Roxy Music 2001.9.8:東京国際フォーラム ホールA

今まで何度も噂になっては消え、を繰り返していたロキシー再結成話。それが世紀も変わった今年になってついに実現してしまった。来日公演は解散した83年以来。私がナマを観るのは、もちろん初めてのことである。再結成というとカネのためとか懐メロとか、といったあまり前向きではないイメージがつきまとうものだけど、果たしてロキシーの場合はどうなるのだろうか?





 開演予定を5分ほど過ぎたところで客電がゆっくりと落ちる。軋んだイントロと共に、エンブレクマークと光で"ROXY MUSIC"の文字が当てられていた幕が開く。それと同時に演奏がスタート。ファーストアルバムの1曲目である『Re-Make/Re-Model』だ。ステージ前方右はsaxのアンディ・マッケイ、左はgのフィル・マンザネラと、ロキシーを支える両輪が陣取っている。2人共丈の長いジャケットのスーツ姿なのだが、しっかし揃ってオッサンだなあ(笑)。そしてもっと驚くべきはdsのポール・トンプソン。角張った顔立ちで体はマッチョで、かつて長髪で豹柄の衣装を着ていた人物と同一とは到底思えない風貌だ。


 そうした中、ほとんど風貌が変わっていないのがブライアン・フェリー。若いうちから老け顔だったからだろうか。しかし声はすれども姿は見えず・・・で、一瞬あせってしまったが、後方左でkeyを弾きながら歌っていた。革地の黒いジャケットに黒パンツ、白いシャツに黒ネクタイといういでたちだ。終盤は各パートのソロとなり、マンザネラのg~マッケイのsax~トンプソンのドラミングで、場内はすっかりあったまる。


 バンドはかなりの大所帯。まずはサポートというにはあまりにも大物すぎるgのクリス・スペディング。地味ながら存在感たっぷりだ。更にはスキンヘッドのベーシスト、ピアノに加え、女性が3人。1人は黒人のコーラスで、マンザネラの左に陣取る。あとの2人は後方右で、1人はkeyとパーカッション。もう1人はkeyとバイオリンを担当する。この2人はビジュアル的にロキシーのカラーを反映しているように思えたが、もちろん単なるお飾りではなく、『Out Of The Blue』のラストではバイオリンの独壇場となる。それぞれセッションミュージシャンとして他のアーティストのツアーに帯同した実績のある腕利きで、フェリーのソロツアーにも参加していたメンバーが多い様子だ。





 選曲は前期後期を問わず、満遍なくセレクトされている。初期ロキシーはとっちらかっている分だけ可能性を秘めていて、後期は洗練された音楽至上主義的志向となっていると思う。今回のライヴ、演奏の精度は後期をそのまま継承し、更にどの曲でも必ずと言っていいほどメンバーがソロで暴れる瞬間が訪れる。マッケイは曲の途中でもsaxをクラリネットに持ち替えて吹きまくり、マンザネラとスペディングがギターを寄せ合うようにして弾きまくる場面もあった。


 こうしたライヴを成立させているのは、他ならぬブライアン・フェリーなのだと思う。70's後期のロキシーは明らかにフェリーが牽引し、他のメンバーがそれに追随するというスタイルだった。しかしこのライヴは違う。もちろんフェリーがフロントであり、立ち位置もステージ前方のど真ん中であり、右に左にと動いて手拍子を煽ってもいる。が、そのたたずまいは自分があまり前面に出過ぎないようとしているように見える。メンバーを引き立たせ、自らはナビゲーター/進行役に徹しているように思えたのだ。これは私にとって意外であり、同時に嬉しくもあった。フェリーがロキシー再結成を、自分の活動のために利用しているのではないとわかったからだ。





 曲により入れ替わり立ち替わり主役が生まれるライヴが続くが、『Both Ends Burning』は全員が交代でソロを張るというめまぐるしい構成となり、それらが噛み合って劇的な空間を生み出した。ステージ後方に3人のダンサーが登場して踊り、フェリーは間奏でブルースハープを披露。まさに中盤のハイライトだ。


 マッケイのsaxとピアノがメインの『Tara』に続いては、トヨタのCMでも流れている『More Than This』。ロキシー美学の最高峰であると同時に80'sを代表するアルバムと言える『Avalon』の世界が広がり、いよいよライヴが後半戦に入ったことを予感させる。フェリーは銀ギラのスーツに着替えていた。そのテンションはヒットナンバー『Dance Away』にも継承される。そして・・・、


 『Jealous Guy』だ!ついに来たか!ロキシー最大のヒット曲であり、顔であり、もちろん原曲はジョン・レノンだ。カヴァー曲は多くの場合、原曲を越えられない。アーティストをリスペクトする余り、曲が本来持ち合わせている良さを殺してしまったり、パロディーに終わってしまったりする場合が多い。だけどフェリーは、原曲と、それを歌っているアーティストに対し最大限のリスペクトを捧げるやり方として、その曲をまるで自分のために作られたかのように歌う。これは好みの問題になるのかもしれないが、ロキシーの『Jealous Guy』は、ジョン・レノンのそれを越えていると思う。そしてフェリーのカヴァーする才能は、デヴィッド・ボウイをも凌いでいると思う。ラストで前髪を垂らしながら口笛を吹くフェリーの姿を見て、改めて私はそう感じるのだ。





 『Editions Of You』で本編を終了し、ほとんど間をおかずにアンコール突入。実は序盤は前列でも座って観ている人が結構見られたのだが、この時点ではもうお祭り状態だ。『Love Is The Drug』『Do The Strand』と、フェリーのvoが前面に出る曲が続く。ステージ後方からは、今度はリオのカーニバルにでも出てきそうな、羽根をいっぱいつけたダンサーが登場して踊る。全員が笑顔で、観ているコチラまで嬉しい気持ちにさせられる。


 ラストは『For Your Pleasure』。混沌とした曲調で、なんでこれがラストなのかと欧米ツアーの内容を調べていたときは思ったのだが、その疑問は目の前で明らかになった。終盤のいつ終わるとも知れないメロディーに差しかかったとき、まずはフェリーが手を挙げて挨拶し、ステージを去った。続いてマッケイが挨拶し、マイクスタンドにかけていたジャケットを手にしてステージを去る。続いてマンザネラ、そして他のメンバーもひとりずつ演奏を止め、前方に出て来て挨拶をし、ステージを後にする。そうして残ったのはポール・トンプソンとピアノの2人。トンプソンが先にステージを去り、ピアノの人が最後の最後まで曲を続け、やがてステージを去った。ここで開演前にステージを覆っていた幕が再びひかれる。ライヴがこれで終わったのだということを、明確にさせる演出があったのだ。





 今回の来日公演は東京3日間のみで、正直言うとこの日もあまり客の入りがよかったわけではない。2階席は1/4も埋まってなかったし、1階席もところどころ空席が目立っていた。だけど質の高いライヴを体験することができて、東京だけでなく他の地域でも公演を実施してほしかったと、思わずにはいられなかった。ロキシー再結成は弛緩した空気が漂う懐メロ大会ではなかったし、曲自体が持つマジックは、世紀が変わっても少しも古びることなく、新鮮なテイストとして通用することが証明できたのだから。




(2001.9.9.)































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