Prince 2002.11.22:Zepp Sendai

武道館で観ているときも、コレをZeppで観れるのかあと何度も思ったものだ。そしてついにその当日となり、実際中に入ってみてその狭さに改めて驚き、喜びを噛み締める。個人的には、ポール・ウェラー以来約2年ぶりとなる仙台遠征だ。ファンクラブの会員が先に入場して前の方を占拠してはいたものの、整理番号が比較的早かった私は、ステージ向かって右側の前3列目という、願ってもないポジションを確保した。





 場内に流れていたBGMが、6時半を過ぎた辺りからいつのまにかDJプレイへと突入。これが30分近く続き、スタッフがステージ両サイドにあるお香に火をつけた。すごい匂いだ。どうやらこれがスタートの合図のようで、まもなく客電が落ちる。ドラムセットの方に歩み寄っていくのはプリンス本人・・・ではなく、正規のドラマーだった。そうしてドラムソロが始まり、続いては超絶テクニックを誇る女性ベーシストが登場。更には管楽器隊もという具合に、徐々にメンバーが現れては演奏に加わった。札幌公演からサックスが1人増え(マッドハウスのエリック・リーズ)、3人編成になっている。


 こうして、ライヴはジャムセッション風にスタート。ステージは武道館のときのように巨大なスクリーンも装飾もないが、しかしその分目の前での見事な演奏力をじかに感じることができる。ジャズインストは10分以上続き、やがてステージ右側の袖の方からひょっこりとプリンスが登場。白いパンツに白いタートルネックのセーター。そして白いニット帽にサングラスという姿だ。男の私が言うのも変だが、「かわいい」と思ってしまった。


 プリンスもジャズインストに加わってギターを弾き(この構成というか演出は、まるでジェームズ・ブラウンのライヴみたいだ)、やがて管楽器の音色が冴える『Xenophobia』へとつながれ、曲の切れ目を作らずに今度はハードなリフの『Bambi』へ。ギターだけでなく繊細にしてパワフルなウラ声も健在で、場内は狂喜。プリンスの初期の作品はほとんどがウラ声オンリーで歌われているが、それから20年以上が経っているのに少しも錆びついていない。更にはジョンスペのようなリフが響くが、よく聴き定めてみると、コレはレッド・ツェッぺリンの『Whole Lotta Love』だ!そしてこの曲もウラ声で歌うプリンス。なんて人だ。





 武道館では「トキオ~」を連呼していたように、ここでは「センダイ~」と何度も言うプリンス。正直、武道館のときは予想以上にオーディエンスの年齢層が高かったので、いくらココがライヴハウスといえど、もしかするとおとなしい雰囲気に陥ってしまうのではという心配もしていた。のだが、オーディエンスの熱狂ぶりはハンパではなく、前方はすし詰め状態。プリンスを間近で観られるという幸福感を、みな噛み締めているのだろう。


 もちろん、私だってそうだ。『Purple Rain』ではスケルトン型のキーボードでイントロを弾き、中盤はヴォーカル、後半は紫のシンボル型ギターをかきむしり~となるのだが、今までは東京ドームや武道館、横浜アリーナという、大きな会場で聴いてきたこの曲を、こんなに間近で聴けるなんてー、という感動で理性がふっ飛びそうなのだ。


 プリンス側もハコがライヴハウスというのを意識してなのか、セットリストをがらりと変えてきた。今回のツアーの顔とも言える『The Rainbow Children』を大胆にも外してしまい、本編後半やラストを飾っていた『Take Me With U』『The Everlasting Now』も、早々に演ってしまった。『1+1+1=3』では、プリンスとの掛け合いで「I love funk music♪」を合唱。続く『Housequake』では、イントロ部分を楽器やSEではなく、プリンスがボイスパーカッションでこなし、DJスクラッチの仕草も披露する。





 武道館のとき以上に曲と曲との切れ目をほとんど作らず、演奏しっぱなし。しかし中盤でプリンスは袖の方に消え、ニュー・パワー・ジェネレーションだけの演奏がしばらく続く。少しして生還したプリンスは着替えていて、今度は黒のスリーブレスのシャツに黒のぴったりパンツ、そして黒のベレー帽姿に。先ほどまでの真っ白から、今度は真っ黒へ。そしてその胸元には、「NPG」のネックレスが光っていた。


