Rage Against The Machine 2000.6.24:幕張メッセ国際展示場ホール

幕張メッセは千葉県の幕張新都心と呼ばれるベイエリアにある。モーターショウやゲーム関連のイベントの開催などでも利用されることの多いこの会場は、電車にせよクルマにせよ、東京都内からだとそれ相当の時間がかかり、交通の便は必ずしもよくはない。このように気軽に行き来できる立地条件ではないのだが、主催者がレイジの東京公演に際し、武道館やベイNKホールではなく、幕張メッセを用意してくれたことを私は嬉しく思っている。


 午後5時に開場。ライヴエリアは展示場8番ホールで、その隣の7番ホールにグッズ売り場や喫煙コーナーが設置されている。これは2年半前のプロディジーのときと全く同じ作り。そしてこの異空間的な雰囲気に、嫌が上にもフジロックを思い出す。整理番号が早かった私はロッカーにバッグを突っ込むとAブロックに向かい、ステージほぼ真正面前2列目くらいのポジションをゲットする。個人的にレイジを観るのは3度目となるが、こんな間近で彼らを観るのはもちろん初めてのことだ。








 前座のブラッド・サースティ・ブッチャーズをはさみ、午後7時20分に客電が落ちてついにレイジ登場!前回のベックのライヴ同様、自分のすぐ眼前にザックが、トム・モレロが、ティムが、ブラッドがいる。歩いている。それぞれの持ち場につく。これだけでもう脳天がショートしそうになる。


 しかし、ザックが発した第一声は「オレたちはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、カリフォルニアのロサンゼルスから来た!!」という例のフレーズではなく、なんと「motherfucker!!」だった。まさか、と思った次の瞬間、『Kick Out The Jams』のイントロが!予想外の幕開け。予想外の展開。2月のプライマルのライヴでもアンコールに演奏された曲だったが、よもやレイジがコレを演るとは!しかし、その驚きを大きく上回って、これがめっちゃめちゃカッコいいのだ。


 続いて例の爆裂重低音イントロ。『Bulls On Parade』だ!一瞬無音状態になり、トム・モレロが発するギターフレーズが響き渡る。背筋に戦慄が走り、そしていいようのない歓喜が沸き上がる。それと同時にステージ後方の幕がせり上がり、アルバム『The Battle Of Los Angels』のジャケットが。しかしよく見ると、その文字は"The Battle Of Tokyo"となっている。台風直撃を食らった異様な状況の中、2万人が総モッシュしたフジロック'97のイメージがよみがえる。そして記憶に新しい、漆黒の闇を切り裂いたフジロック'99の幕開けの瞬間がよみがえる。


 更には『Testify』『Guerrilla Radio』と、新作からの2連発。『Testify』は昨年のフジで、当時は新作発表前という状況で既に日本でも披露されている。そのときは既発の曲に比べて今ひとつピンと来なかったというのが印象だったが、それも今や昔のこと。今眼の前にしているパフォーマンスからは、アルバムのトップを飾るにふさわしいスピード感と、バンドが更なる高みに上り詰めようとするスタンスを感じることができる。一方の『Guerrilla Radio』は不協和音のようなイントロがアルバムそのままに再現され、静寂と爆発力が絶妙にクロスする。この曲がレイジの新しい顔になりつつあることを痛感させてくれる。


 そして早くも『People Of The Sun』だ!信じられないくらい序盤から代表曲ばかりを惜しげもなくぶつけてくる。この潔さ、気持ちいいぜ。ザックはもっと細身かと思いきや、意外やガッチリした体格で結構大柄。ラップを効かせたvoは切れ味鋭く、ドレッドヘアを振り乱しながらステージ上を縦横無尽に動き回る。トム・モレロはブルーの軍人服をまとい、客席に向かって半身の状態でギターをかきならす。2人揃ってのジャンプ。ザックはともかく、ギターを抱えたままであそこまで跳ねまくるトムは凄い。この2人のからみだけで、見ていて全身がゾクゾクするのだ。片やブラッドとティムは、地味ながら自らの仕事に徹し、リズム隊としての役割を充分に果たす。ティムの上半身には刺青。肩には唐獅子のような模様があった。





 もちろん、『Bombtrack』『Bullet In The Head』『Know Your Enemy』『Vietnow』という、これまでレイジのライヴでも重要な骨子を担ってきたナンバーも健在だ。当然ながらレイジの全てのアルバムを聴き、ビデオを観て今回の来日公演に備えてきたわけだが、私の中に最も残ったのは実はファーストアルバムだった。日本では発売が大きく遅れ、レイジが初来日を果たすまで不遇の時代を余儀なくされたアルバムだったが、僧侶が焼身自殺するジャケットに少しも劣らない衝撃は、今なおリアリティをもって迫ってくる。


