Fuji Rock Returns Vol.3 Beck / Iggy Popの衝撃







コステロが終わり、シートに引き返そうとするが、逆にステージに向かって来る人の方が多い。もうこの人たちはベックで頭がいっぱいなのだ。時代の寵児、幻となった昨年の雪辱、観客の期待は大きい。私は次のイギーのことを考慮してホワイトステージ側の方のCブロック前方で観ることにする。日差しも弱くなり、少しずつ空が薄暗くなる。ベックが姿を見せる。凄い歓声だ。そしていきなりのあのイントロ。そう、『Loser』だ!『俺は負け犬だ。どうしてみんな俺を殺さないんだ』という永遠のフレーズを合唱する。


曲が終わり、中断。Aブロック前方がかなり危険らしい。スタッフがステージ上から後ろに下がるよう呼びかける。それだけ待たれていたのだ、この人は。そして再開する。新曲も多かった。ファルセットでまるまる歌ってしまう曲もあり、まるでプリンスのようだ。なんかハワイアン調の曲もあって妙な感じだが、ノンジャンル、オールジャンルの音楽をまるごと呑み込んで自らのものにしてしまうベックならではでカッコいいと思った。早く新譜が聴きたい!ステージ前方の人たちはベックの新章をそのまま受け入れることができていたのだろうか。『The New Pollution』『Where It's At』ときて一度引っ込むが、アンコールに応えて『Devil's Haircut』を解き放つ。

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もうすっかり陽も落ちた。そして、生きながら伝説になってしまった男を観るためにホワイトステージに向かう。イギー・ポップは今年のフェスの私のメインだ。が、既に凄い人。ぜんぜん先に進めず、また規制して入れなくしているらしい。仕方なくBブロックの前方に落ち着く。だいたいイギーをこんな小さいところでやろうってのが間違いなのだ。不満たらたらである。そしてそしてそして、





 で、出て来たああああああああっ。




 イギーだああああああああっ。本物だあああああああああっ。




 上半身裸だ。黒い皮のパンツだ。腕を振り、腰を振り、飛びはねまくっている。もう最初からフルスロットルだ。やる気なのだ、この人は。




 『サーチ、サーチ、・・・』とうめくイギー。そして、『Search & Destroy』だああっ。かっこいい。この人はなんてかっこいいのだろう。感動だ。素晴らしい。もう信じられない。もう言葉が見つからない。ストゥージズ時代の曲のオンパレードだ。『Down On The Street』、そして『I Wanna Be Your Dog』!!!




うわああああああっ。伝説だ。伝説が再現しているううううううっ。あ、鮎川誠とシーナが目の前を通り過ぎていった。けど誰も気づいていない。気づいた私はまだ入り切っていないのか。しかし、とにかくこの曲は感動的だ。ソニックユースのビデオで、キム・ゴードンとサーストン・ムーアを両サイドに従えてのパフォーマンスはド迫力だった。それが今、目の前で繰り広げられているのだ。たった数分間のことだったのに、いろいろなドラマが渦巻いているように思った。そして、次が『Passenger』!もう、こんなとこで観ていられるかよ、となんとか柵から中へ入ろうとするが、要所に警備のお兄さんがいて、がっしと柵を押さえつけている。ああ、いらだつ。


 そして今やトップ・オブ・パンク、トップ・オブ・オルタナへと登り詰めた曲と言ってもいい『Lust For Life』のイントロが響く。ぎゃああああああああああっ。そして、そして、信じられないことが起こった。




ステージ上に観客がなだれ込んでいる!!!




 しかも20人以上はいる。みんな思いのままに踊ったり、イギーに抱きついている女のコもいたりする。




 このとき、私の中にずっと鬱屈していた何かが弾けた。




 柵の隙間を見つけてかいくぐり、ステージめがけて突進!!!




