・トンプソンといった布陣が揃う。かなりの大所帯だ。この中のメンバーのほとんどは、ロキシー再結成ツアーにも参加している。





 今回のツアーはフェリー3年ぶりの新作『Frantic』に基づくもので、当然そこからも何曲か演奏された。『Cruel』ではミック・グリーンのギターソロが、『A Fool For Love』ではクリスのギターソロがフィーチャーされる。この新作は、ここ数年のフェリーの作品では最もエネルギッシュでポジティブな空気に満ちた作品になっていて、50代半ばを迎えたフェリーがその年齢と実績に甘んじることなく、新たに勝負を挑んでいることを感じさせる。そして職人たちがその脇を固めることで、そのパワーは一層強固になっているのだ。


 5年前にドラマ主題歌に使われたことでヒットし、今やフェリー代表曲のひとつとなった『Tokyo Joe』は、原曲よりもかなりアップテンポなアレンジだった。ロキシーナンバー『My Only Love』では、フェリーは再びピアノを弾きながら歌う。ロキシー再結成ツアーのときって、他のメンバーとのバランスを考えて自らはナビゲーターに徹していた印象が強かったのだけれど、やはり自分がメインの今回は、いろいろと意欲的に取り組んでいる。この曲も去年は聴けなかった曲だが、ロキシー時代には今ひとつ目立たなかった佳曲をピックアップし、セルフカヴァーすることで曲が持っている良さを引き立たせている。"カヴァー王"の面目躍如ですな。





 インストの『Tara』でフェリーは再び袖に引っ込み、生還すると今度は『Limbo』。2度目のギアチェンジで、ショウが終盤に差し掛かったことを予感させる。続くは『Boys And Girls』から『Slave To Love』となり、そして『Jealous Guy』へ。正直、この曲のときはフェリーの声がかすれてしまっていたのだが、それでもなんとか必死にリカバリを図ろうとするフェリーの姿勢こそが、感動的だった。そして本編ラストは、『Love Is The Drug』『Do The Strand』の2連発。女性コーラス2人が、リオのカーニバル風のダンサーの格好をしてステージ後方で踊る。ローリング・ストーンズの『Honky Tonk Women』のときにも必ず女性が出てきて踊るように(風船だったときもあったけど/笑)、お約束の演出なのかな。


 アンコールは、再びディランのカヴァーで『It's All Over Now Baby Blue』。そしてどこかで必ず演ると思った『Don't Stop The Dance』へ。去年の『More Than This』がトヨタのCMで起用されていたように、この曲は現在日産のCMタイアップ曲となっている。こうしてみると『Tokyo Joe』といい、日本って国はフェリーの作品の再評価にずいぶん貢献しているよな。続くはオールディーズの『Wooly Bully』を経て、ラストの『Let's Stick Together』では場内はすっかりノリノリになって、ライヴは終了した。





 困ったなあ。これが、ライヴを観終えて私の口から出たことばだった。何が困ったのかというと、去年観たロキシーのライヴに匹敵するくらい、あるいはもしかしたらそれ以上に完成度の高いライヴだったからだ。それなりのライヴはしてくれるだろうと思ってはいたけど、それでもアンディ・マッケイやフィル・マンザネラを擁してのロキシーナンバー攻撃に酔いしれたライヴには叶わないだろうという、先入観があった。


 しかしクリス・スペディングを始めとする職人ミュージシャンたちが精度の高い演奏をし、随所に見せ場を作った。時間はトータルで1時間半程度だったと思うが、これも逆にショウを間延びさせることなく、密度の濃さを維持させること成功した。これらの核になっているのはやはりブライアン・フェリーその人で、その手腕はカヴァーのみならず、メンバーを統制しショウを組み立てるというところにも、恐るべき能力があったのだ。




(2002.12.1.)
















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