Prince 2002.11.19:日本武道館

正直、客が入るのかと不安だった。来日自体が6年半ぶりだし、ここ数年のプリンスの活動に関する情報が、あまり表立って流れていなかったからだ。プリンスが真に輝いていたのは80'sで、改名だ何だとゴタゴタしていた90'sは、音楽的にも失速の一途をたどっているという見方もなきにしもあらずだった(個人的には断固反発!)。しかあし、キャパ約1万の武道館は、超満員とはいかないまでも、ほとんどの席が埋め尽くされていた。そして客の年齢層は、思ったよりも高めだった。





 予定時間を7分ほど過ぎたときに客電が落ち、ステージ向かって左後方に陣取るDJのプレイが。それがやがてドラムソロへとつながるのだが、そのドラムを叩いているのはなんとプリンス本人!ドラムセットはステージほぼ中央の後方にあって、前面がガラスで覆われている。そのガラス越しに陣取るプリンスは、濃い目の紫のスーツに、黒いシャツに黒のネクタイといういでたちだ。


 プリンスはやがてドラムセットを離れ、ステージ前方に移動。他のメンバーも姿を見せる。ドラムの右にはサックスとトロンボーンの管楽器隊。左には女性のベーシスト。その更に左にはキーボードとDJ、といった配置だ。キーボードの人だけが白人で、他は黒人メンバー。これが現在の、ニュー・パワー・ジェネレーションのメンバーか。ステージセットは、後方が大きなスクリーンになっている。そしてプリンスはギターを手にし、『Rainbow Children』へ。


 プリンスの作品は"密室的"と形容されるアルバムが少なくないのだが、もっかの新作『Rainbow Children』ほど密室性を感じさせる作品はないと思う。ライヴハウスで優雅にリラックスして聴くような音楽のように思え、これを武道館で演って果たしてどうか?という不安があった。しかしそこはプリンス、本人が持ち合わせているカリスマ性は元より、演奏そのものの迫力で圧倒。というより、武道館を自分のスタジオにでもしてしまったかのようにオーディエンスを引き込んでいる。





 続くはなんと『Pop Life』で、これが新作の流れを汲むようなジャズっぽいアレンジ。更にはピアノを弾きながら「hello...」「I love you...」とつぶやき、必殺の『Purple Rain』のメロディーが!映画とアルバムのヒットでスターダムにのし上がって以降、この曲は長年に渡ってプリンスのライヴ後半におけるハイライトを飾ってきた曲だったはずだ。92年のツアーのときも序盤で演奏していたが、ここでは大胆にアレンジを変えてしまい、原曲以上にドラマティックな仕上がりになっている。


 紫のシンボルマーク型のギターを手にしたプリンスは、体をのけぞらせながら弾いている。そしてオーディエンスを煽っては終盤のメロディーを繰り返し、ポール・マッカートニーの『Hey Jude』もたじたじなくらいに延々と演奏を続ける。なんだかんだ言って最もポピュラーなプリンスの曲だし、聴く側の熱狂ぶりもハンパではない。もちろん私だって同じで、この曲をリアルタイムで聴いていたその当時の光景や自分自身のことを思い出し、感動となつかしさの両方がこみ上げてきた。ショウは、ここで早くも沸点に達してしまった。





 プリンスはギター弾きに徹し、あまり派手なアクションもない。自分もバンドの一員なんだというスタンスがにじみ出ていて、メンバーのソロを引き出すこと多数。演奏をバンドに任せて自分はステージを後にというのも、1度や2度ではなかった。そして極めつけは、前方にいるオーディエンス3人を選んで上げ、ステージ上で踊らせたことだ。プリンスの現在のオフィシャルサイトはファンクラブも兼ねる形になっていて、会員はサウンドチェックが観れたり前の方の席に招待されたりという特典があるのだが、踊ったのはきっと会員の人だと思う。


 泣きのギターソロを含む『The Question Of U』は、90年のヌードツアーを思い出す。公演のタイミングがちょうど『Graffiti Bridge』リリース直後で、日本のファンは恐らくは世界一早くこの曲をナマで聴けたのだ。そして後でわかったことだが、メンバーと別行動だったプリンスだけが、飛行機の都合で来日が遅れたのだそうだ。公演当日の夕方に成田に着いたプリンスは、高速をクルマで飛ばしてドーム入りし、リハーサルなしのぶっつけでライヴをこなしたという。


 『Strange Relationship』や『Sign Of The Times』といった、名作『Sign Of The Times』からのセレクトも嬉しかった。あの革新的な2枚組は、きっと今でもプリンス自身の中で重要なポジションを占めているのだろう、きっと。更にはまさかまさか、『Dirty Mind』からの『When U Were Mine』まで!いやあ生きてて良かった(笑)。これらはいずれもジャジーかつファンキーなアレンジに仕上がっているが、原曲と曲調が異なることに不満などあろうはずがなく、それどころかこの人の懐の深さを改めて思い知らされた気分だ。





 本編終盤は『Take Me With U』に『Raspberry Beret』と、オーディエンスがノリやすい往年のヒット曲で畳み掛け、そして『The Everlasting Now』で終了。数分の間があくが、もちろんアンコール突入だ。その1曲目は『Last December』で、つまりはアルバム『Rainbow Children』の終盤2曲を、断続的に演奏したことになる。「come 2gether as one♪」という印象的な歌詞で締めくくられる『Last December』は、現在のプリンスの心境を最も色濃く反映した曲ではないだろうか。


 この後はジャムセッション風となり、またもやオーディエンスが上げられてステージで踊る。それも今度は10数人で、もうなんでもありのやりたい放題だ(笑)。プリンスの指示で客電がつけられ、ステージだけでなく客席までもが明るいライトに照らされる。そのさなかから『Peach』~『Alphabet St.』となり、更にはギターを手放してピアノを弾くプリンス。終盤では『Love Bizzare』のフレーズもチラつかせたこのジャムセッション、30分近くは続いただろうか。こうしてプリンスは先にステージを去り、残るメンバーもひとりずつステージを去り、ライヴは終了。踊っていたオーディエンスたちも、スタッフに促されるようにしてステージを後にした。





 アンコールの終盤は、正直言って少しダレてしまった。オーディエンスのダンス天国を見せられるくらいなら、もっとプリンスの曲を聴きたかったなというのが本音だ。しかしそうした不満を差っ引いたとしても、この日のライヴは驚異的だった。過去のプリンスのライヴは、魅せるための演出に趣向を凝らすことが多かったが、今回はシンプルに音楽オンリーで勝負しているように見える。というか、今のプリンスのたたずまいこそが、彼が本当にやりたかったこと、表現したかったことのように思えてならないのだ。




(2002.11.21.)































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