ステージがどんどん近づいてくる。もう少し、あと少しだ。いよいよ前3列目までたどり着く。うおおおおおおおおおっ、イギーだ。イギーが目の前だ。しかし、ステージ前は警備のデカい黒人アーミーが構えていて、ステージ上の客も次々に引きずり降ろされている。少し遅かったかあ。しかし、その場に居続けることにする。バンドのメンバーはなんかメタル兄ちゃんばっかりだ。しかし、その中でも最年長のはずのイギーが最も元気だ。腹筋がくっきり割れている。首筋に、腕に浮き出た血管をはっきり確認できる。この辺りはもう頭がパニックで何の曲をやったか覚えていない。しかし、凄い。凄まじすぎる。ステージの袖にはスタッフが見守っている。が、この人たちもノッている。楽しんでいる。イギーは誰にとってもヒーローなのだ。これがイギーだ。これがロックだ。





 大団円でイギーとバンドはステージを後にする。が、このとき私は見てしまった。




 イギーがよろめいて倒れそうになり、スタッフに抱きかかえられるようにして引っ込んで行くのを。




 ここにイギーのアーティストとしての魂を見た。ロッカーとしての生き様を見た。




 この人はいつだって、どこでだって、ずっと突っ走りっぱなしだったのだ。




 そして、すかさずアンコールで出て来た。着替えもしていない。汗もろくにふいていない。息だって切れたままだ。なのに出て来た。そして再び大爆発する。




 3曲演って、またよろめくようにして引っ込む。そしてまた出て来る。自分が真っ先に出て来て、お前らモタモタしてんじゃねー、とばかりに大きく腕を振ってバンドを呼ぶ。いったい、これでは何のためのインターバルなのかわからない。そして、誰もが知ってる曲のイントロが流れる。『Jonny B. Goode』!そして、『Louie Louie』だ!!




 「俺はいつもイノヴェイターだった。地図なんて、最初からなかったのさ。」インタビューに答えたイギーの言葉だ。イギーのアーティストとしての活動は、決して大ヒットに恵まれていたわけではない。今でこそパンクやオルタナのルーツたり得ているが、ずいぶん長い間異端の道を走り続けてきたはずだ。しかし、それでもこの人は立派なロックン・ロールの継承者だ。そのことを証明するこの2曲だ。




 これで終わった。そう思った。スタッフが機材のスイッチをoffにする。




 しかし・・・、




 出て来たっ。なんという人なのだ、この人は。この人はロックのことしか頭にないのではないか。切った機材のスイッチを再びonにさせる。そして再度の大爆発。もう、この夜は永遠だ。最後に選ばれた曲は『No Fun』だった。ズシリと心臓に響いた。そして、ステージ右の柱によじ登り、手を振って挨拶する。ここでイギーと最接近!!!もう目と鼻の先にイギーがいるううっ。




イギーの血管が切れるのが先か、それとも私たちの血管が切れるのが先か、というくらい凄まじいライヴだった。しかし、一番の衝撃はやはり、よろめき、スタッフに抱きかかえられながらバックステージに戻るイギーの姿だった。私は今まで120回以上のライヴを観たが、あのような人間の息使いがじかに伝わってくるようなシーンに出っくわしたのは初めてだ。そして、恐らく私は、今後も優れたライヴはいくつも観ることができるかもしれないが、あの衝撃を超えるシーンにはもうお目にかかれないのではないのか。

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満たされてグリーンステージのシートに戻る。友人はイギーを1曲だけ見てビョークのために先に戻っていた。シートに戻る頃、ちょうど花火が上がる。とても綺麗だ。こちらもちょうど本編が終わったぐらいらしい。一瞬の静寂がアンコールを求める拍手で破られる。まもなくビョーク再登場。純白のコスチューム。まるで天使か妖精だ。そこで流れたのは『Joga』のイントロ。やった。ラッキーだ。私はこの曲でブチのめされてビョークを聴く気になったので、せめてこの1曲が聴ければいい、と思っていたのだが、果たしてその通りになった。美しい。ステージは無数の閃光がまばゆいばかりに光っていた。その光を背中に浴びて歌うビョーク。壮大だ。グリーンステージが小宇宙と化した。イギーでずぶぬれになったパティ・スミスのTシャツを脱ぎながら、まるで別世界にでも連れて来られたかのような気持ちになった。

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(98.8.3.)
















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