 『Strange Relationship』のときには「今まで誰も聴いたことのない、ラジオステーションから」というフリがあり、またまたウラ声発揮の『When U Were Mine』は、武道館のとき以上に切れがあり冴え渡っているように思えた。アリーナとライヴハウスでは、感じ方が違って当たり前とはいえ、だ。『Sign Of The Times』では、ラストでギターをハウリングさせたままステージを去ったプリンス。これで終わったか?・・・と思いきや、少しすると生還し、『Gotta Broken Heart Again』へ。原曲をはるかにしのぐ、ヴォリューム感たっぷりの歌い上げに、ただただ酔いしれるばかりだ。


 本編ラストは『The Work Pt.1』で、ここで恒例?のダンス大会が。サックスのエリック・リーズやメイシオ・パーカーが、前列に陣取るオーディエンスから7~8人を選んで、ステージに上げる。プリンス自らがひとりずつ指名して踊らせるのだが、日の丸扇子を仰ぎながら踊る男や、手袋をしている女性組などがそれなりに奮闘。ひとりぎこちない兄ちゃんがいたのだが、彼はなんと変なオジサンの踊りをした。これにはさすがのプリンスもウケたようで、そしてあろうことか、プリンス本人も加わって変なオジサンの踊りをしたのだ!一歩間違えばぶち壊しになりかねなかったところだが、結果オーライだね。





 真っ暗となった場内で、当然の如くアンコールを求める拍手と歓声が。この日は終始勢いで押しまくっていたので、アンコールなしで終わるんじゃないかという想いもよぎったのだが、メンバーは再登場してくれた。『Pop Life』から『Rise Up』へとつなぎ、前回の来日では必ず演奏されていた『Days Of Wild』へ。これがまたまた延々と続き、場内が熱狂の渦に包まれたまま、終了した。


 これで終わりか、それとも更なるアンコールはあるのか・・・?真っ暗な状態がしばし続いたので、期待を抱きながらの拍手が続く。がしかし、客電がついてしまい、その想いはあっさりと引き裂かれてしまった。拍手はなおも止まないが、ステージにはスタッフが出てきて機材の片付けを始め、「本日の公演はこれで終了しました~」という呼びかけも始まる。この日のライヴ、確かに凄かった。しかし、最早これまでか。これ以上のものを求めるのは、酷だと言うのか・・・?























 黒い人影が、ふらっとステージに現れた。


 漆黒のコートをまとい、バンダナの上からベレー帽をかぶっている。























プ、プ、プリンスだ!!!
























 出てきたっ。プリンスは、再び私たちの前に出てきてくれたのだ。スタッフのひとりに耳打ちし、持っていたセミアコースティックギターにプラグを挿す。他のスタッフは慌ててステージから退散し、再び場内は暗転した。


 プリンスという人は、アーティストとしてのプロ意識を高いところに設定してきた人だと思う。特にライヴの場においては、オーディエンスを満足させることを第一に考え、実行し続けてきた。しかしその意識が高すぎるあまり、ショウに対する組み立てを徹底的に突き詰め、その枠から外れるようなことはしない人だと、ずっと思ってきた。それが覆った。それがひっくり返った。この日この場に集まったオーディエンスが、プリンスの心を震わせ、そして動かしたのだ。


 バンドはなし。歌うはプリンスひとり。しかし、そんなことはどうでもいい。というより、逆にこの姿ほど貴重で、そして愛しいものはない。セミアコで『Last December』を切々と歌い、かすかに微笑みを浮かべるプリンス。いったい、どれだけの時間だったのだろう。わずか3分程度のようだった気がするのだが、だけどその3分はとてつもなく深く、そして限りなく美しいひとときだった。今度は、私たちがプリンスに心を震わされたのだ。























 コレを観なければ、絶対に後悔する。そう鼻息を荒くしての、仙台参戦だった。そしてフタを開けてみれば、ライヴは想像をはるかに超えたものになった。ライヴハウスという狭い空間で、ステージを間近にしてプリンスの一挙手一投足を拝み、音楽を体感する。それだけでも充分過ぎたというのに、最後の最後にはとんでもないドラマがあったのだ。『Last December』は、アルバム『The Rainbow Children』のラストトラックにして、プリンスの現在の心境を色濃く反映した内容になっていると思う。そしてこの日の夜、この曲は私の心の中にも刻まれ、忘れられない曲になった。




(2002.11.23.)































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