 ライヴの選曲は、新作に偏ることなく新旧満遍なくチョイスされている。新作発表に伴うツアーのはずなので、少し意外だ。しかし、これもきっと彼らの戦略なのだろう。アルバムを発表した年の翌年、彼らは精力的なツアーを行い、ライヴバンドとしてのステータスを揺るぎない絶対的なモノにしている。新作からの曲も、ツアーを重ねて行くに従って徐々に浸透して行くものと思われ、従って特に不安材料にはならないだろう。





 終盤はシリアスなテーマの『The Ghost Of Tom Joad』で彩られる。90'sは多くのアーティストがアンプラグドアルバムを作り、自らの立ち位置を確認することが多かったが、私が聴いた中ではスプリングスティーンの『The Ghost Of Tom Joad』とベックの『Mutations』だけがそうすることの説得力を保持している、と感じている。原曲の面影など影も形もない独自のアレンジと、メリハリのない曲調は一見して地味で物足りない。だがしかし、ブルース・スプリングスティーンが差別に対する想いを込めて作ったこの曲を、自分たちのステージで毎夜毎夜取り上げるレイジのアティテュードは素晴らしいし、こちらも身の引き締まる思いだ。


 ブルースチックなイントロと、それに添えられるザックの叫び。新たな何かのメッセージなのか。イントロはそのまま『Sleep Now In The Fire』へとつながれる。つい先日、来日記念盤としてシングルカットされたこの曲の日本編集盤が発売。PV撮影はニューヨークのウォール街で行われ、撮影場所について許可を取り切らないままの敢行だったため、監督が逮捕されてしまったというエピソードがある。これも彼らの挑戦か。私の中ではこのライヴの中で演奏、ステージアクションとも最も充実したように見え、ハイライトを迎えた瞬間だった。本編は『Freedom』でひとまず締めくくられる。















 怒号のような歓声が湧いては消え、を繰り返す中、メンバー生還。そしてアンコールだ。不覚にも曲をド忘れしてしまうが(後でネット上で調べてみて『War Within A Breath』だとわかりました)、新作からのナンバーである。相変わらず熱く、激しく、そして美しい。いよいよ最後の瞬間を迎えることになる。そして・・・、





 『Killing In The Name Of!!』場内大合唱だ。開場直後からモッシュピットの渦の中に身を投じていた私。ここまでずっと押し合いへし合いされて体の節々が痛く、TシャツもGパンも汗でびっしょり。顔面からも汗が噴き出し、コンタクトをしている目の中に何度も汗が入ってしまって目も痛い。ダイブやボディサーフもほとんど1分おきくらいに発生し、頭を蹴られること数知れず。しかし、それでもこの最後の瞬間に叫ばずにはいられない。最後の瞬間に拳を振り上げずにはいられないのだ。















 しかしそのクライマックスの瞬間、ザックはなんと中指を立て、「fuck!!」と言い放っていた。その表情からするに、明らかに怒っていた。















 全てが終わり、メンバー全員がステージ前に姿を見せ、右手を高々と掲げる。その姿はバックに映し出される右手を掲げる新作アルバムジャケと、"The Battle Of Tokyo"の文字にダブる。























 実は開演前、ちょっとしたゴタゴタがあった。私もその中にいたAブロックのステージ向かって右側のところだが、前座のときから押し合いになってとても危険な状態になっていたのだ。このレポートでブラッド・サースティ・ブッチャーズについてほとんど触れていないのは、私が柵に押しつけられてとても苦しく、なんとかライヴを楽しめるポジションを確保するのに必死になっていたため、彼らのライヴに意識を向けることがほとんどできなかったのだ。





 ブッチャーズとレイジの間の機材整備のとき、スタッフからオーディエンスに向けて押さないようにとの呼びかけが何度もされた。このため、レイジ登場は20分近くは遅れた格好になった。思えば、ライヴの出だしが「We are Rage Against The Machine...」ではなく、「motherfucker!!」だったことも、そしてラストのザックの中指立ても、ルールを守れない私たちに対するいらだちではなかったのだろうか。





 ライヴ自体は桁違いに凄かった。3度目にして初めて至近距離で観て、細かい彼らの動きやいでたちもチェックできた。前回のベックのときと同様、私は彼らが発するオーラの中にいたのだと思う。





 だけど同時に、ザックの一連の行動を目の当たりにして、少しすっきりしない気持ちも残ってしまった。明日以降の公演はきちんと成り立つのだろうか。更には、今回の来日公演で、彼らはメディアの取材を受けてくれるのだろうか、という不安がよぎった。




(2000.6.25.)































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